永遠少年⑥
夜の浜辺で、カイは宏美と季節外れの花火をしていた。
夏に売れ残った花火を商店街の駄菓子屋のおばちゃんが「湿気る前に」と、くれたのだ。
繊細な話しをする時に線香花火をしたくなるのは何故だろう。
カイには花火をした記憶はなかったが、今の心情を宏美に相談しようと思った時、自然と線香花火を手にしていた。
「そらぁ、ゲンさんはショックらよ?」
機密保持同意書にサインしているので、世界管理機構の事は話せない。
宏美には遠縁の親戚が見つかり「一緒に東京で住まないか?」と言う事になり、ソレを受ける事にしたと。と説明している。
嘘をつく事になるが、それでも宏美に話しを聞いてもらいたかった。
「ゲンさん、カイの事めっちゃ大事にしてるの見とったら分かるよ?」
カイもその事は痛いほどわかっている。
カイは線香花火を見つめながら呟く様に話す。
「仏壇に、奥さんの写真があるんだ。
前に教えてくれた。
ゲンさんの奥さん、子供を産む時に亡くなったって。
…子供も助からなかったって。」
生まれてくる予定の子は女の子で名前は美しい海と書いて『ミウ』とするつもりだったと教えてくれた。
自分に海からとってカイとつけたゲンさんの気持ちが、カイの胸を熱くさせた。
「ゲンさんがオレの事、実の子みたいに思ってくれてる事は…わかってる。」
「だったら…」そう言いかけて、宏美はその先を言うのをやめる。
以前から、カイの気持ちを聞いていたからだ。
カイは東京への進学を希望していた。
だが、それ以上に『自分が何者なのか』ずっと悩んでいた事を、宏美は知っている。
カイは言わないが、東京に行きたいのは、その答えを探す手掛かりを見つけたいからなのではないか、と感じていた。
だから東京へ行くと決めたカイに、引き止める様な言葉をかける事も違うと思うのだ。
二人は、どちらが長く線香花火をもたせる事が出来るか。と言う定番の勝負をしながら、話の核心は話さないままにした。
カイにはその時間が心地よい。
記憶がないだけなら、多分、鎧塚からの提案は受けなかったと思う。
きっかけは誕生日のあの日、鯨が鳴いたからだ。
鯨が鳴いてから、自分の中に、今まで無かった感覚が流れ込んできた。
透明な水の中に、水溶性のインクを流し込んだ様に、明らかな異物が流れ込んで、拡散し、同化して行く。
その感覚が何なのか、次の日までわからなかった。
だが、次の日、竹刀を持った瞬間にハッキリとわかった。
昨日のあの感覚は、自分ではない自分の経験が流れ込んだのだ。
そして、そのキッカケが間違いなく、鯨が鳴いた事に関係してしているのだ…と。
だから、鎧塚達は明言こそしなかったが、剣道の上達の話題を振られた時、世界管理機構はその事に気がついているのだと確信した。
彼等の提案を受ける事で、答えに近づく事が出来ると言う予感があった。
ゲンさんにちゃんと話そう。
カイは、線香花火のパチパチと弾ける火花を見つめる。




