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34話-2 呪いを殺せ

 先に部屋を出て行った2人を追いかけて私も部屋を出る。廊下の向こうで私を待つレコメラの姿が見えた。


 なんだかんだ人の出入りのある十字路の廊下を一瞬突っ切って、突き当り右の部屋の前で止まる。


 どうやらこの部屋の中に呪いがいるらしい。レコメラがテントを切り裂くのに使ったナイフをまた取り出して、鞘を抜き差し出して来る。


 いよいよだ、とナイフを両手で受けとると、さっきは軽かった鉄の塊が今はずっしりと手の平に食い込んでくるほど重たく感じられた。


「今、呪いは護衛もつけず部屋に1人きりです。あなた方は部屋に入り、呪いに近寄ってください。ナイフを対象の胸の前でかざし、両手で握ります。こんな風に」


 小さな声で早口に説明しつつ、レコメラは私の前に立った。体を反転し背中を向ける。ナイフを握る私の手を取り、自分の心臓の位置に持っていく。


 小さな手に導かれるまま両手でナイフを握ると、まるで背後から抱きしめるような格好になった。


 刃先を抱きしめている子の心臓に向けて。


「刃は真横にしてください。それなら肋骨にあたっても強く押し付ければ隙間から入りますから。怯まず臆せず、力を弱めず、ぐっといってくださいね。強く抱きしめるようにするんです」


 生々しい殺しの方法を伝授され、ナイフを持つ手が微かに震える。


「わかりましたか?」


 レコメラの声が少し遠いような気がして、聞こえた言葉の意味を理解するのが遅れた。


「‥‥わかりましたか?」

「‥‥っ、ん」


 なんとか頷くと、レコメラがするりと腕から抜けてった。自分に向けたナイフの切っ先は冷たく光っている。


(あー‥‥。だめだ。魚の比じゃない。頭がぼーっとする)


 視界の端がじわじわ白くなって、心臓がどきんどきんと強く打つ。意識が遠のいていく。


 緊張で揺れる視界の中、なんとか踏ん張っていると2人の声が聞こえてきた。遠く、だけど鮮明に。


「リュカの呪術のおかげで私たちの姿は見えていませんが、念のため私はここで見張りをします。2人でなんとかできますね?」

「ぼ、僕は何をすればいいの」

「リュカはチトセがしくじった時にカバーしてください。もしチトセが呪いを殺せなかったら、貴方がやるんです。できますね?」

「で、できるよ! 僕、できる! エルダーのためだもんっ」


 そのやり取りに、意識が戻る。視界がクリアになっていく。


(だめ。優しいリュカに人を殺させたりできない)


 そう思っていると、リュカがやってきた。


「チトセ、大丈夫。チトセが嫌なら、僕がやるから! ナイフ、ちょうだい」


 そう言って優しい子が手を伸ばしてくる。


 私の握る冷たい鉄の塊を、責任ごと自分に寄こせと言ってくる。


 渡したくなかった。


 リュカが首を傾げる。


「チトセ?」

「‥‥だめ」

「え?」


 お城で決めたの。

 リュカがついて来るって言った時、決めたの。


 リュカのことは死なせたくないし、彼が人を殺すなんてことにならないようにしたいって。そうするって。


 呪いは人じゃないけど、人間に見えるものをリュカが殺すところなんて見たくない。


 リュカにはずっと、誰かを思いやって優しい笑顔のままでいて欲しい。何かを殺すなんて残酷な事してほしくない。


(それが呪いだって人の形をしてるなら同じ。私がそれを見たくない)


 それでもリュカは手を引っ込めなかった。きっと、それくらい私が弱く見えているんだと思った。


「でも、チトセこわがってる。僕出来るよ。殺せる。だから、それ貸して」


 私の首を絞めた時みたいに、リュカはまた私のためにしたくもないことをしようとしてると思った。


(そんなの、だめなの。私だって、リュカを護れる。こういうことからは、護れる)


 手にしたナイフは重たく、鋭い。それをしっかり握りなおしてリュカから遠ざける。


「ううん。大丈夫。私、できるよ。ちゃんと、できる。やるから」


 大きく深呼吸する。


「リュカは、見てて。私の後ろに、いてくれるだけでいい」


 私がこれから殺すのは、人の形をした呪い。

 エルダーを殺そうとしている諸悪の根源。悪いやつ。敵なんだ。

 殺さないと、大切な人が傷つき悲しむことになる。


 やらないと、私が傷つくことになる。


 困惑した顔をするリュカが腕をゆっくりおろす。だけど視線は私の顔とナイフを行き来する。そっとナイフを体の後ろに隠した。


「チトセ、ほんとに大丈夫?」

「うん、大丈夫。‥‥行こう」

「‥‥わかった。けど、無理しちゃ嫌だよ」

「ありがと、リュカ」


 私を心配してくれるリュカの顔を見ると、なんだか緊張が和らいでいく。


「では、入ったら喋らずそっと、一息に‥‥ですよ」


 人差し指を立てるレコメラに見送られ、私たちは部屋の前に立った。出入り口に垂れ下がった重たい布を、音を立てないようそっとめくり上げ、暗い室内へと忍び込む。

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