8話「惑星のシステムと商売のサイクル」
「育てて倒してレベルを上げるんですか」
「そう。対処法はわかっているし、定期的に魔石も手に入れられるだろ? マンドラゴラなんて4日ぐらいで育つからさ。お陰で鹿の魔物もひとりで担げるよ」
「魔物農家ですね」
「そうだね。他にあんまりいないみたいだけど」
「危険ですからね。魔物に襲われたりしないんですか」
「育てた魔物がマンドラゴラを掘り返して、絶叫を受けて気絶したりしていたよ。それは燻製して食べてるけど。討伐部位も魔石も手に入るし、何より骨粉が手に入る。内臓とかもミミズに与えてるし、いい循環システムが出来上がってるんだよな」
火吹草の種を畑の外の岩に苔と一緒に貼り付けて、マタンゴの菌株を日陰に置いて水を上げていたら、すっかり日が暮れてしまった。
帰すのも悪いからとキャスをタイニーハウスで泊まらせる。
「なんですか、この床は! やわらかい!」
マット自体が新鮮なようだ。
俺は本物の毛皮がこんなに温かいことの方が驚きだ。どれだけ寒くても大丈夫なんじゃないだろうか。動物は外で寝ているのだから当たり前だ。
「豚を飼ってる農家はレベルが高いわけではないのか」
タイニーハウスのドアを開けっ放しにしているので、椅子に座りながらキャスに聞いてみた。
「魔物じゃないので、レベルは上がりませんよ。解体スキルは上がると思いますけど」
ちゃんと動物と魔物が別種とされているのか。でも、土や空気には魔力は含まれているわけだ。人間にも魔力が流れている。
「動物と魔物の差は結晶化された魔石が体内にあるかどうか?」
「魔石があるのは確かに魔物ですね。えっと、どうなんだろう。邪悪なのが魔物だと思っていたんですけど、そう言われると何が分けてるんでしょうね。魔力が多いと病気になるものは動物ですね。植物だって魔力は流れていると思いますけど、森の植物のほとんどは魔物化してないじゃないですか」
「確かに。種としての異常性なのかな」
「ああ、そうかもしれません。同じ狼でも魔法を使う狼は魔物ですし」
「流動的というか、唐突に魔物化することはあるの?」
「ありますよ」
「人間も?」
「人間の場合は、死んだら魔物化する事例がありますね。グールとかスケルトンなんかも魔物の一種でしょうね」
「魔法の研究をしすぎて魔物化した魔法使いとかはいないの?」
「歴史上にはいるらしいですね。バカでしょう。でも、大抵の魔法使いは魔力が流れることを重視して賢者を目指すんだと思いますよ」
「そうか。魔力の運用方法を確立して、人々に影響を与えるほどの知恵を持つ人を賢者と呼ぶのか?」
「そうですね。そんな感じだと思います」
「魔王がいるってことは勇者もいるの?」
「います。精霊が選ぶとされていますけど、偽物ばっかり出てきますね。こんな話、面白いですか」
「面白いよ。魔力って宇宙でも特殊なエネルギーだからね。魔道具師なんて、特殊専門家だよ」
「そうなんだぁ。宇宙でも需要ないですかね」
もしかしたら王都に出るのも宇宙に出るのも、キャスにとってはそれほど変わらないのかも知れない。
「いや、魔力を観測したのが、この星で初めてだったから、もしかしたらこの銀河系では普通にあるエネルギーなのかも知れないんだけどね。少なくとも俺がいた銀河にはなかったんだ」
「銀河ってなんです?」
「星の集まりだね。占星術とかは流行ってないのか」
「あるにはありますけど、一部の人しか知らない技術ですね」
宇宙ははるか遠い。
翌日、育ったマンドラゴラを収穫して、魔石を取り出して、麻袋に詰め込んでいく。キャスにも手伝ってもらって、マンドラゴラと火吹草の討伐部位を出荷しに街へと向かった。
「また値崩れするんじゃないですか」
「それでもいいんだ。穀物さえ手に入れば、レベル自体は上がるわけだろ? どうやっても俺には利益が出る」
「確かに。しかもそのサイクルが回っている」
「それが商売だよ」
「そうすればいいのかぁ」
キャスは妙に納得していた。取引はどの世界でもそれほど変わらない。
冒険者ギルドで買い取ってもらい、酒場で朝食。いい値段がしたが、味はやはり美味しい。ただ、料理の種類が少ない。料理を増やすことだけでも、この世界でなら無双できるだろうか。
マンドラゴラやマタンゴによる毒薬の生成をすれば樽で取引できるが、そもそも大規模討伐依頼もないので需要がなかった。
冒険者ギルドの掲示板を見たが、植物の魔物が近場に出ている情報もない。魔物の農場チート計画は、あっさり市場から弾かれることになった。
「計画は暗礁に乗り上げましたか」
「いや、折り込み済だ」
定期的な現金とエネルギーを手に入ったことに変わりはない。
「キャスには作って欲しいものがある」
「なんですか」
俺はチェーンソーの図を描きながら、説明した。
「こんなもので何をするって言うんですか」
「トレントの伐採だ。できるか」
「回転軸が2つと刃付きチェーンですか。まぁ、魔石があればこれくらいはできると思うんですけど、時間は掛かりますよ」
「こちらも育つのに時間はかかると思う。一応、金は渡すからやってくれないか。鍛冶屋と協力して作ってくれ」
「収入源も知っているので、ゴーゾーさんが払えないってことはないでしょうけど、トレントなんて……。もしかしてトレントを育てて、材木を売るんですか」
「その通り。毒って魔物がいないと売り先がないけど、木材って建材にも家具にも使えるから、市場自体がなくなるってことがないんだよな」
宇宙農家からすると、森自体がチートだし、馬車で行けるような範囲に市場がある事が羨ましい。宇宙は移動だけで一ヶ月以上掛かり、その間の報酬はないなんてことはよくあることだ。しかも、魔物は魔力さえ与えれば急速に育つ。早世桐でも4年はかかるのに、トレントがどれくらいの早さで育つのか、実験が今から楽しみでしかない。
どれだけ失敗しても薪として売れる。
「やらない手はないよ」
「トレントの枝は魔法使いの杖にもなりますし、魔道具屋の間でも高値で取引されることがあります。幹だけでなく枝も使えるのでお忘れなく」
「わかった」
キャスには街でひと月は過ごせる銀貨を渡しておいた。ついでに情報収集もしてくれるという。憲兵はいい監視役を付けてくれたものだ。




