PW01-刀と鬼の世界②
カイを入れて四名がジパングに訪れていた。
一人は世界管理機構・調査室所属の職員で唐沢俊明と言う30代の男性だった。
小太りで困った様に笑うその笑顔は、人の警戒心を緩ませる効果があった。
残りの二人のうち一人は女性で20代前半、もう一人は男性で50代位にみえた。
カイを含めた4人は、1時間ほど前に東京湾から小型クルーザーで出発し、先程ジパングへと上陸した。
クルーザーには、世界管理機構の職員が何名かスタンバイしていて、それぞれの身支度を手伝ってくれた。
乗船中は着替えなどの身支度に時間をとられたので、それぞれの自己紹介は、まだ行なっていなかった。
「我々はですね、これからおよそ半年ですね、ジパングで活動する事にね、なります。」
唐沢が全員に向けて話はじめる。
香水をつけているのか甘い香りを漂わせている。
「皆さんはですね、事前にお話しした通りですね、鬼の討伐にですね、あたってもらう訳ですけどもね、その前にですね、自己紹介を…ね、して頂こうかとね、思います。」
長谷川は独特のセンテンスで言葉を切る癖がある様だ。
50代の男「それでは…」と話し始める。
年の功と言うやつなのだろう。人前に立って話をする事に気後れしている様子はない。
背丈はカイと同じ170センチ位で割と引き締まった体付きをしている。
「私はヨシモトと申します。漢字は、占いの大吉、小吉のキチの字に、読書するホンで吉本です。
前職は医療機関の営業をしておりました。
年齢は51歳と、多分この中では一番年上なんじゃないかと思っています。
皆さん、敬語などは不要ですので、気兼ね無く声をかけてください。
よろしくお願いいたします。」
営業職だったからか、自分の苗字の漢字をわかる様に伝える流れに淀みがない。
何百、何千回と似た様な自己紹介を繰り返してきたのだろう。
次はカイが自己紹介を行なった。
「田中カイです。
この春から大学に通っています。
年は18です。
よろしくお願いします。」
吉本の自己紹介にならい、年齢と今の自分が何をしているのかを伝える。
それ以外に何を話せば良いかも、あまり分からない。
「田中君は大学生なんですね。
ウチの娘は来年、受験で。
因みにどこの大学ですか?」
吉本がカイに質問をなげかける。
話題を広げにかかるのも、営業技術の一つなのだろうか。
大学の名前を告げると「ストレートで、あそこに合格なんて凄いですね!」と驚く様にほめてくれた。
世界管理機構からの推薦なので、少し気まずい。
照れ笑いで誤魔化した。
最後は20代前半の女性の番だ。
一度でも口を開きかけ、逡巡する素振りを見せて口を閉じる。暫く沈黙した後、再度、口を開いた。
「…山田花子です。
年は23です。」
短い自己紹介を終える。
明らかに警戒しているのが見てとれた。
カイはジパングに来る前の鎧塚とのやり取りを思い出していた。
「いゃいゃいゃ、カイ君には当初のお話しを覆す様で大変申し訳ない。
勿論、断ってくれても構いません。
ただ、私としては受けて頂けると、大変有り難い。」
世界管理機構の研究フロアにある応接室で、カイは鎧塚と話をしていた。今から1ヶ月程前の事だ。
定期検診が終わった頃を見計らい、鎧塚がカイの元を訪れた。
相変わらずピエロの様な薄ら笑いだ。
「こちらにお越しいただく際に『検査するだけ』なんてお伝えしていたにも関わらず、こんなお願いをするのは大変心苦しいのです。ただ、これは、カイ君にとってもメリットのある話なんです。」
真剣を当たり前に持ち歩く様な国に行く事に何のメリットがあるのか…
ましてやそんな国に行く目的が『鬼の討伐』とは、益々デメリットしか無い。
カイは無言で鎧塚の話を聞く。
「カイ君の他に2名、ジパングに向かってもらいます。おっと、我々の職員も同行いたしますので3名ですね。
その2名は、8月8日にカイ君と同じ現象を体験した方々です。」
カイは鎧塚を見る。その視線をうけ、鎧塚は両手指先を小指から順につけははずし、微笑んでいる。
あの、自分では無い自分がした経験を感じた者が他にも居ると言う事だ…
「その2名は、更に興味深い事をおっしゃっています。
これはカイ君と大きく違う点でもあるのですのが…
その違いが何を意味するのか私たちも計りかねていまして。
一緒に行動していただく事で、カイ君にも何か新たな変化が生まれるんじゃ無いかと考えているんです。」
わざと焦らす様に話す鎧塚に苛立ち、カイは語気を強めた。
「どう言う事ですか」
鎧塚は満足そうに頷く。
「彼等には、あるんですよ。
過ごしたはずのないジパングでの記憶が…」




