4話「宇宙人のリスク管理」
翌朝、カラッと晴れた畑には、マンドラゴラの芽が伸びていた。しかも葉がすでに手のひらサイズほどになっている。
「生育早いな。魔力が関係していると思うか?」
「その可能性は高いね。魔石の粉末があれば与えてみたほうがいいかもしれない」
落とし穴を確認すると、イタチの魔物が嵌まって死んでいた。捌いてみると、魔石がある。皮を剥いで肉を火にかけ、骨と一緒に魔石を砕く。皮を剥ぐのも、ゲームや動画で散々やってきたが、獣の臭いが強い。ただ、そこまで不快感はなかった。
砕いたものをマンドラゴラの畑に撒いて、保存食と焼けた肉を食べる。匂いのクセが強い。だから、燻製にするのかと心底納得した。煙で燻すというのも宇宙では好事家しかできないことだが、酸素がある惑星ではやりたい放題だ。
「すげー」
「こんなところにいたんですか!?」
後ろを振り返るとキャスがいた。相変わらず、大きな荷物を背負っている。
「あれ? 街にいればいいのに。まだ、変化はないよ」
「私は変化だらけですよ。雨の日にいなくなるから、昨日、探し回ったんですからね」
「いや、どうせ俺の見張りで衛兵から報酬なんて出ないよ」
「そうなんですか」
「そうだろう。俺は腕から音楽が鳴るだけの宇宙人だぞ。価値なんてない。それより、街で魔道具だっけ? その販路を作ったほうがいい。宇宙の技術が使われていますとかなんとか言ってさ」
「ああ、なるほど! 私に嘘をついて商売を知ろっていうんですか!?」
「そうだよ! 評価軸と利益を考えろ」
キャスは驚きすぎて黙ってしまったらしい。
「え? そんな衝撃的だった?」
「はい。そんな風に考えたこともなかったです」
「もしかして、その見た目で5年くらいしか生きていないのか」
「いえ、24年は生きています。ただ田舎にしかいなかったものですから、街の常識に面食らってまして……」
「じゃあ、まぁ、ゆっくりでもいいから理解していったらどう? で、魔道具に粉砕機ってない?」
「粉砕機ですか。そういうものはないですね。明かりを付けたり、食べ物を温めたりするようなものはあるんですけど」
「じゃあ、いいかな。宇宙人はミミズを探していたと記録しておいてくれ」
雨の後なので、大量にミミズは見つかっていて、畑にばらまいている。腐葉土も取りたい放題なので、どんどん追加していった。
「なにか育ててるんですか?」
「マンドラゴラの種を見つけたからね」
「え!? 魔物を育ててるんですか?」
「ダメだった? 俺は宇宙農家だったから、一番利益率が高い作物だと思って育ててみているんだけど」
「魔物の繁殖は魔物使いじゃないとできないと思っていたんですけど……」
「職業によるバフみたいなものってあるの?」
「レベルが上がるとスキルが発生しませんか」
レベル制度があるらしい。
「ステータスをオープンしたりできるってこと?」
「いや、そういうことは水晶がないとできません。しかも読み取るにはギルドの試験を何度も突破した鑑定士しかできないはずです」
「その魔道具を開発したらいいんじゃない?」
「できたら億万長者ですよ」
「スキルも?」
「いや、スキルは本人が使えるようになったら、伸びるんじゃないですかね。レベルが上がると派生することがあるみたいですけど。私もそんなにレベルは高くないのでわかりません」
「じゃあ、やっぱり魔物を倒してレベルを上げたらいいんじゃないか」
「そうですね」
「いちいち魔物を探して討伐するより、育てたほうが確実に倒せるだろ」
「確かに」
俺はマンドラゴラ畑を指さした。
「なるほど」
「だいたい、強い魔物を倒すってリスクが高いだろ。止めたほうがいいよ」
「そうですけど!」
「あの街の冒険者もほとんどシーフっぽかったよ。罠師ばっかりじゃないのか」
「そ、そうだと思いますけど!」
「もし、育てやすい獣系の魔物を知っていたら教えてくれ。飼育してみるから」
「それはわかりません。でも……」
「え? なにかいるの?」
「いや、火吹草はどうですか。農作物まで焼いてしまうので農家の嫌われものですが、時々、育ってしまう植物系の魔物と言われています」
「火を吹く草ってこと!? それは、見てみたいな。もっといろいろ聞いてもいいか」
「ええ。知っていることなら」
どうやらキノコの魔物マタンゴもいるし、蔓で攻撃してくるキラープランツなどがいるらしい。
「それがどうやったら発生するかは解明されていないの?」
「魔物を発生させるなんて、魔王しかやらないですよ」
「魔王はやっぱり全世界を統べようとしているわけ?」
「そうだと思いますよ」
俺が魔王なら、マンドラゴラやマタンゴで世界を牛耳っているだろう。つまり発生条件はまだわかっていないということか。ちょっと探してみるか。
「ちなみに、どうしてここがわかった?」
「煙と匂いで」
「もしかして種族によって五感の鋭さって違う?」
キャスは犬顔だ。
「そりゃあそうですよ」
「そうなの? じゃあ、隠れたところで、実は格差とか差別とかあるんじゃない?」
「う……、あります。鼠族は蛇族を避けています。古から続く差別はありますよ」
ちなみにエルフやドワーフはいるらしいが、この辺境では見たことがないとのこと。王都には数名いるという希少な種族なのだとか。
「でも、いるんだぁ」
誰が作った世界なのか知らないがファンタジー脳だったようだ。いや、逆に地球にいた作家がこちらの世界の転生者だったという可能性もある。
「ありがとう。いろいろ知れてよかった」
「終わりですか」
「うん。これから泉で水浴びをするつもりだ」
「ああ、わかりました。また、2、3日後に来ます」
「いや、もうちょっと間を空けてきていいよ。大して変わらないと思う」
そう言ったが、キャスはムッとして街へ帰っていった。田舎に帰ればいいのに。
とりあえず、泉には行かずに周囲を探索していく。火吹草やキラープランツを探しながら、植物の成分をAIに鑑定してもらう。
「筋弛緩系の毒があるね。これは利尿作用がある草。微量の幻覚剤になりそうだけど、冒険者ギルド職員の発言と照合すると毒だろうね」
職員の言葉を録音しておいてよかった。食べられる植物は多かったが、ほとんどが微量なら薬草で、多量に取ると毒草に変わるものばかり。マンドラゴラは水辺の柔らかい土に生息していて、今日もかなり討伐できた。しかも種もある。
畑を拡張して、どんどん植えておいた。さらに毒蛇が落とし穴の中に逃げ込んでいた。クワで頭を落とし、皮を剥いで火で炙る。
淡白だけど美味しいと聞いていたが、普通に骨だらけで食べにくいけど、味はいい。半分ほど残して、毒を塗りたくった肉を周囲に仕掛けておいた。




