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43話-1 一人取り残されて

「レコメラ! 一体どこにいるのよっ!」


 敵陣営を森の方へ駆け抜けながら、大声で叫ぶも返事はない。生意気で腹立たしい精霊は一向に出て来ない。


 一体全体何が起きているのか。全くわけが分からないと意気消沈していたのに、私は今とても元気だ。


(もーっ! 意味わからない! ムカつく!)


 元気の理由はおそらくこの、怒り。


 レコメラには考えろと言われたが、こんな場所に1人残されてどうしたらいいというのか。その感情が私を支えるみたいに突き動かす。


(リュカのこともだけど、レコメラってやっぱり言わないのよね! 偽エルダーを見つけに行くって、ならどうしていなくなるわけ!? それだけじゃないならさ! 先にそう言ってよっ)


 いなくなった精霊の事は何かあったのかもしれないと心配もしている。彼は彼で色々と考えているのだろうことも想像できる。が、何しろ隠し事の前科が多すぎるのだ。


(今回も裏で別の事やってましたって言うなら、ほんとっ!)


 何度もちゃんと言ってと伝えた上で、これだ。一度ガツンと怒った方がいいかもしれない。考えながら、走る。


 方向は分からない。やみくもに走るだけだが、そうでもしないといられなかった。


 テントもキャンプもどこかしこも誰もいない。敵も味方もいないが、もし今襲われたらまずい。こうなったらもう、味方のいるだろう方へ向かうしかない。


(野戦病院の方なら確実にリュカがいる。エルダーさんも。こんなわけわからないとこに1人でいるよりずっといい!)


 夢の中なのに息が切れる。胸が詰まって苦しくなる。それでも走った。


(それにもし今ここで夢が巻き戻ったら、私一人敵のとこからスタートするかもしれないんでしょ!? いやだよそんなの!)


 と思いつつ、繰り返しの合図である3度目の魔法は発動する気配がない。それどころか儀式とやらが行われた形跡もない。


 敵陣営はどこもかしこも空っぽだ。


(こうなるといつ繰り返しがはじまるか分からない。はやくみんなと合流しないと‥‥っ。急げ、急げー!)


 あるのかも分からないタイムリミットに追われているつもりで駆け抜ける。


 敵陣営は若干の高台にあって、森まではゆるやかな下り坂になっていた。そのせいで走ると段々スピードが速くなっていくから、曲がり角のところで上手く減速しないと危ない。


 それにテント群は妙に乱雑で、置かれた資材の空箱なんか、来た時より乱れた配置になっている。


 跳ねたり跳んだり繰り返し、まるで反復横跳びだ。なにかのステップを踏むように空き箱やごみを避けていく。


 運動神経は悪くないはずが、こんなに上手くいくのはちょっと不思議だった。でもここは夢の中だから。


(呪いが記憶を引き継いでることも、偽エルダーさんを倒せば夢が終わるかもしれないことも、全部みんなに言わなきゃ)


 なにより、リュカを呪いから遠ざけないといけない。


(次に会ったら、きっと私もリュカも即殺されちゃうんだろうな‥‥)


 だとしたらどうやって倒せばいいのか。それも話し合いたい。とにかく今は、この状況を見聞きした情報を誰かと共有したくてたまらない。


「だって私一人じゃ、分かんないんだもん‥‥っ!」


 誰もいないことをいいことに大きな声で叫ぶ。同時に目の前の空箱を大きく跳躍してかわす。


 なんだかこれ、気持ちがいいかもと余裕が出た瞬間だった。着地した足首がぐりっと。


 バランスを崩す。


「う、えっ!?」


 足場にしたのは瓶か何かだ。くりっと捻った足首が、体をあらぬ方向へと導いていく。目の前はテント。

 そのぶ厚い布地が顔面に、そして全身を受け止め‥‥大きく跳ね返した。


「わっ!」


 全く可愛くない声を上げ、背中から地面に倒れる。テントのクッションがあったとはいえ、相当痛い。それに、恥ずかしい。


「うぁー‥‥。いったぁ‥‥」


 誰もいなくて本当によかった。そう思いながら目を開けると、晴れた空があった。


 雲もなくて、不気味なほどに清々しい光景。


 大声を出しても失敗しても、誰にも何も言われない。それは良いことだ。だけど、立ち上がる。


 ここはまだ敵の拠点の中心だ。人目がないからと調子に乗りかけてた心を引き締める。


(これからどうするか‥‥。今は思いつかないけど、リュカの直感とレコメラのヒントがあればきっとなにか思いつくよね)


 3人寄れば文殊の知恵。


 テント群はもうあと少しだ。その先には森。森の向こうには荒野の一部が見えた。そこが戦場で、その向こうの暗い空の下がきっと病院だ。


「戦争が終わったわけじゃない‥‥のよね」


 あまりの静けさにファリーをちゃんと殺せていたんじゃないかとほんの少し期待をしていた。けれど、そんなことはない。


 遠くの空に、黒い煙がいくつも見える。



・・・・・・

・・・・・・



 キャンプを抜けた森の前で、私は立ち尽くした。


「やばい、何も見えない‥‥」


 覗き込んだ森の奥は真っ暗で、リュカやレコメラの力を借りなければ進めなかったことを今更思い出す。


「そんなことも頭になかった‥‥!」


 うあー! と頭を抱えながら振り向く。ランプでもあれば行けるだろうかと考えるが、無理だろう。


(正しい方角なんて、わかる? コンパスとかあったら、できるのかな‥‥)


 授業で見たし、使い方は分かる。しかし自信はない。


 それに見た感じキャンプ内は本当にゴミしか残っていない。ランプもマッチもコンパスも気軽に見えるところには置かれていない。


(探す時間も惜しいし‥‥。どうせ進むなら直線も回り道も変わらないかな‥‥)


 アリッサムの上を進んだ時のように、戦場のぎりぎり手前を行けばなんとかなるかもしれない。


「リュカの呪術、多分まだ残ってるはずだし。うん。それなら、いけるよね」


 問題は目的地の位置だけど、さっき見た時こっちの方角だったよね、というのはなんとなく覚えている。森は低地にあるから戦場は見えないけれど、空高く上っていた煙はきっと近づけばわかるはずだ。


 キャンプから森の脇を続く道。そこを行くことにした。

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