PW02-魔法の世界⑨
大雀蜂を模した小型のロボットに、データを載せて飛ばす。
フォレス王国の近くに停泊している高速艇にいる世界管理機構の職員への連絡方法だ。
ジパングもそうだったが、こちらでもやはり通信機器の類は使用できなかった。
カイと長谷川は、この小型ロボット『Bee』を使って情報の共有を行なっていた。
廃屋にあった、仲間5人で撮った写真に、ペタが写っていた。
『Bee』にその画像データを載せてある。
世界管理機構で照合してくれるはずだ。
ペタと同期した人物がいるなら、長谷川がみつけてくれるだろう。
カイとアオはフォレス王国を西に進む。
ロッズ帝国へ向かう為だ。
同期では無く、本当に拉致された可能性もある。
国境には煉瓦で出来た高さ5メートルほど壁が、延々と続いている。
整備されて街道には関所がある。その周りを警備兵が巡回しているが、数は多く無い。
ツーマンセルの兵が、壁沿いを歩く。同じ場所に戻ってくるまで1時間はかかっている。
これなら大丈夫だろう。
「アオ…本当に…いいの?」
今回もアオは、ついて来ると言って聞かない。
半ば諦めてはいるが、念のために聞いてみる。
アオは少し膨れた顔を向けてくる。
やはり説得は無理そうだ。
カイは壁の前に立ち地面に手を当てる。
「土よ、崩れろ」
カイの手の周りから大きな穴が地面に空く。
できた穴を通り、難なくロッズ帝国への侵入に成功した。
簡単過ぎる気もするが、フォレス王国からロッズ帝国に密入国を試みる者など居ない。
普段から警戒が薄いのだ。
ロッズ帝国側も警備という警備はなかった。
魔法で開けた穴を塞ぐ。
穴から出た先は草原が続いている。
見晴らしがよいので巡回兵に気づかれかねない。
見渡すと草原の1キロほど先に森がある。
そこに一旦身を隠す事にした。
「これから…
取り敢えず森を目指す事になるんだけど…」
アオも流石にロッズの地理はわからない。
闇雲に森の中を進んでも迷うだけだろう。
日も暮れてきたので、今日は森で野営する事にした。
ウドノで多少の野営道具は準備して来た。
森の中の少しひらけた場所を見つけたので、小枝を集めて焚き火をたいた。
火の周りに石を積み、小さな鍋をおく。
「水は私がだすね。」
「水よ、湧き出よ。」
鍋の中が透き通った水で満たされた。
「よくよく、考えたら、魔法って凄いよね。
遭難しても、水不足で死ぬ事は無いもの。」
カイの腹の虫がグゥーッと鳴った。
「空腹は何ともならんけどね。」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
アオの家からもらって来た、豚の塩漬け肉と、中にチーズの入ったラビオリを鍋に入れ、塩で味を整える。
野営食にしては中々美味しい。
食事の後、カイは少し魔法を試してみる事にした。
何と無く、できそうなアイデアがある。
まず、身体の風の魔法で空気の膜をつくる。
膜の周りに火の魔法で少し熱を加える。
加減を間違えるとサウナの様に熱くなってしまうので注意が必要だ。
身体を纏う空気の膜が程よく温められ、快適な温度を保てる様になってきた。
だいぶ上手くできる様になったので、アオにも試してもらう事にした。
「カイ…コレすごい!」
夜になると少し肌寒かったが、今はとても快適だ。
カイの作った空気の膜が、程よい温度をたもってくれている。
アオにはとてもこんな繊細な調整はできそうも無かった。
カイはこの魔法を『エアコン』と名付けた。
ネーミングセンスは少し残念だ。
アオが眠ってから、カイは座禅を組み瞑想をした。
身体の中にある流れをより鮮明に感じられる。
身体の中に流れる魔力は、臍の下に溜まり常に全身に流れ出る。
その流れには、いくつかの経路がある様だ。循環する6本の経路までは感じ取れた。
もっと感覚を研ぎ澄ませば、細分化できそうだった。
ガサッと森の中から草を分ける音が聞こえた。
瞑想に集中しすぎたせいで、気付くのがおくれてしまった。
囲まれている。
この気配は人では無い。野獣の類だろう。
気配は十数体の気配にかこまれている。
森の中から現れたのは銀色の狼だった。
大きさはやはりカイの知ったいるものよりも大きく、虎と見間違えるほどだ。
寝ているアオを起こしたく無い。
丁度、考えていた魔法を試せそうだ。
カイは半径2メートルほどにドーム状空気の膜を展開した。
その周りに氷の小さな粒を無数につくる。
風魔法で氷の粒同士をぶつけ合い、帯電さる。
狼が三匹飛びかかってくる。
帯電した空気の膜に触れた瞬間、放電が起こり雷が狼達の身体を駆け巡った。
バリバリバリッ!!
予想していたよりも大きな音が鳴り響く。
大きな音がしてアオは目を覚ました。
「えっ!?何??」
周りに横たわる狼を見て驚くが、状況に理解が追いつかない。
他の狼たちは、雷に打たれた三匹を見て逃げていった。
「なんだい、助けてやろうかと思ったが、その必要は無かったね。」
おびえているアオに、事のあらましを説明しようとしたその時、空から声が聞こえた。
声の方を見上げると月を影に、箒にまたがった老婆がうかんでいる。
まさしく魔女の風貌だ。
「この電気の幕を解いておくれ。私しゃ、感電なんかゴメンだよ。」
魔女はゆっくりと下降するとカイ達の前に降り立った。
白く長い髪を後ろに流し、三つ編みで束ねている。
黒のローブに、ウッドボールのネックレスを下げ、その先には3センチ程の木の札がついていた。
「アンタ、その年で面白いね。
なかなか思いついて出来るもんじゃ無いよ」
「誰だ!?」
カイは腰に刺したシミターに手を掛ける。
「そんなに警戒しなくても、とって食べたりなんか、しやしないよ。
私はこの森、グリンの森の魔女さ」
魔女は「ヒヒヒ…」と笑った。




