32話-1 精霊
暗い森の中をずんずんと先へ進んでいく記憶の精霊 レコメラの背中は小さい。
背丈は私と頭一つ分以上違って、10歳前後の子供のよう。しかし、彼が人ではないことを裏付けるように、その体はうっすらと光っていた。
暗い森の中をその光を頼りに私達は進んでいる。
黒い上着はポンチョ風の羽織のようで、大人用を着ているのかサイズが合っていないためローブに見えた。
その下にブレザーに似た制服を着ているところを見ると、学生かもしれない。
顔立ちは丸々していてあどけなく、笑うとますます幼く見える。可愛いな、小学生くらいかなと思って見ていたら、なぜかむすっと仏頂面になってしまった。
おじいちゃんが精霊を刺激するなと言っていたのを思い出す。もしここで不興をかったら、私の身に何かあれば、エルダーが危ない。
なんとか仲良くなれないかと思い、話題を探す。
「あの‥‥精霊って、人間の姿になれるんですね」
「いいえ。大精霊でもなければ無理です」
しかし、ぴしゃりと言い放たれてしまう。
「あ‥‥。そ、うですか‥‥」
やはり怒っているのだろうかと伺うと、精霊と目が合った。すぐ前を向いて行ってしまうが、背中越しに話は続く。
「この姿が気になりますか?」
「はい。‥‥あの、なんでかなって」
口調はこの通りだけど、細い体躯は頼りなく、この暗い森の中を先頭に立たせ歩かせるのは少なからぬ抵抗がある。
だけどこれはレコメラ自身が望んだ姿だ。
(私達と話すために姿を変えてくれたって言っていたけど、わざわざ選ぶってことは、何か意味があるのかな)
そんなことを考えながら草木をかき分け突き進むレコメラを見つめる。
「いいえ? 意味は特にありません。これは”レコメラ”。昔の‥‥知り合いです。よく見ていましたから、イメージを伝えやすかったんですよ。彼に」
「え? ‥‥あ、ああ」
精霊が指さす先にはリュカ。
なんだか今、精霊の答えに何か違和感があった気がするが、せっかく話ができているので会話を優先する。
「名前、同じなんですね」
「‥‥そうですね」
だけどそれっきり、また沈黙。
(私、なにか間違えたかな)
人と話すことに慣れてなさ過ぎて、相手が話を続けようとしてくれるタイプじゃないと続かない。次に何を切り出したらいいのか考える。
目的地、ルクスナの事、協力してくれる理由‥‥知りたいことは山ほどあるけど、今はまず目の前の精霊についてが知りたい。
魔人から与えられた精霊はこわいという知識だけが先行して、今の私は緊張が抜けきらないでいる。人から言われたことでレコメラ自身を見誤るのは嫌だし、それは失礼だとも思う。
(とは言っても、世間話をするような雰囲気でもそういう時でもないし)
レコメラは精霊だけあってか堂々としていて、けもの道ですらない茂みの中を平気で行く。草木をかき分け、枝をよけ、突き進んでいく。
むしろ私やリュカの方が跳ねっ返ってくる草木に怯み、遅いくらいだ。
だけど真っ暗の森の中では光るレコメラがかなり目立ち、少しくらい遅れても見失うことはない。
(豆電球の時より暗いけど、光源が大きい分安心感があるなぁ‥‥)
精霊時の光は小さく強めだったが、今は障子越しの明るさって感じ。
「豆電球? まぁ、なんでもいいですけど」
「‥‥えっ?」
今、私は口に出して言っていただろうか。言ってないはずだ。
(豆電球‥‥。もし、これで怒らせたりしたら‥‥)
めぐりめぐって、エルダーが食べられてしまう。とそう思った時前方からため息が聞こえた。
「あのですね、チトセ。その程度で怒りませんから。けど、その態度は不愉快です。変に機嫌を取ろうとせず普通に接してくれませんか」
「へ、‥‥あ、はい」
まただ。また、私は何も言っていないのにレコメラが‥‥。
(まるで、心を読まれているような‥‥)
おそるおそる光る後姿を見つめると、精霊は止まった。そして振り返り、呆れたように顔をしかめる。
「あのねぇ‥‥。私を誰と思っているんですか。記憶の精霊ですよ? 人の考えていることくらい分かるんですよ」
「‥‥へっ!?」
「ですから、変におべんちゃらを言うよりは素直に口に出してください。妙に勘ぐったりするくらいならひと思いに聞いてください」
ため息混じりの言葉と一緒に、レコメラが押さえていた枝を離す。弓なりにしなった細い枝が私の額をぺちんと叩いた。
痛くはないけど、びっくりする。
活動報告でも説明していますが、更新を不定期に切り替えます。
楽しみにしてくださっている方がいらっしゃいましたら、申し訳ございません。
また、ここから少し、書き方を変える挑戦をしています。
読みやすい伝わりやすい小説が書けるよう頑張ります。
今後ともよろしくお願いいたします。




