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ホエイルホエル  作者: たろ


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PW01-刀と鬼の世界③


4人は畦道を進む。


右手には桜で桃色に染まった山肌が、左手の田圃には茶色く色づき実の重みで首を垂れた稲穂が一面に広がっている。

ジパングの桜は日本に酷似しているが、その生態は違っている。

日本では今は9月、稲は兎も角、桜の咲く時期ではない。


事前に渡された資料には、ジパングのソメイヨシノは万年桜と呼ばれ、冬の1月から2月頃以外はずっと花を咲かせている。と記載されていた。


先頭を唐沢が、そのすぐ後ろに吉本、山田、と続き最後をカイが歩く。


今目指しているのは『井ノ口』と呼ばれる宿場町だ。

ジパングは海外との接触はない。その為、電気は勿論、車など、近代文化は見られない。

移動は基本徒歩である。

馬や牛を使うと鬼に襲われる危険が高まる為、将軍や、大老位の地位にないと使用する事は無かった。



畦道の所々にはお地蔵様が祀られ、団子や握り飯が供えられている。

丁度、お供えに来た老婆と目が合い、カイ軽く会釈をした。


老婆は道の側に寄り、頭を下げる。

カイたちの服装は武士階級の物なので、侍に勘違いされた様だ。


少しばつが悪くなり、カイは目線を少し下げた。

先ほどから、お地蔵様がやたらと目にとまる。


仏教はインド発祥のはずなので、お地蔵様があると言う事は、記録に残らない様な昔には、海外との接触はあったのかもしれない。


などと考えていると、なんともタイミングよく吉本がその答えを教えてくれた。


「唐沢さん、お地蔵様多いでしょ。

不思議ですよね。お地蔵様。

ジパングには仏教は無いんですよ。

その代わり、八百万信仰と言うのがありましてね。

日本にもあるでしょ?

大切に使って物には魂が宿るってヤツです。

この国ではね、ソレがもう少し広義なんですよ。

空気や風、雨、自然の現象に至るまで神様がやどるんです。

その神様にお地蔵様を介してお願いする訳です。

『鬼が出ません様に』ってね。」


ひとしきり話した後、吉本は立ち止まり、苦笑いをした。


「なんでしょうね。この感覚。

何とも例えずらい。

私はここで暮らした事無いはずなんですよ。

なのに今みたいに、生まれてからここで過ごした記憶がある…

昔、お袋に『神様からもらった、食べ物に文句言ったら、地獄から魑魅魍魎がやってくるからね!』って叱られたんですよ。

お袋はこっちのお袋で、実際のお袋とは全然違って…

いやでも、こっちのお袋もこっちのお袋なんですよね…」


吉本は自分では出した言葉に混乱し、また苦笑いをした。


「何を言っているか分からなくなってきました。

その内、慣れてくるんでしょうか…」


「ねぇ?」と振り返り、山田とカイに質問を投げかけた。

吉本はカイも自分達と同様に、ここ、ジパングでの記憶があると思っている。

他の二人と違い、カイにジパングの記憶がない事は伏せる様にと、鎧塚から言われていた。


カイは取り敢えず「そうですね」と相槌を打つ。

山田は何も答えなかった。


事前にジパングについての資料には目を通してきたが、先の様な細かな所までの記載はなかった。

何かと気を付けないとボロがでそうだが、まぁその時はその時だ。


ふいに山田花子が唐沢に話しかけた。


「その匂い…」


唐沢から甘い香りが漂っている。

カイも、香水をきつくつけすぎだな。とは思っていたが、本人に言及するほどでは無かった。

山田は他人の匂いに言及する様なタイプに見えなかったので少々驚いた。


「これですか?

これ、ね、出発前に、頂いたんですよね。

鎧塚さんに、ね。

私、緊張しぃでしてね。

この匂いね、リラックス効果が、ね?あるそうなんです。

良い、ね、匂いでしょ?」


鎧塚が贈り物をするとは意外だと、カイは思った。

どちらかと言えば、調査室の事を嫌っている様子だったからだ。


「その匂い、良くないです。」


山田が唐沢に言い放つ。

「良い匂い」と言った相手に、すぐに「良くない」とは、なかなか図太い神経をしているのかもしれない。


「そ…そうですか?

わ、私は、

割と、好きなんですが…」


面と向かって否定の言葉を浴びせられ、唐沢は少なからず動揺している。


「あっ…

ごめんなさい。そう言う意味じゃないんです。」


山田が少し「しまった」と言う顔をする。


「そうじゃ無くて、その匂い…

キライコウの匂いによく似てて…」


その言葉をうけて、吉本が「あっ」と声をあげる。


「本当だ、何処かで嗅いだ事のある匂いだ思ったらキライコウだ!」


「キライコウって…なんですか、ね?」


唐沢が二人に尋ねる。

カイも一緒に訪ねたかったが、山田と吉本が知っていると言う事は、カイも知っていないといけないかもしれなので、黙って成り行きを見守った。


「鬼を呼び寄せるお香です。」


鬼が来る香いと書いて『鬼来香(キライコウ)』と読むそうだ。


「昔は『鬼狩り』をする習慣があって、鬼を呼び寄せる為にこのお香を焚いたんです。

ただ、鬼が集まりすぎて惨事になることもあって…

今は製造も禁止されている筈です。」


吉本の説明を聞きながら、唐沢の顔はどんどん青ざめて行く。




「ひぃいいいい!!!」


カイたちの後ろで、先ほどすれ違った老婆が腰を抜かし悲鳴をあげる。

その目線は山の木々に向けられていた。

カイたちはその視線の先を見る。


木々の間に何かが動いた。


雲が午後の日差しを遮っている。

木陰は薄暗く、よく見えないが、その動きは一つではない。


雲が流れ、陽がさす。



カイは、初めて鬼をみた。





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