PW02-魔法の世界⑤
マータルからウドノの街には二日かかる。
往復で四日、情報を収集する日にちも考えれば最低でも1週間はかかるだろう。
活動資金は問題ない。
長谷川から純金をもたされている。
どこかで換金すれば半年はお金困らないだろう。
問題はアオだ。
捜索に付き合わせて、危険な目にあわせるかもしれない。
長期間外泊させて、アオの両親を心配させるわけにもいかない。
アオは家に置いていくつもりをしていた。
「嫌です。私も、行きます!」
予想に反して、アオは頑なに同行すると言って聞かなかった。
「ダメだ!
危ない事もあるかもしれない。
ここまで一緒に来てくれただけで十分だよ。」
「私は、自分の家に帰って来ただけです!」
アリオエとしては、そうなのだろうが…
「葵としては違うだろ!」
「違いません!」
アオがこんなに頑固だとは思わなかった。
青と緑の混ざった大きな瞳は、決意で満ちている。
カイでは説得できそうにない。
こう言う時は最終手段だ。
「嫁入り前の娘が、そんなのいかん!
オレはゆるさんぞ!」
カイは父親の力を借りる事にした。
案の定、アオの父は猛牛の様に怒っている。
「カイの事、知ってるかもしれない人が見つかったんだよ!
探しに行っちゃダメだなんて…
パパがそんなに薄情だなんて思わなかった!」
娘からの稀に見る反抗に、アオの父は少したじろぐが、ここで根負けて同行を許すわけには行かない。
カイも内心アオの父を応援する。
「誰も、カイ君の事をダメだなんて言ってないだろう!
アリオエが行くのが危ないと言ってるんだ!
それならワシがついて行く!
そうだ!それが良い!」
アオの父は妙案が出たとばかりに両手をたたく。
「パパ、農場はどうするの?」
アオの母の真っ当な意見に、アオの父とカイは「ぐぅ」と言葉につまった。
「アオも、もうすぐ二十歳の立派な成人よ?
自分の行動くらい、責任取れるわよね?」
「うん!」と、アオが力強くうなずく。
思わぬ援護射撃に、アオの父とカイは消沈する。
絞り出す様な声で「カイくん…娘を頼んだ…っ」と肩を叩かれた。
御両親に説得してもらう作戦は失敗におわった。
馬車に揺られて2日、二人はウドノに到着した。
ウドノは思ったよりも大きな街だった。
建築物は木造よりも煉瓦造りが多く、三階建てが多い。
アオもウドノには、数える程度しか来たことがない。
案内できるほどの土地勘は無かった。
メイン通りは人通りが多く、はぐれると見つけるのに苦労しそうだった。
なるべく近くを歩く様にした。
アオはワンピースーにスリットの入った服を着ている。バリアーというらしい。
襟や袖、スリットには白に近い金色で小さな花柄の刺繍があしらわれている。
動きやすそうな白のパンツを合わせていた。
高い位置で巻いた、幅の広い皮のベルトが更に脚を長くみせる。
彼女の動きに合わせて、柔らかく服がなびく。
カイから見ても、アオは綺麗だった。
そのせいでトラブルに巻き込まれないか心配になる。
マータルの食堂で、人が消えたと話していた男達によると、街の西側で、鍛冶屋の息子が姿を消したのだと言う。
街の西側は工房通りだった。
鍛冶屋の他に、革、ガラスなどの工房が並ぶ。
どの店にもショーウィンドウなど無いので、一軒一軒覗くしか無い。
数店からは「冷やかしに来るんじゃ無い!」と追い出された。
「息子が消えた鍛冶屋?
あぁ、それなら、フォルさんのところだ。
ほら、そこの角に店あんだろ?」
10軒目でやっと目的の情報を得られた。
「いらっしゃい…」
顎髭を伸ばしたずんぐりむっくりの店主が、カウンターにつまらなそうに座っている。
この店主がフォルらしい。
フォルはカイ達二人を見ると客では無いと判断した。
「ここは、アンタ等みたに若いのが遊びに来る処じゃねぇんだがね」
あからさまな態度は、職人気質がさせるものなのだろうか。
それとも息子が居なくなった事への不安の現れだろうか。
他の店でも似たような反応で追い出されそうになる。
しかし、ここでは追い出される訳には行かない。
「オレ、それなりに剣は使えるんです。
いくつか見ていっても良いですか?」
カイは剣を選びながら話を聞き出す事にした。
店主はフンと鼻を鳴らす。
「カイ、剣なんかつかえるの?」
少し不安そうにアオが聞いてくる。
「まぁ、無いよりはマシじゃ無い?」
「でも、そのせいで余計に危険になるかも…」
暴力は暴力を呼ぶ。
備えのつもりが、かえって危険な状況を呼び寄せる事もあるだろう。
カイ一人なら、大体の荒事は平気だ。
できればアオにはついてきてほしくなかった。
君に同じ様な心配をしてるんだけど…とカイは思った。
結局のところ似たもの同士だ。
鍛冶屋には様々な種類の剣や盾がおかれている。
流石に日本刀はない。
ジパングでの経験のせいか、剣には惹かれるものがある。
アオの心配もわかるが、何が起こるかわからない。
本当に何か買っておいた方が良いだろう。
長い剣は目立つ。
片手剣だがシミターが手に馴染んだ。
斬る動作に特化した刀身、重さもしっくりくる。
店主が、剣を持つカイに「何かしていたのか」と聞いて来た。
子供の遊びと見ていた鍛冶屋の親父だが、カイの刀を持つ姿が様になっている事に興味を持った様だ。
「鬼狩り」と言うわけにもいかず、「剣道を」と返したが、この国に剣道などと言う文化があるわけもなく、やはり変な顔をされた。
「ちょっと待ってろ…」
そう言うと店主は店の奥に下がり、シミターをもう一本持って来た。
「お前、コレ持ってみろ。」
店主に渡されたシミターは綺麗な刃をしている。
しかし一振りしてみると違和感がある。本当に微かではあるが、剣筋がブレた様に感じた。
刀身の鍛え方、鉄の密度のバランスが悪い。
ジパングで良刀に触れて来たカイだからわかる程度だろう。
「オレがもらうなら、そっちですかね。」
元々もっていたシミターを指差す。
この店主がカイに何を期待しているのか分からないが正直に答える。
「…そうか」
店主は黙って下を向く。
「なぁ、アンタ等、一つ頼まれちゃくれねぇか?
何、難しい事でも無いんだ。
ガキの使いみたいなモンだ…」
「息子に伝言を頼みてぇ」
カイとアオは顔を見合わせる。
息子は消えたのでは無かったのか。
「アイツ、オレの打った剣にケチつけて来やがって、カッとなって喧嘩になっちまったんだ。
そんで、出たけっ!て言ったらホントに出ていっちまいやがった!」
話をよく聞くと、フォルと息子は親子喧嘩の末、息子が家でをしたと言う事だった。
「あっ!」
カイは思い違いに気づく。
あのタイミングで、マータルの食堂にいた業者が同期した人の噂を知っているはずがない。
鯨が鳴いたのは、男達が2日かかる道のりを移動している最中だ。




