表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホエイルホエル  作者: たろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

PW01-刀と鬼の世界④


鬼は木の間から、覗く様にこちらを見ている。


警戒していると言うよりは、獲物を物色していると言う感じだ。


少なくとも三体は確認できる。

鬼は群れで行動しないと言う。

鬼来香が呼び寄せたのは明らかだ。



鬼の皮膚は硬化して、ひび割れている。

ひびの入り方は規則的で、大小の長く伸びた六角形が並ぶ。

関節付近は、ひび割れが細かくなっていて、関節の可動を邪魔しない様になっている、

皮膚の硬化に伴い、体毛はない。


外見からは雄と雌の区別はつかない。

雄の生殖器は、交尾や排尿の時以外体内に収められている。

雌も人間の女性の様な胸の膨らみは見られない。

妊娠すると膨らみだし、授乳期が終わるとしぼむ。


どちらも交戦の際に、邪魔にならない様になっているのだろう。と言うのが、調査班の結論だ。


鬼は、カイたちと老婆を見比べている。

どちらを襲い易いかは明らかだ。


一体の鬼が老婆に向けて走り出す。


老婆は短刀を胸元からとりだした。


ジパングでは女性の帯刀も認められている。

しかし、この短刀の意味合いは違う。


衰え、鬼と戦う体力が無くなった者は、打刀(うちがたな)と脇差しを子や弟子に譲る。

かわりにに短刀を一振持つのが習わしだった。


鬼に殺されると魂は極楽に行けず、地獄に行く事ができない。自ら命を断つ事で、誇りある死を選び、極楽へと向かう事ができる。

ジパングの人々に根付く、八百万信仰の考え方である。


短刀は自害する為の物だった。


「ダメだ!」


吉本が老婆の方走る。

それをきっかけに残りの二体の鬼も飛び出した。


まだ間に合う。

自分なら、鬼を倒す事ができる。

自害なんてする必要がない。


脳裏にジパングでの記憶が、走馬燈の様に流れる。


あの日は雪が降っていた。


吉本は家督を継ぎ幕府の警備の仕事にあたる『徒士(かち)』の職に就いていた。

主な仕事は京の都の巡邏だ。

吉本の生家は都の外れにあり、通勤には片道3時間はかかる。その為、寄宿舎に下宿をしていた。


正月、藩主たちが将軍に新年の挨拶に、各地から訪れる。吉本達、徒士は警備の仕事にあたる。

藩主の挨拶が落ち着くのが1月の終わり。

そこから、位の高い武士から順に休みを取る為、吉本がまとまった休みを取れたのは2月の中頃だった。


吉本は、遅れながら新年の挨拶をする為に実家に帰ら事にした。


父は吉本が12才の頃に鬼狩りで命をおとした。

その後、兄が家督を継ぎ、家を守ってくれていたのだが、吉本が23才の頃に流行病のコロリで他界した。

次男である吉本が家督を継ぐことになったのが、十年前の事である。


その日は2月だが、寒の戻りのせいで朝から冷え込み、夕方には雪が降り始めていた。

寄宿舎の仲間や、世話になっている町の人達に挨拶をしていた事もあり、吉本が実家に着いたのは夕方になる頃だった。


土産に母の好きな桜餅を買ってある。

夕食の後にでも二人で食べよう。

母ももう歳なので、そろそろ今後の事を真剣に考えないといけない。


子供の頃の見慣れた景色と、寒さが濃くなるにつれて、吉本の郷愁を誘う。


雪のせいで歩みも遅く、すっかり暗くなった頃に吉本は実家に着いた。



どうも様子がおかしい。


家の明かりがついておらず、夕方や風呂を炊いている筈の煙も上がっていない。


ザラっとした嫌な感覚が胸を撫でる。


玄関をあけ「お袋!」と叫ぶが返事がない。

下駄を揃えることもせず、室内へ駆け込む。

客間、仏間、寝室、どこにも居ない。


ただ、そこに母が暮らしたいた生活の匂いだけはあった。その匂いに鉄の臭いが混ざり込む。

台所の方からだ。


この廊下の先の引き戸を開ければ台所だ。

先までの勢いはなくなり、引き戸が鉄の様に冷たく重い。


覚悟を決めて戸を引く。


首から血を流した母が台所の土間に横たわっている。

血は黒く変色し、固まりはじめていた。


人参と牛蒡、土のついた生姜、桶に漬けた棒鱈が目に入る。

棒鱈の煮付けを作るつもりだったのだろう。

吉本の好物だ。


冷たくなった母の手元に短刀が転がっていた。




老婆と鬼の間に割って入ると、宮本は重心を低く構える。

打刀はまだ抜かず、柄に右手を添え、左手で鞘をを握り親指で鍔を少し押し出す。


鬼が間合いに入った瞬間、素早く抜刀する。

斬撃が鬼を捉えた。


ガキッンっと金属がぶつかる様な音が響く。


吉本の渾身の居合い抜きは鬼の右腕を切り飛ばしたが、左手で刀身を受け止められてしまった。

鬼は腕を切り落とされたにも関わらず、声ひとつあげない。


残りの二体が宮本に飛びかかる。

その二体を、カイと山田がそれぞれ受け止めた。


山田は鬼の勢いに押し負け、田圃の中に鬼と共に落ちた。

稲穂の背が高く、山田と鬼の姿を見失う。


カイは鬼の両手を刀身で受けとめ、腹を蹴り間合いを取る。



目の前の鬼を睨みつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ