PW23-砂漠の世界
見渡す限り、砂の丘が連なっている。
砂は黄色よりも白に近く、照りつける日差しを反射させて地面はキラキラと光っていた。
なだらかな坂を砂埃を上げて、時速100キロで軍用バギーMRZR4が駆け上り、そして下る。
MRZR4の霞んだベージュの塗装は剥げ落ち、ところどころに見られる茶色いサビがその車体の年輪を思わせた。
見渡す限りの白い砂の世界に、車が一台走るだけである。
車には黒いボディスーツにガスマスクを着けた男女が
4人乗っていた。
「こんなオンボロしか使わせてもらえんて、オレら上から安ぅ見られてんなぁ」
後部座席に座ったヒョロっとした男が話し出した。
4人の右耳には小型のイヤホンが装着されている。
イヤホン越しから聞こえるその声色は、どこか楽しそうである。
「舌噛むぞ」
車を運転しているスキンヘッドの男が、背中越しにぶっきらぼうに嗜める。
2メートルは在るであろう筋肉質なその体を丸め、ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。
助手に座る女性は車体が激しく揺れるのを気にもせず、長い足と腕を組み、黙った周囲を見渡している。
黒く艶やかな長い髪を一つくくりにしたポニーテイルが風にたなびく。
「ほやけど、今回のディックちゃんはハズレやなぁ。ウメちゃんも、そない思わへんか?」
後部座席の男は、斜め前のポニーテイルの女性に声をかけるが、ウメと呼ばれたの女性は返事をしない。
それでもヒョロっとした男は構わず癖のある関西弁で喋り続けた。
「こんだけ走り回って、人っ子一人居りませんやん。
これ、もう、デスワールドで確定ちゃいます?
同期した言う人の報告もないし、今回の世界はハズレですて。」
「測定器の反応はどうだ?」
スキンヘッドの男が振り向き、関西弁の男の隣に座る小柄な女性に声をかけた。
「今のところ大気中に未知の細菌やウィルスは確認されていませんね。
大気の構成成分も我々のものと同じです。」
手元のタブレットを見ながらスキンヘッドの男の質問に答える。
右手に持つボールペンの様な機械をずっと胸の辺りにかかげている。その機械で大気の測定を行うのが彼女の役目だった。
「ほらぁ!ユウちゃんもそう言うてますやん。
もう調査ええんとちゃいますぅ。砂しかないのに、もう1週間も…
気ぃ狂ってしまいますって。」
ユウちゃんと呼ばれたその女性は、他の3人に比べて体の作りは華奢で、軍事用バギーに似つかわしくない。
ユウは研究員としこのチームに参加していた。
「マツ!黙って任務にあたれ。少なくとも後1週間は調査期間だ。」
スキンヘッドの男が、また背中越しに嗜めた。
次の瞬間、突如、大きな地響きと共に砂の地面が揺れ始めた。
砂が波打ち、車体はバランスを崩して横転した。
横転の瞬間、ウメは後部座先のユウを脇に抱え車体の外へ飛び降りていた。
横転した車の後方に二人は無事に着地し、ウメはユウを覆う様にして彼女を守る。
MRZR4は2回3回と転がり逆さを向いてとまった…かと思った次の瞬間、車体が上空に吹き飛び、その下から拳を突き上げたスキンヘッドの男が現れた。
車体を殴り上げたのだ。
元々筋肉が隆々としていたその体は一回り大きく怒張している。
「ウメはそのままユウを警護!マツ!臨戦体制をとれ!!」
スキンヘッドの男は波打つ砂の中心を睨みつけなが指示をだす。
「なんや!なんや!?やっとオモロなってきたなぁ!タケさん!」
マツはどうやって車体から出たのか、いつの間にか殴り飛ばされたMRZR4の上で蹲踞の姿勢を取っていた。
そこから両手を手前につけ背中を丸め、タケとよんだスキンヘッドの男と同じく、波打つ砂の中心を睨みつけたる。
その姿は、さながら天敵と対峙した時の猫の様である。
波打つ砂の中心が盛り上がり、10メートルに達したと思われた時、砂の中から巨大な百足の半身が現れた。
百足なのか定かではないが、目の前に現れたソレを彼らは百足と形容するのに何の違和感も無かった。
黒黒とした体は何節にも分かれ、その間から足が伸び、節と同じ数だけ連なる。
それら一つ一つがザワザワと蠢めいていた。
大きな牙が下顎から左右1本ずつ生えており、その奥に小さく鋭い牙が幾重にも連なるその口を高速で開閉するせいで、周囲にガチガチと音が鳴り響いた。
顔から伸びる二本の触覚は周囲の獲物を探すかの様にウネウネと動き回っている。
「タケさん良かったやん。オモロい報告書かけるで!
どうやら、ココは虫さんの王国みたいやで」
「違います!百足は昆虫ではありません!節足動物です!」
この状況に似つかわしく無い訂正を入れてくるユウに、ニヤニヤしながら「スンマセン」とマツが答える。
「ユウちゃん、もうこのマスク外してもエェか?
ちょっと、あの虫と遊ぶんに邪魔やねん。」
マツがわざと百足を虫と呼んだ事に気づき、ユウは少しムッとした。
「まだ外しちゃダメですよ。確かに外気は安全ですが、そこの節足動物の百足にどんなウィルスや毒があるかわかりませんから!」
「はぃはぃ、かしこまりましたぁ。
ほな、どうしますぅ?
ウメはユウちゃんの護衛やし…
タケさんかオレ、どちらで行きます?」
「オレが行こう」
タケが一歩前踏み出す。それ見てマツはニヤけていた口元をギュッと横に閉じた。
「タケさん…オレ…これだけはタケさんに伝えんとアカンと思って…」
いつものふざけた態度と違う、真剣なマツの態度にタケは少し驚き、斜め後ろを振り返りマツをみた。
「どうした…マツ」
「タケさん…
実は…
実はオレ…コレだけは…
コレだけは、どうしても伝えんとアカンと思て…
タケさんの頭に太陽が反射して、眩しぃてたまらんかったんです。」
「ブッ」
っとウメが吹き出し、気まずさを隠す為に咳払いをした。
少しの沈黙の後、タケの右腕が光ったかと思うと、次の瞬間、両刃の大斧が右手に握り締められている。
その大きさはタケの半身はあり、斧の刃には植物のつたの様な模様で装飾が施されて、陽の光を怪しく反射させている。
「マツ…覚悟はいいか?」
大百足に背を向け、その切先をマツに向ける。
「タケさん、相手がちゃうんちゃいます…?」
背中を向けた獲物に、大百足が飛びかかった。
「タケさん!後ろ!後ろ、来てますて!!」
マツの言葉を無視してしてタケは斧を振りかぶった。
その身体は更に大きく怒張して、二倍ほどに膨れ上がっている。
「フレア・インパクト」
振り下ろした斧の刃先が赤白く光り高熱を帯びる。その熱は更に温度を高め、景色を歪め、天高く火柱が巻き上がった。




