PW02-魔法の世界⑩
「アンタこれが見えるかい?」
グリンの森の魔女は、そう言うと、右手をだした。
アオには何も見えない。
しわしわに痩せたい掌があるだけだった。
「カイ…何かみえる?」
カイも魔女の掌を見つめる。
「黒い…光?」
カイはそう呟いて、自分の言っている事の矛盾に気づく。
黒は全ての光を吸収し、見えないから黒なのだ。黒が光るなんて事はありえない。
だが、老婆の掌の上で漂う粒は、黒にも関わらず光っている様に感じる。
魔女「ヒヒヒ」と笑う。
「いいね。アンタやっぱり面白いね。
コイツを光ってるなんて…見どころあるじゃないか」
「よし、来な。私の家に招待してやる。
…そこの小娘も、おまけでおいで」
そう言うと魔女は箒に跨り、フワッと浮き進み出した。
カイとアオは魔女について森の奥へと進んでいった。
森の奥には湖があり、水面には蓮が群生している。
月を写した湖は絵画の様な美しさがある。
そのほとりに、樹齢何百年経っているかわからない、立派な大木が生えていた。
大木の枝にツリーハウスがある。
どうやら魔女の家の様だ。
魔女は箒の高度をあげ、ウッドデッキへと降りる。
「アンタ等も上がっといで」
事もなさげに言うが、大木には梯子がかかっていない。
「どうやって上がればいい!?」
「飛んでおいで!
そんな程度もできないヤツは我が家に入る資格は無いよ!」
招いておいで勝手なものだとも思うが、風魔法で飛ぶなんて面白そうなので、やってみる事にした。
コツを先に掴んだのはカイだったが、アオもそれほど時間はかからずに身体を浮かせる事ができた。
魔女が乗っていた箒がヒントになった。
自分の身体も物として風魔法を掛ければいいのだ。
あとは魔力の出力のバランスだが『エアコン』程の繊細なコントロールは必要なかった。
「ヒヒヒ…
お嬢ちゃんの方も見込みあるね。」
ドアを開けると部屋の壁は棚で埋め尽くされ、本や瓶が所狭しと置かれている。
小屋の梁には何かの草や枝が束ねられ、逆さに吊るされてドライフラワーの様になっていた。
部屋の真ん中には、これまた魔女といった大鍋が置かれている。
大鍋の下だけ石畳になっていた。
「カイ…森の魔女って言ったら、かなり高度な魔法の使い手のはずよ』
この世界では一つの森に魔女が1人住み、森の管理や独自の魔法の研究を行っている。
森の魔女になれるのは、かなり高位の魔女であり、森の魔女になる事は名誉な事とされていた。
「そっちのカイとか言う小僧。誰に師事してた?
ん?雷の魔法を使うなら、ヴェルトのジィさん辺りかぃ?」
「オレは、特に誰の教えも受けてませんよ。」
「嘘を言っちゃいけないね。
誰の教えもなく、自然の理を理解できる訳がない。」
「ヒヒヒ」と笑うが、二人が真面目な顔をしているので魔女は真顔にもどる。
「こりゃ驚いた。…本当に独学かい!?」
「カイは、記憶喪失で、ここ数日より前の記憶が無いんです。」とアオが弁明してくれた。
グリンの魔女は腑に落ちないと言った顔をしていたが、それ以上追求される事は無かった。
外はもう、日が上り始めている。
「私は昼まで寝るから、アンタ等それまで好きにすごしな。
やる事なけりゃ、掃除でもしといてくれて構わないよ。」
「ただし…」そう言うと魔女は親指を立て、後ろに向けた。
指の先には扉がある。
「あそこの部屋は入るんじゃないよ。」




