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ホエイルホエル  作者: たろ
二幕

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永遠少年⑩


「カイせーんぱぁい!」


 中庭の石畳を、元気よく吉本(よしもと)(みやび)が駆け寄ってきた。

ショートカットを茶色く染めた髪がゆれている。

 フェスTシャツにジーパンとラフな格好は、彼女の活発な性格に馴染んでいる。


「ピアスあけたんすよ!

見てください!どうっすか?

良くないですか!?」


 雅を見ると、いつも子犬を連想してしまうのは、この人懐っこっさのせいだろう。


耳元にダイヤのピアスが光っていた。


「よくお父さんが許したね」


「そーなんすよ!

大学入ったら良いって言ってたのに、今度は二十歳(はたち)になるまでダメだって言うから、誕生日きて速攻であけてやりました!」



雅は、ジパングを共に過ごした吉本の娘だ。


去年の4月、吉本が雅を連れてやってきた。


「この春からカイ君の後輩になるんだ。

色々と面倒見てやってほしい。」


と紹介された。


 そう言えば、出会った頃に「娘が大学受験だ。」と言っていたのを思い出した。

 がっしりとした吉本に比べ、娘の雅は小柄だったが、人見知りしない所などは、吉本にそっくりだった。


それ以来、雅とは大学でよく話す様になった。



「はい、コレどうぞ。

誕生日プレゼント。」


カイはリュックから小袋を取り出した。


「なんすか?

開けていいんすか?」


 カイが「良いよ」と言う前に、雅は袋から小箱を取り出してあけていた。


待てができず、食事に飛びつく子犬の動画が重なる。


「なんすか!コレ!

ピアスじゃないすか!

めっちゃ可愛い!」


 雅のテンションが上がっているので、誕生日プレゼントのチョイスは間違っていなかったようだ。


 昨日、吉本から「娘がついにピアスを開けてしまった…」と落ち込んだ様子でメッセージが来ていた。


 ピアスくらい…と思うのだが、吉本の古風な考え方は『宮本』としての記憶に由来してるのだろうか。


 ピアスをあけたのなら、と思い昨日誕生日プレゼントに買いに行った。


 シルバーで縁取られ、中に小さなオパールが入っている。オパールは光の当たり方で、色や模様が変わってみえる。

 店員さんの説明によると「遊色効果」と言い、オパールの特徴らしい。


よく動き回る雅の耳元には合いそうだった。


 小さなダイヤが入っているデザインの物と迷ったが、被らなくてよかった。とホッとする。


「お父さんには、色々とお世話になってるしね。」


それを聞いて、雅は口を尖らせた。


「カイ先輩…そう言うとこは直した方がいいっすよ!」


 何故怒られたのか、今一つわからない。

とにかく子犬の尾を踏んだらしい。


「えーっ カワイイ!」


 いつの間に来たのか、本条(ほんじょう)(あおい)が雅の後ろから覗いていた。


「アオ!

コレいいでしょー!

カイ先輩にもらったんだー」


雅が、今しがたもらった誕生日プレゼントを、自慢げに見せびらかす。

今度は、フリスビーを持ち帰った子犬だ。犬種は豆柴だろうか。


 葵と雅は大学の同期で、選択制の受講もほぼ同じだった事もあり、仲がよかった。

 カイも雅とよく話すので、いつの間にか知り合いになっていた。


「先輩、私の誕生日は11月です!」


「あ…うん。わかった。」


こんなに直球でねだられると、断れない。


「ダメっすよ!

アオの事甘やかしたら!」


「だって、ミヤちゃんだけズルいじゃない。

先輩の誕生日には、ちゃんとお祝いしますからね!」


 葵は風で顔にかかった長い髪を耳にかけながら笑いかけた。

その姿がとても様になっていて、映画のワンシーンの様だった。


葵はハーフで父がフランス人なのだそうだ。


 すらっとした背丈はヒールを履くと、カイよりも高い。

名前と同じ色の大きな瞳が印象的だ。


雅と蒼は大学内でも、それなりに人気があった。


 カイの所属するゼミにも二人に憧れている者は多く、「飲み会を開いてくれ」とよく頼まれる。

が、吉本の恨みを買いなくないので、開催した事はない。



 目の前でじゃれ合う二人は子犬が遊んでいるようだった。

葵の犬種は…イタリアングレーハウンドだ。



 そろそろ午後の講義に行かなければ、と腰を上げた時だった。


ブォオオォオオッ


頭の奥まで揺らす様な音が鳴り響いた。


鯨が二度目の鳴き声をあげた。



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