6話「魔石の文明度」
街道を歩いているときも、藪をかき分けて森を進んでいるときも、ずっと考えていた。畑に魔石の粉を撒いたが、それ以上にマンドラゴラの魔石は大きくなっていた。つまり植物の魔物を育てることで、その土地の魔力を収集できるのではないか。石炭よりも効率の良い燃料があるなら、魔石の文明ができていないことの方がおかしい。でも、キャスの魔道具はそれほど売れていなかった。
「文明として接続性が足りていないな。商売が下手なのか」
我が家ことタイニーハウスに戻ってみると、鹿の魔物が畑の真ん中で倒れていた。どうやら落とし穴を飛び越えて若いマンドラゴラを掘り返したようだ。
「罠畑を作ってるわけじゃないんだけどなぁ」
俺は耳栓をしてから畑に入り、鹿の死体を担ぎ上げて近くの川へと向かった。そもそも鹿を担ぎ上げられていること自体、体重差を考えるとおかしい。まだ温かい鹿の首を切り、血を流す。周囲に毒肉も仕掛けておいた。
荒れた畑を修復して、育ちきらなかったマンドラゴラを潰していく。それでも魔石だけは中に残っている個体もあった。危険性さえわかれば、それほどリスクのある農法とも思えない。
「単純に田舎で魔物を育てるという手法そのものが発展していないんじゃないか。もしくは事故が多発するとか」
耳栓を外してAIに聞くと、妥当性のあることを言っていた。
「でも、リスク管理さえできればできそうなのにね。これだけ早熟であれば錬金術師とかが試してないのかな」
「魔物を育てるのはよほどリスクになるんじゃないか。まだ見えていないリスクがあるかも知れないぞ」
「確かに」
大熊や狼の群れが来たら、あっさり潰されるだろう。そう考えると、落とし穴と木製のスパイク罠を日が暮れるまで作ってしまう。不安の分だけ罠は増えていく。
宇宙生活からすれば、木材を炭素にもせず、これだけふんだんに使えるというのは魅力的だ。
「薬草も毒消し草も採っておいたほうがいいよな」
薬も高い医療費を払うことなく、現地で調達できる。輸送ポッドと通信機器があれば、アホみたいに稼げるんじゃないかと思ったが、そもそも太陽系から離れすぎているので、近場の宇宙に客がいない。ただ、この新しい魔力というエネルギーはどれぐらい効率がいいんだろうか。
「街の照明とかには魔石を使ってるんだよな」
「夜間は保つほどの明かりか。マンドラゴラの成長を考えるとエネルギー効率は高いよ」
「そうだよな。そう言えば、テイムスキルを取得したんだよ」
そう言って、自動耕作者ことミミズに使ってみた。当たり前だが、脳もなくいうことを聞くことはなかったが、ある程度、畑の範囲くらいまでを耕してほしいことは伝えておいた。
「これ、魔石も取り込んでるのかな」
俺は土を採取し、粒度を見ながらミミズの糞を確認。中に魔石がキラリと光るのが見えた。
「魔力濃度の分配もできるってことだよね。いやぁ、ミミズも半分チートだよな」
「宇宙農家からすればね」
「いや、でも魔力文明じゃなくても魔法文明くらいは過去にあったんじゃないかな」
「その可能性はあるね。地球だって何度も文明が崩壊していったわけだからな」
「この文明がこの星の最適解かというとそうでもないような気がするよ。辺鄙な場所だからかな。中央政府とか行ったら違うか。ドローン直してみるか」
「ここの重力だと飛ばないんじゃないか」
「魔石で動くドローンがあるといいんだけど……」
AIと話しながら平たいパンを作り、鹿肉と一緒に焼いて食べた。携帯食にはない焦げ臭さや脂があって、美味い。
鹿の魔物が死んでいた事もあって、寝る時は耳栓を付けることにした。なにかあればカメラが作動するだろう。
真夜中を過ぎた頃、唐突にモニターが明るくなった。眠い目をこすりながら、確認すると、どうやら霧雨が降る中、畑のマンドラゴラが地中から飛び出して踊っている姿が見えた。踊っているのはすべて花が咲いたマンドラゴラで、花粉を飛ばすために踊っているのかも知れない。
「記録しておいてくれ」
ただ、ひとしきり踊るとマンドラゴラは柔らかい地中へと戻っていった。畑の外に脱走するマンドラゴラはいなかったところを見ると、やはり土壌の環境整備が重要なのだろう。
朝起きると、雨は止んでいて、地面が湿っていた。マンドラゴラの花はしぼんでいたので、明日収穫することにした。
「昨夜のダンスって叫び声もあげてたの?」
「ああ。聞く? 魔物除けになりそうだよ」
腕のデバイスと同期しておいた。
外に出ると、畑の外にキャスが立っていた。相変わらず重そうな荷物を背負っている。
「あれ? どうしたの?」
「どうしたらいいんでしょうか」
「田舎に帰るのがいいと思うよ。絶対に」
「帰っても工房はありませんから」
魔道具の工房だろうか。
「魔道具ってそんな売れないの?」
「……はい」
余剰資金は確かにあるから、リュックの中身を見せてもらった。
「必要のないものは買わないよ」
「でも、洗濯が便利になったり、涼しい風が来たりするってよくないですか」
「それどれくらいの魔石で動くの?」
魔石は小さくていいらしい。そうなると話が変わってくる。魔石は定期的に収穫できるから、魔道具は使いたい放題だ。
「全部買い取るのに、いくらかかる」
「それは結構掛かりますよ」
「じゃあ、とりあえず、洗濯の樽と風が出る魔道具を売ってくれ」
「え、本当に!? 街では誰も買ってくれなかったんですけど」
「いや、俺は買うよ。実際使えなかったら、メンテナンスをしてくれるのか」
「不良品だったら交換しますよ」
初めてキャスは良いやつなんじゃないかと思えてきた。実際、マンドラゴラの魔石を入れて実験すると、普通に冷たい風が来たり、洗濯物を洗えたりするようだ。
どうせ鹿肉を川から上げないといけないので、洗濯機代わりの洗濯樽を持って川へと向かう。魔石を入れておくだけで、ひたすら回ってくれるので助かる。下着から宇宙服まで全部洗った。
「やっぱり宇宙人は変な服を着てるんですね」
「まだ、いたのか!」
「アフターサービスです。使い心地はどうですか」
「大丈夫です。それより、マタンゴと火吹草を取りに行きたいんだけど、一緒に来る? もしかしたら、魔道具を使う場面が出てくるかも知れないから」
「冒険者の仕事ですか。行きます! どういう魔道具が必要なのかもわからず売ってましたから」
俺たちは簡単な準備をしてから、まずはマタンゴから捜索することにした。




