7話「魔物の倒し方」
「キノコだからジメジメした洞窟とかにいるのかな」
ゲームや動画でしか知識はない。
「この辺りだとトレントの倒木から発生すると聞きますけど……」
キャスは意外とものしりだし、自分の体力をわかっていた。ちゃんと必要のない魔道具は、操縦室兼タイニーハウスに置いていくという。
「変な家ですね」
「操縦室だからね」
「森の隠遁者を気取っていると?」
「森の宇宙人だ。気取ってるわけじゃなくて、こんな格好街にいると、何かと面倒だろ。洗濯樽もあるから古着を買うか」
新しい服は作らないとないらしい。毛皮や布を巻くしかないが、宇宙の服があるならそっちでいいだろう。
「目立てば商売になるじゃないですか」
「あんまり稼ぐと、同業他社からいい顔されないだろ? そういうしがらみより、畑でマンドラゴラを育てて、魔石を安定供給したりするほうがよほど街の人のためになる。しかも、魔物を安全に繁殖させてる奴なんていなさそうだしさ」
「いませんよ。マンドラゴラを育ててるんですか!?」
「まぁな。森で生活していると、害獣対策になるし便利なんだよ」
「マタンゴも育てるつもりですか」
「わからない。金になるかどうかじゃないか。トレントの木とマタンゴの菌糸が手に入れば、試してみようかなとは思うけど」
「魔物を増やすなんて魔王じゃないですか」
「いや、たぶんこの惑星の古代人もやっていたと思うよ」
「なんでわかるんですか」
「これだけエネルギー効率がいい魔石の文明がないとおかしいから」
「ここが辺鄙な場所だからじゃないですか。王都の方は魔道具づくりが盛んだと聞いてますから」
「キャスは王都に行かないのか。魔道具の工房にいたくらいだから仕事はあるだろ?」
「行きません。人が怖いので」
どうやら前に渾身の一品を作って飾っていたら、旅の商人に「王都で紹介してやる」と言われて持っていかれ、そのまま何年も音沙汰がないらしい。
「騙される方が悪いんですよね」
「いや、騙すほうが悪いんじゃないか。それは。諦めずにその商人を探し出して、潰したらいい」
「え? ……でも、いいんです。あんな魔道具を褒められて調子に乗っていただけで、普通にその後いい魔道具がたくさんできましたから。それに、私、作るのは好きなんですけど、売るのは得意じゃないんですよね」
ネットがないから商品を出すところも限られているのだろう。
「無人販売でもやればいいんじゃない?」
「そんな、無料で提供するようなものじゃないですか」
「そうとも限らない。ナンバーリングしておけばいい。あと、呪いで縛ったりできないかな。実際、魔力ってどこまでできるの?」
「呪いですか。考えたことがなかったけど、鍵を付けるってことですよね? できるかも知れない。あ、こっちです。その小さい滝を登ったところ」
小さな滝がある崖を登ると、目の前に見上げるほど高い崖が出てきた。その下に。巨大な木が倒れていて、周辺に動物の姿が見える。マタンゴはその動物に紛れて、動いていた。
「あれは、何をやってるんだ?」
「たぶん、ゴミを食べてるんだと思うんですよね。キノコだし」
森の分解者か。
「別にトレントの倒木じゃなくて、巨木ならいいのかな」
「魔力が内包された木じゃないとあそこまで大きくならないんじゃないですかね」
「適当に焼いて倒そうと思ってたんだけど、難しそうだな。再生されたらどうしようもない。火吹草の生息域はこの崖の上だったっけ?」
冒険者で見た生息域は近かった気がする。
「そうかも知れませんね」
登れそうな箇所を探して、遠回りする。無理に崖を登るようなことはしないと言ったら、キャスは驚いていた。
「身体能力を誇示するのが男だと思ってました」
「どういう文化なんだ。家父長制みたいなこと?」
「え? なんです?」
「ああ、えっと家族についての構造とか教えてもらってもいいか」
構造主義に習って聞いてみたら、一夫一妻制ではあるが、家長は強いとのこと。ただ、家族の資産運用は資本主義が適用されていて、家族の中で一番稼ぐ者についていく慣習があるとか。そこは、男女差はなし。ただ、農家に関しては場所によって収穫量も決まってくるため、作物の品種については地主や貴族が選定して植え付けが行われるとか。
「私は職人家系だから、複雑なことはよくわかりませんけど、そのはずです」
「いや、結構わかったことが多い」
俺はクローンだけどエラーだからオリジナルではないが誰かの所有物ではないみたいな論争を未だに続けていたから、権力の搾取構造はどの世界でもわかりにくくなっているのだろう。
「ここから登れそうだな」
「荷物を置いていってよかったですよ」
崖を登ると、遠目からでも火を吹いている大きな草が見えた。小型犬くらいのサイズだろうか。周辺には綿毛を付けた種を飛ばす火吹草もいるようだ。要は、炎によって上昇気流を作り出して、種を遠くへ拡散しようとする戦略のようだ。
「植物はちゃんと戦略がある所がいいよな」
「そうなんですか」
「そうだ。これを使おう」
冷たい風が吹く魔道具を遠くから火吹草に当てる。徐々に吹き出す炎の量がみるみる減っていった。結局、火を吹かなくなり、花片が下を向いたのを見て、俺たちは近づいた。身体が冷えると動きが悪くなるのは動物も植物も同じなようだ。しかも花を支えている茎が太いわけでもない。
種の付いた火吹草を刈り取り、地面の岩肌に付いた苔を採取しておく。火吹草は重い体を支えるために根を動かして岩に張り付ける様になっていた。俺も電子書籍の図鑑でしか見たことがないような種類の植物だ。苔は水分を溜めておくタンクのような役割を担っていて、共生しているのだろう。
「畑で育つのかな」
「歩き出しちゃうんじゃないですかね」
ギルド職員には強いと驚かされていた火吹草だが、冷やせばそれほど強敵ではなさそうだ。10体ほど倒して、茎の根元にある魔石を回収する。
「冷風機が対火吹草専用の武器になるって知られてないですよ」
「冒険者に売れば、初期費用がかかるってだけだ」
もちろん、遠くの火吹草はこちらに向かって火を吹いてくるし、花片を使って攻撃してくるが、近くの冷えた火吹草は動きも遅いし、ナイフで倒せるレベルだ。使役しようかとも思ったが、やはり脳がないので複雑な指示は出せなかった。
「落とし穴の中で火吹草を育てて、マタンゴを焼く計画だったんだけどダメかな」
「長期計画だったんですね」
そもそも火吹草は日当たりのいい場所を好むようなので、穴の中では育てられそうにない。
マタンゴは松明で炙り続ければいいとのこと。
「足が短いので、逃げ足も遅いので」
「なんか炎が出る剣とか持ってないの?」
「肉を中まで焼ける串はありますけど、こんな微妙な魔道具で倒すんですか」
「うん。後は毒の胞子に気をつければいい」
熱の串は小さな魔石を入れるソケットが付いていて、しばらく使っていると持ち手まで熱くなるため、キャスは「どうして作ったのか自分でもわからないんですよね」と言っていた。
ただ、マタンゴには効果抜群で、面白いようにキノコの身体がばらばらになっていく。逃げていくマタンゴは放っておいて、トレントの倒木に付いている菌株を麻袋に詰めて持って帰った。




