永遠少年⑨
何事も無く、日々は過ぎていった。
相変わらず鯨は空を泳いでいる。
大学に通い出してから三度目の春が訪れた。
カイは大学の中庭に設置されたベンチに腰掛け、春風を感じていた。
一年目は単位が足らず、再履修をしなければいけないかと思っていたが、論文の提出で免れた。
世界管理機構が口利きしてくれた様だ。
受講予定の全てを論文提出するので、まとめるのはそれなりに大変だったが、高校の編入テストをしている時と同じで、学習内容は自然と理解できた。
年に二、三度、唐沢からジパングへの訪問要請が来た。
出席日数は、論文の提出で処理してくれるので問題ないが、少しズルをしている罪悪感はある。
ジパング訪問時の「知り合いへの連絡どうするか問題」も解決した。
世界管理機構はAIによる『自動返信アプリ』を作成したのだ。
アプリをオンにすると、カイに代わりに返信をしてくれる。
一度使ってみたが、カイがしそうな返答を見事に返していた。
更に驚いた事に、返信するタイミングまで完璧だった。
寝ているはずの時間や、受講している時間には返さない。緊急性が高そうな内容に優先して返す。
感心すると共に、少し怖い。
これからは顔を見て話さないと、文字だけで相手を信じられない。
ジパングは、世界に大きな変化をもたらした。
バッテリーだ。
唐沢がジパングから持ち帰った、結晶化した鬼の細胞『鬼晶石』を調べる中で、特筆すべき性質が二つ見つかった。
一つは、蓄電性を持つ事と、桁違いな容量だ。
二つめに、エネルギー還元率が300%を超えていた。
単4電池一本と同じ大きさの結晶なら、スマホを一晩の充電で1週間は使用する事ができる。
奇跡の結晶として、世界を騒がせたが、その出所は秘匿された。
結晶の元を知っているだけに、カイは少々複雑だった。
多分、鬼を絶滅させない事にしたのは、この為なのだ。
断空を使わせなかったのも、そうなのだろう。
断空では鬼結晶が造られない。
鎧塚は、こうなる事を予想していたのだろうか。
この三年間、結局、鎧塚と会う事はなかった。
何かと理由をつけ、面会を断り続けられた。
長谷川は鎧塚と連絡をとっているようだが、鬼来香の件については、特に何の回答も得られていない。
鬼来香を意図的に唐沢につけさせたのだとしたら、懲戒処分にもなりそうなものだが、鎧塚は着実にキャリアを積んでいた。
準備室はその役目を終え、代わりに『管理部』が立ち上がった。
鎧塚は管理部・統括と言う立場になったのだと、長谷川きら聞かされた。
長谷川もまた、昇進し調査室・課長になっていた。
そう言えば、唐沢は係長らしく、「年下の上司だ。」と愚痴っていたのを思い出した。
世界管理機構は、ジパングでの活動で確実に利益を得ている。だが、それだけが目的の様にも思えない。
カイの定期検診も相変わらず続いている。
最近では、脳波や心電図の測定、採血以外にもMRIの様な筒状の機械に入れられ、何かの測定が追加された。
MRIの様な、ゴウンゴウンと言う音はせず、無音の筒に小一時間寝かされている。
なんの検査か聞いても、毎回はぐらかされる。
長谷川からは「何か変わった事があれば、どんな些細な事でも報告して下さい。」と言われている。
その口調からは、どこか余裕の無さが感じられた。
これから起こる何かに備えようとしている。
カイには、そんな風に感じられた。




