PW02-魔法の世界⑫
結局、夕方過ぎに魔女は起きてきた。
「おや、本当に掃除したのかい。ご苦労さん。」
魔女は欠伸をしながら、伸びをする。
改めて魔女を見るとこの魔女は年齢がよく分からない。老婆には違いないのだが、70歳と言われても100歳と言われてもどちらも信じられそうだ。
「さて、労働には対価を払うのが決まりってもんさ…
アンタ等一冊ずつ好きな本を持っていきな。
魔女の本は特別だからね。」
「ところで、オレたちをここへ呼んだ理由って…?」
本をもらうよりも、この魔女の目的の方が気になった。
「あぁ…そうだったね」そう言うと、魔女は大鍋をかき混ぜ、机の乾いた草をを手で掴むと鍋の上で握りつぶし、パラパラと掘り込んだ。
「小僧、この鍋に魔力を込めてみな。」
カイは言われた通りにしてみる。
鍋に手をかざし、魔力を込める。
鍋の中には、どろっとした深緑の液体がはいっている。カイが魔力を込めだすと鍋の中身はグルグルと回り出した。
深緑だった液体は紫とピンクが混ざった色から赤になり、その後で青、黄色、薄い緑へと変わる。
そしてポンっと大きな泡が一つ弾け、鍋から黒い粒が大量に飛び出し空中を漂った。
鍋の中身は透明な液体になっている。
「…いいね」
魔女は満足気だ。
カイは上を見上げてる。森の中で魔女が見せた黒い光の粒だ。
魔女とカイが見つめている先をアオも見上げる。
何も見えない。
二人は一体何を見ているのだろうか。
「この黒いのは一体…」
「コイツはね、火、水、風、土の四大精霊以外の精霊だよ」
「ヒヒヒ…」と笑うと、魔女はまた話し始める。
「いろんな物ぶち込んで試してたらね、偶然見つけてね。
本当は魔力増強剤を作るつもりだったんだがね。
コイツは見えるヤツにしか見えないからね。
お嬢ちゃんは残念ながら、ダメだ。
まぁ、気にする事ないよ。
見えないヤツが殆どだ。
お嬢ちゃんは風に特性がある様だから、そっちを伸ばしゃいい。
小僧はイイね。
ちゃんとコイツ等の好きな魔力を使えてる。
私だって、こんなに大量にコイツ等を、呼び起こせられないよ。
嫉妬しちまうねぇ」
カイとアオが話に割って入る隙を与えず、魔女は捲し立てると最後にまた「ヒヒヒ」と笑った。
よほど今の状況に興奮している様だ。
「結局、コレは何なんです…?」
カイは話の隙をつき、やっと魔女に質問ができた。
「世界には、火と水、風、土。それ以外に、世界を作る物があるだろう?コイツ等はソレさ。」
魔女の目が怪しくひかる。
「闇と光さ」
「この歳になって、世界の真理に触れるとは、人生ってのは面白いねぇ!」
バッと魔女は両手を上げる。
黒い光の粒は激しく動き回りだした。
互いにぶつかり弾き飛ばされ、飛ばされた先でまたぶつかる。
幾度となく繰り返し部屋中に広がっていく。
魔女が目を見開いた、部屋の景色がグニャっと歪んだ。
次の瞬間、押しつぶされる様な重さが身体を襲う。
「あっ!ぐぅっ!」重さに耐え切れずアオが床に膝をつく。
「やめろ!」
何とか重さに耐えながら、カイが叫ぶ。
「おっと!つい興奮しちまったね。悪い、悪い。」
魔女が手を下ろすと、黒い光の粒と、身体にのしかかっていた重さが消え去った。
魔女がまた「ヒヒヒ」と笑う。
「世界はね、光と闇で出来てるのさ」
この世界の精霊は火、水、土、風とされている。
それぞれが協調し、世界を成している。
土と水で木が育ち、水の熱を風がうばって氷ができる。かと思えば、火に風が吹いて炎にかわる。火は風を巻き起こし、風は土を風化させる。
他にも工夫と知識で魔法は様々な広がりを見せる。
狼を撃退した、雷の魔法なんかがそうだ。
水と風で氷をつくり、さらに風でぶつかり合わせ、電気を発生させた。火で空気の濃度を変え、雷を通り道を誘導した。
しかし『光と闇の精霊』とは、初めて聞く言葉だった。
「小僧は知る権利…いや、義務があるね。
見る事ができるヤツには、知る義務があるんだ。
光は闇で闇は光さ。表裏なんだよ。
そして、コイツ等はソレを司る。
光と闇、コイツ等が起こす現象は……『重力』だ」
魔女はカイとアオの顔を覗き込む。
理解していようがいまいが、お構いなしだ。
「その先もあるがね…
そこから先を、知るには、まだ早いかね?」
魔女は勿体つける様に、部屋をゆっくりと歩く。
『光』『闇』『重力』
さっきのグニャっと歪んだ景色…
カイはふと頭をよぎった言葉を口にする。
「…時空」
魔女が足を止める。
その顔は驚きに満ちている。
カイには確信めいた予感があった。
闇と光の精霊で起こせる魔法の行きつく先は『時空』に関する何かだ。




