PW02-魔法の世界②
身体の中に何かが流れている。
臍の下あたりから流れ出る感覚だ。
液体でも無く気体でもない。血液やリンパ、呼吸とは違う物が、全身を循環している。
掌に意識を集中させると、掌に集まり流れ出て行く。
ソレを魔力と呼んだ。
流れ出た魔力の量に合わせて、光の粒が集まる。
そこに意図を加える事で魔法が発現する。
「吹け」や「灯れ」など口に出す事で、意図はより確実に作用しやすくなる。
集まる光の粒の色で、発現する魔法の種類が変わった。
発現させたい魔法を思い浮かべると自然とそれに合った光の粒が集まってきた。
光の粒の正体は解明されていない。
ただ、昔から『精霊』と呼んでいた。
カイは魔力をだすのをやめた。
掌に向かっていた流れは、また臍の下へと戻る。
火の玉はフッと消え去った。
何もない所から、風や火をだす。
まさしく魔法だった。
空想の中だけの出来事が、今まさに目の前で起こっている。
長谷川はドサっとソファに座り込んだ。
「私はね、子供の頃、小説を読むならSFよりもファンタジーが好きだったんですよ。」
まさか大人になってから、魔法を羨ましく思う日が来るとは思わなかった。
スマホが鳴る。
先程から、様々な機関と連絡をとっていた。
しかし、今は、仕事の話をする気になれなかった。
少しだけ、子供の頃の気持ちに浸りたい。
杖や姿を消すマント、魔法学園で魔法を学び、冒険する。そんな小説に夢中になった。
もしも魔法が使えたら……なんて空想はいつからしていないだろう。
今回も、世界の拡張は起こった。
しかし、規模が違う。
インド洋に、アフリカとEUを併せた程度の大きさの大陸が出現した。
ジパングでの出来事もあるので、不用意に干渉する事は避ける方針だ。
しかし、今回のパラレルワールドは、もしかしたら造船技術などが優れているかもしれない。
船に乗り、向こうから干渉してくるもしれないが…
『あの仮説』に基づくなら、その辺りは心配しなくても良いのだろう。
しかし、対策をしておく必要はある。
ジパングでは『あの仮説』通りになったが、今回もそうなるとは限らない。
改めて思う。
鯨とは何のだろう。
少なくと葵が同期している事は確実だった。
多分、向こうの記憶もあるだろう。
色々と情報を聞き出さなければならない。
そして、やはりカイは特別だ。
この二回、共同期している。
『あの仮説』が益々信憑性を帯びてくる。
いずれにしても、今回すぐにカイと葵が、世界管理機構に訪れてくれた事は光明だ。
何かと先手を打つ事ができる。
今回は鎧塚よりも、先んじて事を勧める必要がある。
だが、慎重に行わなければ…
またスマホが鳴る。
流石に対応しなければ不味いだろう。
「カイ君と本条さん。
私はもう暫く対応に追われそうです。
ですが、お二人の事は部下に任せられる事でもありません。
大変、申し訳ないのですが、今暫くこちらでお待ちいただけますか?」
カイと葵を部屋に残し、長谷川はどこかへ出て行った。
長谷川が居なくなると、葵が大きなため息を吐く。
ため息というよりも深呼吸にちかかった。
長谷川がいない事で、緊張が少しほぐれたのだろう。
「先輩、私、どうしちゃったんでしょう。
別の世界の私の記憶があって…
魔法も、当たり前に使えるし…
…でも使えるのって普通の事で…」
葵は「あーっ!もぅ!」と小さく叫びながら両手で顔を覆う。
葵はアリオエいう名前で、マータルと言う港街で暮らしていたのだと言う。
大陸には国が二つ存在していた。
一つがアリオエの住む、フォレス王国。もう一つがロッズ帝国だ。
二つの国は、現在冷戦中だそうだ。
葵とアリオエの二つの記憶の整理が、まだついていない様子で、言葉に出して整理して行く。
カイは知っている風を装い、話をあわせながら情報収集する。
偶然に、葵もアリオエも、どちらでもアオと言う愛称で呼ばれていたらしい。
「先輩。どちらの名前で呼ばれてもしっくり来ないので、アオでお願いします。」
現状を少しでも受け入れようとしているのだろう。
葵は手を膝の上でグッと握っている。
「うん。わかった。
オレも、カイでいいよ。」
呼び方がきまった所で、長谷川が戻ってきた。
「カイさん、葵さん。
お願いがあります…」
長谷川のお願いが何か、カイにはもう察しがついていた。




