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33話-2 大規模魔術と呪いの正体

 盛り上がる会場。ざわめきが目の前にある。


 私たちは今、大規模魔術が執り行われているキャンプ中心地、その会場の物陰に隠れている。隠れながら、魔術の様子を覗き見ている。


 急ぎ到着したものの、結論を言えば最初の魔法どころか、2回目も止めることができなかった。


 魔術が執り行われているキャンプの中心地に辿りついた時には、2匹目の使い魔が飛び立ってしまった後で、もう手遅れだったのだ。


 最初は2度目の魔法がこれから発動すると聞いたのでそれだけでも止められるかと思った。しかし、そのすぐ後に見えた巨大な光の球体は現れたと思った次の瞬間には姿を消していて、どうすることもできなかった。


 物怖じしない精霊が言うには、使い魔を飛ばした時には魔術詠唱は終わっており、精霊魔法の発動は一瞬。転送はあっという間なのだとか。


「夢だからか、ある程度手順が短縮されているようです」


 レコメラは淡々とそんな風に言うけど、これでチャンスはあと1回になってしまった。


 確か、1度目も2度目も、光を見た後私はしばらく気絶していたように思う。気が付いて、3回目を受けたのはどれくらいあとだったろう。


 目を覚ましてからは魔法までは時間がなかった気がするが、気絶していた時間を思えばまだ猶予はあるだろうか。


「レコメラ、早く呪いを探さないと。どこにいるの?」

「もうそろそろ見えますよ。ほら、あそこ」

「えっ、どこ」


 精霊の指さす先は魔術会場の奥。巨大な魔法陣が描かれた中心地の更に向こう側だ。


 壇上のようなものが設置されているそこに、白いローブを身に着けた人物が2人いて、親し気に抱き合っている。


「あの白いフードの人たちのうちの、どっちか?」

「そうです。背の低い方ですね。その横にいるのがこちらの陣営の指揮官兼魔術師です」

「って言っても、同じ服装なんだよね。あ、でも背の低い方は花飾りつけてる。‥‥女の人なのかな」


 その隣にいるのは先ほど2度目の魔法転送の時魔法陣に向かって両手を上げていた人だ。


「指揮官なんて偉そうな人とあんな風にしてるってことは、呪いが夢を操ってそういう立場になってるの? それとも、誰かに成り代わってるとか?」

「後者です」

「それ、暗殺なんかできるの」


 重要人物、しかも戦場。ならきっと護衛なんかがついているはずだ。

 その護衛を私とリュカで振り切れるものだろうか。リュカの呪術があればできるかもしれないが‥‥その後に待ち受ける展開に気が重くなる。


(どんな風に殺すことになるんだろ)


 森を抜けてからここまであまり時間が経っていない。一晩時間があるなら、寝ているところをブスリ! もできるだろうけど、そんな時間的余裕はない。


 レコメラが言うほど簡単にいかないと思う。


 何より、姿を目にして更に忌避感を覚えた。呪いとはいえ本当に人型をしている。普通に動いている。


(あれを本当に、殺すの? 私にできる? ‥‥きつい)


「泣き言考えてないで、行きますよ」

「も、もう!?」


 会場はキャンプ中の人で溢れかえっていて移動しにくいが、魔法陣を突っ切ってまっすぐ行けば呪いの目の前に出られる。だけど、心の準備がまだできてない。


(正面突破で今から暗殺に!?)


 第一何で殺すのだろうか。私は武器の1つも持っていないというのに。


「何を言ってるんですか。さっきも言いましたよね。真っすぐ目の前からなんて行くわけないじゃないですか」

「だ、だよね。よかったぁ‥‥」

「それに大規模魔術を連続発動して疲弊していると言っても、向こうには熱の精霊がついているんですよ。気づかれた瞬間、我々なんか一瞬で蒸発です」

「その精霊も偽物なの?」

「そう。でも、能力は同じです」


 偽物でもそんなに強いなら、こっちもそういう精霊を使えないのだろうかと考えるとレコメラは首を振った。無理らしい。


「なんでこっちはできないのよ」

「今はひとまず、行きますよ」

「え、どこへ?」


 物陰から出たレコメラの向こうで、指揮官と呪いが奥へ引っ込んでいくのが見える。


「あっ、2人がどこかへ行っちゃう。居なくなっちゃう!」


 するとレコメラがため息をついた。


「もういい加減に落ち着いてくださいません? 大規模魔術を連続して行使したので、疲弊していると言ったでしょう。今から少し休憩を挟むのですよ、彼ら。だから、この隙にテントの裏へ回ります」

「夢の中なのに疲れるの。しかも呪いなのに」


 さっきは手順を省略していると言っていたのに、妙なところで現実味があると言うか、なんというか。


「もちろん夢ですから、疲れ知らずでもいられますよ。でもそれではエルダーが絶望しません」

「じゃあ、エルダーさんが絶望するのを待つ時間が今ってこと?」

「そんなところでしょう」


 野戦病院で最後に死を願ったエルダーの事を思うと胸が痛んだ。


 会場を去っていく人ごみとは逆へ足早に進む。後ろを見るとリュカは黙ったままちゃんとついて来ていた。


 手を差し出しても、珍しく見えていないのか手を伸ばさない。


「リュカ、どうしたの?」

「‥‥! えっと‥‥ううん、なんでもない」


 はっとしたように顔を上げたが、やはり心ここにあらずという感じだ。手を出さない。


 いつもと明らかに様子が違うのだけど、本人が言わないなら大丈夫ということでいいだろうか。


「大丈夫?」

「うん、平気」


 困った顔をしながら頷く彼は、白いフードの2人が消えていったテントを見つめた。


 魔法を止められなかったからエルダーが心配なんだろう。一旦そうっとしておいた方がよさそうだ。


 そもそもエルダーを苦しめる呪いとは、一体なんなのだろう。一体どこから、いつから彼は呪われてしまったんだろうか。


「レコメラ。そもそもさ、呪いって何なの? どうしてゾンビに噛まれただけでこんなことになるの?」

「うーん‥‥。ゾンビに噛まれたからというわけでは‥‥」


 ちらりと振り返ったレコメラが迷うように唇を閉ざす。


「教えてよ。知ってるんでしょ?」

「まぁ、これは言わないといけませんかね」


 何かを諦めた様にレコメラは私の隣に移動した。


 人ごみはもう過ぎ去り、あたりは静かになりつつある。


「ずばり、ダンジョンの呪いなんですよ、これは」

「ダンジョンの、呪い?」


 精霊は頷いた。


「エルダーさんはいつその呪いにかかったの。ゾンビに噛まれるとゾンビになるらしいけど、それ?」


 噛まれた痕が黒くなって、それがこの呪いの正体なのだろうか。しかしレバネやザギ、団員達は痕を見ても大丈夫と言っていた。


 それにあれは聖水で進行が止まったはずだ。


「それとこれとは別です」

「別?」

「ゾンビにはもともと、傷をつけた相手を呪う特性があります。それにプラスしてダンジョンがこの呪いを与えている」

「‥‥ダンジョンに入ったらアウトってこと?」


 精霊は首を振り、押し黙った。


「ねぇ、レコメラ。勿体ぶらないで教えてよ」

「勿体ぶっているつもりはなかったんですが‥‥」


 何かを言い淀んでから、不敵に笑う。


「貴方が理解しやすいようゆっくり教えていたつもりなんですけどね」


 なんて言う。それから覚悟を決めた様に話し始めた。


「ここね、ダンジョン内に出現するすべての魔物、魔獣が死の呪い付与スキルを持っているんです。スキルって知りませんよね。分かりやすく言えば、どの魔物も死の呪いを相手に与えることができるってことです」

「すべてが?」


 だとしたら、それってとても厄介なことなのではとレコメラを見ると、精霊は少し疲れた顔をしながら先を行く。


「ダンジョンがって、なんで!? どうしてそんなことするの!?」

「ええ? ダンジョンが侵入者に優しい設計なわけないじゃないですか。捕食するかされるかの関係性ですよ」


 そういえば魔人から原っぱのダンジョンで似た話をされていたことを思い出した。


「そっか‥‥。でも、じゃあ、なんでエルダーさんだけ? ダンジョンがそうなら、皆その呪いにかかってるってことだよね? あっ! ‥‥時限性? 次々いなくなる的な? 私もかかってるの? リュカは気付かなかった?」


 振り返るが、リュカは「え?」という顔をする。まだ考え事が終わらないらしい。


「安心なさい。大丈夫。この呪いには発動条件がありますから」

「発動条件!? どんな?」


 するとレコメラはまた少し疲れた顔をした。


「ダンジョン内で怪我をすること。次に眠ること。この2つを満たさなければ発動しません。エルダー以外で、怪我をした者はいますか?」

「いない‥‥」

「なら平気です」

「あっ、でも、おじいちゃん!」

「‥‥眠りますか?」

「あ、そっか‥‥」


 レコメラはどこか疲弊した様子でふぅと息をつき立ち止まった。


「レコメラ‥‥? ごめん、説明しすぎて疲れさせちゃった‥‥?」

「ええ、そのようです。ですがこれは教えておいた方がいいことでしょうからね。大丈夫ですよ」


 メガネを直して、また精霊は歩き出す。


「エルダーのように怪我をし、眠らなければ発動しない。発動したとしても眠りの奥へ誘われ死ぬなんて、とても優しい呪いだとは思いませんか?」


 精霊はそう言ってにやりと笑った。その表情には疲れは見えず、ほっとする。


「呪いに優しいも何もないよ。それにこれ、悪夢でしょ」


 レコメラは振り返らずに「ですね」とだけ言った。


 悪夢の果てに死ぬだなんて、最悪の呪いだ。なおのこと、エルダーを早く起こさなければという気持ちになる。


 テントが見えて来た。

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