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ホエイルホエル  作者: たろ
序幕

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3/91

CofU(PW-0)



「なるほど。

つまりそこは、節足動物たちが、砂の下に住まう世界だったという事ですね。」


黒いスーツの男は一人たたずみ喋っている。


男の周りには白い砂丘が広がっていた


 姿勢の良いスーツ男は白髪の混じったグレーの髪をツーブロックにし、ポマードで7対3の割合で整えている。

スーツはきれいにクリーニングされ、シャツも糊付けけされていた。

 胸ポケットにはネクタイと同じペイズリー柄のチーフが差し込まれており、履いている革靴もきれいに磨き上げられている。


とても砂丘の中にいるには、似つかわしくない風貌だ。


「松竹梅の活動はいつもユニークですね」


男は腰の後ろで手を組み、小さく肩を揺らしながら笑った。


「この1ヵ月の活動報告は以上になります。

砂漠の下で見つけた節足動物の種類は大小様々であり126種類です。

今後調査を続けることで、さらに数は増えると思われます。」


どこからともなく、女性の声が聞こえる。

その声は少し反響していた。


「わかりました。

引き続き調査を続けてください。

節足動物たちの体液から取れた成分で、新薬が開発できそうだと言うのは本当ですか?

Dr.ユウ」



「はい。

まだ研究段階ではありますが、節足動物たちのタンパク構成が、今まで確認したことない構成になっています。

細胞分裂の増殖を抑える効果が期待でき、悪性新生物に対しての何かしらのアプローチに役立つと考えています。」


スーツの男は顎髭を触りながら、満足そうに頷いた。


「では、いつものように活動報告と研究結果をデータにまとめて送ってください。

そうそう、松竹梅のお三方には、『活躍を期待している』と言っていたとお伝えください。」


「かしこまりました。長谷川室長。

…ただ、あの方達は自分たちを『松竹梅』と纏めて呼ばれる事を嫌っておられます。

今度お会いになる時は、その呼び方は控えてあげて下さい。」


「わかりました。留意しますね」


「それでは、失礼いたします。」



 1秒ほどすると、男の周りにあった砂丘は、上の方から消えて行き、机や椅子が置かれているオフィスが現れた。

 長谷川と呼ばれた男は、テーブルの上に置かれている。直径3センチ、薄さ5ミリほどの銀色の円盤の中心にあるボタンに指を当て、電源を切る。


『世界管理機構・調査室室長』


それが長谷川の肩書きだ。



 机の後ろの壁は一面ガラス張りになっており、白く濁っている。

 その前に立つと、長谷川はガラスを指先で「トントン」と軽く2回たたいた。

 すると濁っていたガラスは透明になり、外の景色が現れた。


高層ビルの40階にあたるその部屋から、長谷川は街を見わたす。


20年前、PW-03が同期した。


 はるかに進んだ科学技術を有していたその世界の技術を取り入れ、世界は更に発展した。


 眼下に広がるその景色は、長谷川が子供の頃アニメで見たような、近未来都市そのものだった。

 スカイツリーよりも高いビルが立ち並び、その隙間を縫うようにして道路が張り巡らされている。


道路を走る車にはタイヤがない。

エンジンで動く車はもうほとんど見られず、今はリニアモーターで動く車が主流となっている。


空飛ぶ鯨が現れて、30年。

初めて鯨が鳴いてから、29年。


 数年に一度しかなか鳴くことの無かった鯨は、最近だんだんと鳴くペースを早めている。


長谷川は目線を上にあげた。


空には半透明の鯨が泳いでいる。


29年前、鯨が鳴いたその日、世界はそのあり方をかえた。


 もう一つの世界。パラレルワールド【PW】がこの世界にあらわれた。


過去の選択、分岐点、その先を進んだ別の世界。


この世界と幾重にも重なり、隔絶された世界。


本来は交わる事の無い世界が交わり、同期した。


 宇宙から観測した地球の大きさは変わらないのに、世界の広さは拡張されていく。


物理学者曰く、四次元の歪みに起因しているらしい。


世界は一つに集約を始めている。


「モビーディック、世界をどこ導こうとしているんだ?」


長谷川は目を見開いた。

鯨がその口ゆっくりと開け始めている。


「バカな……早すぎる」



ブォオオオオッオオオオオオオオ



鯨が24度目の鳴き声をあげた。




角笛にも似た鳴き声が、世界中に響き渡って行く。






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