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ホエイルホエル  作者: たろ
一幕

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PW01-刀と鬼の世界⑦



 『山田(やまだ) 花子(はなこ)』は日本での名前、『高嶺(たかみね) 沙耶(さや)』と言うのがジパングでの名前だそうだ。

 ちなみに吉本は『吉本(よしもと) (まさる)』で、ジパングでは『宮本(みやもと) (まさる)』なのだと言う。


 カイもジパングでの別の名前があった方が良いのでは、と考えたが、ボロがでそうなので、日本とジパングどちらでも『田中(たなか) カイ』で通すことにした。


 カイたちは沙耶の傷が治るまでの暫くの間、この井ノ口の宿に泊まる事になった。

その間、山田の事を沙耶と呼ぶ事にした。


 沙耶は井ノ口で生まれ育ったので、知り合いに会う事もあるだろう。


 そう決めた矢先、沙耶の両親が新入に連れられて宿までやってきた。


二人は沙耶を見るなり、涙を浮かべ抱きつく。

沙耶も二人に抱かれ泣き出した。


沙耶にとって、不思議な感覚だった。


 8月8日、鯨鳴き、突如として高嶺沙耶の記憶が自分の中に流れ、彼女がした経験が自分の物となった。


 今までした事もない剣術の稽古を「しなければいけない」と言う、衝動に駆られた。


スマホで近所の剣道場を調べて尋ねた。

 そこで初めて竹刀を握った筈なのに、しっかりと手に馴染んだ。


沙耶としての記憶が鮮明になっていく。


 刀の構え方、呼吸、足運び、どれも教わらなくても自然とできる。

気がつくと山田は道場主から一本を取っていた。


 『沙耶』は山田にとって、間違い無く自分自身だ。

しかし、主軸は山田花子なのだと思っていた。

 沙耶としての記憶は、どこか昔撮った自分の動画を見ている様な感覚に近かった。


 しかし、今目の前で涙を流す両親をみて溢れ出る感情は、間違い無く『沙耶』としてのものだった。

ジパングで自分を知る人と、出会ったせいだろうか。


山田花子から高嶺沙耶に傾向して行く。


沙耶としての人生はそんなに大した起伏はない。


 呉服屋を営む両親の元に生まれ、少しだけ裕福な暮らしをした。

 友達と剣術を習い、弟と妹との世話をし、時には喧嘩を、叱られもした。

 そんな何気ない記憶が、とても懐かしく感じ、沙耶は声を上げて泣いていた。



暫くして落ち着くと、沙耶の父が唐沢に詰め寄った。


「お前が沙耶をたぶらかしたんか!」


 普段、温厚な父親が突如起こり出したので沙耶は驚いた。沙耶以上に唐沢が目を丸くして驚いている。


「お…落ち着いて、ね?

落ち着いてください。

何か、ね、何か誤解がね、ある様です!」


唐沢の眉がよりハの時になる。

 両手を顔の横まで上げ、掌を表にして最大限に敵意がない事をアピールする。


「沙耶が急にいなくなるなんて、お前が沙耶をたぶらかして連れてったんだろ!

駆け落ちみたいな真似しやがって!」


沙耶の父は更に興奮しだした。


 どうやら唐沢と沙耶が恋仲になり、駆け落ちした。と思い込んでいる様だ。


沙耶は唐沢をみる。


 父に胸ぐらを掴まれ、あたふたしているビール腹の男…

鬼から命を助けてもらったが、この男な駆け落ちするぐらい惚れ込むと思われるのは不本意だ。


「アナタ、落ち着いて下さい。」


母が仲裁に入り、なんとか場が納まった。


 カイと吉本は部屋の隅でことの成り行きを見守る事にした。


変に話に入ると矛先が自分へ向きかねない。



沙耶は、傷が治るまで実家で過ごす事になった。


 傷が治った後、そのままジパングに残るのか、カイたちと行動を共にするのかは保留になった。


山田花子としての人生も日本にある。


「どうするかは自身の判断に委ねる」と唐沢の判断できまった。


唐沢には、聞かなければいけない事が沢山ある。

ここからが、長い夜になりそうだ。





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