PW02-魔法の世界❽
鯨が二回目の鳴き声を上げた日、パリで事件が起きていた。
「灯れ(アリュメ)!灯れ(アリュメ)!灯れ(アリュメ)灯っれぇ(アッリュメェ)っ!!」
そう叫ぶ少年の周りで、次々に普通科の生徒たちが燃え上がる。
フランスの高校であるリセに通う生徒が同級生達に火をつけてまわっている。
その火の付け方は不可解だった。
何も持っていないのに、少年が叫ぶと、少年の周りにいる生徒が燃え上がる。
「お前等が!お前等が悪いんだよ!
ボ…ボクの事いつもバカにしやがって!!」
少年は血走った目で周囲を睨みつける。
いつも、自分の事を虐めて来た奴らは燃やしてやった。今度はそれを止めなかった奴等も燃やしてやる。
傍観も同罪だ。
今まで、同級生達からバカにされて来た。自分もソレが仕方のない事だと思っていた。
勉強もスポーツも苦手で、取り柄と呼べる物は何もない。
だが、今日わかったのだ「自分が特別だ。」と。
神様から選ばれた側の人間なのだ。
その証拠に、ほら…「灯れ(アリュメ)!」そう叫ぶと簡単に燃えていく。
炎にやかれ、のたうち回る同級生達を見下ろす。
あんなに暴力で虐げて来た奴らが足元で転げ回っている。
とても良い気分だ。
少年が愉悦に浸っていると、一人の東洋人が目の前に現れた。
「何だお前!お前も燃やされたいか!」
「いゃいゃ、とんでもない。
私は、唯、貴方とお話がしたい。
その前に彼らの炎を消してあげて頂けないでしょうか?
死人がでますと、手続きが少々やっかいになる。」
「関係ない!誰もオレを止められない!」
「困りました。確かに私には貴方を止める力が、まだない…
あくまで私自身にはですが。」
そう言う男の横に、いつの間にか背の高い女がたっている。
黒いドレスに黒い髪。
「篠突く雨水」
女は艶やかな声を、吐息の様に発する。
東洋人達の周り以外に大粒の水が豪雨の様に降り注ぐが雨雲はない。
豪雨が炎を消していく。
「お前!…ボクが、ボクだけが特別だ!
やめろ!邪魔をするな!!」
少年は激昂する。
「フラム!!」
周りに炎の渦ができ、雨を蒸発させる。水分は蒸発し辺りは高温水蒸気で真っ白になった。
「これは酷い。大火傷だ。」
東洋人の男は熱で爛れた顔で、満足そうに笑いながら頷く。
「私は、君の敵ではないのです。
そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。
君がその気になれば、私なんてひとたまりも無いのですから…」
少年は体に空気の膜を作り、水蒸気から体を守った。
黒髪の女も空気の膜で体を覆っている。
火傷しながら笑う東洋人に背筋が寒くなる。
心臓は脈打つリズムを早め、身体の表面は冷たいのに芯は熱かった。
少年は目の前の東洋人に惹かれている。
おかしな魅力がこの男にはあった。
「失礼。ご挨拶がまだでした。」男は右手を差し出し握手を求める。
「初めまして。
私、鎧塚と申します。」




