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ホエイルホエル  作者: たろ
一幕

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PW01-刀と鬼の世界⑤


吉本と対峙している鬼は、ツノが二本あり、くすんだ赤色の肌をしていた。


 落とされた右腕からは、先程まで血が流れていたが、今はもう止まっている。

切り口の周りが硬化して、透明な水晶の結晶の様に変化していた。

 鬼は細胞破壊が起こると、防御作用として細胞が変質し、結晶化する事で止血を行う。

居合い抜きを受け止めた左の掌も、刀の跡が同様に透明な結晶に変化していた。


今度は打刀を抜き、中段に構える。


 膝の力を抜き、重心が崩れるギリギリで、踏み込む。「ダンッ‼︎」と言う大きな音と共に、吉本は瞬時に鬼との間合いを詰めた。


 日本で娘に薦められた、流行りの漫画に似た様な技がでてきた。

 その漫画のストーリーも、鬼を退治する冒険譚だった。

 その漫画では『宿地(しゅくち)』と呼ばれていたが、ジパングでは吉本が使ったこの移動法を『雷鳴歩法(らいめいほほう)』と呼んでいる。

 雷が鳴り響く様な音と共に、雷の様な速さで相手との間合いを詰めるので、そう名付けられたのだそうだ。


 中段に構えた切先を下に向け右下から左上に切り付ける。


 鬼は上体を後方へ逸らすが、切先は鬼の体を斜めに傷をつけた。


 振り抜いた刀を返し、今度は真下に切りつけた。

上体を後ろに逸らし一太刀目を避けたせいで、鬼は二の太刀に反応が間に合わない。


振り下ろした吉本の刀は、鬼を両断した。




 山田は稲の中で身をかがめていた。田圃の中へ転がり落ちた際、鬼は稲の中に身を潜めた。

 山田から鬼を確認する事ができないが、鬼からは山田の位置を把握されている。

 鬼の角はピット器官になっており、赤外線で相手の位置を把握することが出来る。


山田にとって不利な状況だ。


鬼は獲物を仕留める際、必ず接近してくる。

 懐に入られた際に打刀では対応が難しくなるかもしれない。


接近戦を考慮し、敢えて脇差を抜いて構えた。


 心臓の鼓動がやけに大きい。胸に巻いたサラシが窮屈に感じる。

戦闘向けの鬼の生態が少し羨ましく思えた。


耳を澄まし、鬼の出方を待つ。


鬼の断末魔がきこえる。


吉本か田中のどちらかが、鬼を倒したのだろう。


 右斜めから地面すれすれに身をかがめた鬼が、突進してきた。

接近戦を意識して脇差を選んだ事が仇となった。

リーチが足りず、鬼の鋭い爪が左ふくらはぎを捉える。


爪が深く食い込む。


「あぁ!ぐぅ」


痛みに声が漏れた。


 このまま痛みに意識を持っていかれては、鬼に急所を貫かれるだろう。

山田は唇を噛み締め、意識を保つ。


身体を捻り、倒れ込む先を鬼へとむける。


 脇差を下に向け、刃先に体重が乗る様に倒れ込む。

鬼の首元を狙ったが、鬼も山田の抵抗に気付き体を丸める。


脇差は鬼の右肩を貫いた。


「ギャアッ!」


今度は鬼が叫び声をあげ、左手で山田を払い飛ばす。


鬼と山田は1メートル程の間合いをとる。


 鬼の右肩に刺さった脇差の周りは硬化し、透明な結晶が刀を絡める様に出来上がる。


左ふくらはぎが拍動共にズキズキと痛む。

むしろ熱い。


左足に踏ん張りが効かない。

このままでは敗色が濃い。


 山田は打刀を抜き下段に構える。鬼が飛びかかって来たら、後の先を取り、勝ち切るつもりだ。


鬼も山田を睨みつけ、間合いを変えない。


空気が張り詰める。


パスンッ!


と、渇いた音がして鬼が側方へ倒れた。

山田は突然の出来事に目を見開き、音のした方を見た。


畦道に唐沢が仁王立ちしている。


手元には四角いサイレンサーのついたグロック17が握られていた。




カイの前にいる鬼はツノが3本あった。


 額の真ん中に15センチ程、その左右に少し短い10センチほどのツノが生えている。


2メートル程間合いを取り、カイと鬼は退治していた。


 鬼の目には輝きがなく、灰色に霞んでいる。

他の二体が赤味がかっていたのに対し、この鬼は青から黒に近い肌の色をしている。


カイは落ち着いていた。


 目の前の異形な生き物に、恐怖を感じない。

この状況よりも、自分の心情に驚いていた。


呼吸をする様に打刀を上段に構える。


ここから振り下ろしても刀は鬼に届かない。

だが、出来る気がする。


空切(からぎ)り」


刀の重さに従う様に振り下ろす。



鬼の身体が縦に半分に分かれ、左右に倒れた。



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