23話「ハレー彗星送りになること」
不遇職の人間が急激に大金を持つとおかしくなるというのは寓話とされていたが、実際に目にすると本当に危ないと思う。
「だからぁ、マンドラゴラだけ作っていればいいわけでしょ?」
「いや、そんなことはなくて、キラービーの蜂蜜も……」
「結局、魔物に効くのは、麻痺なのよね」
全くこちらの話を聞かずに、普通にマンドラゴラを引っこ抜き、気絶していた。花お化けが蔓を使って運んでくれた。とりあえずキャスは小川に浸けて、興奮を抑えておく。
「やっぱり魔物を倒している人間って怖いのか」
休暇から戻ってきたブラウニーに聞いてみた。
「興奮している人間は罠に嵌めやすいから別に怖いと言うか、思ったとおりに動くかなって感じ。なんか注目を集めてるのが上手い魔物とかがいると楽だよ」
魔物にとって冒険者は誘導して罠に嵌める対象なのか。
「人間を食べることもないし、倒したところで物資を取るだけか。あ、もしかしてレベルが上ったりする?」
「レベルも上がるって言われてるけど、わからないな。物資はミノタウロス一族とか魔王軍が全部持って行くし、焼いても食べるところないでしょ?」
「魔力を吸い取ったりしないのか」
「それはアルラウネ婆さんたちだけ。俺たちは、屋敷か洞窟で働くだけだから、食事と小さい魔石を貰うくらいさ。だからあのくらい大きい魔石だと、結構遊べるんだけどね」
「魔物の街で遊んできたのか」
「街っていうか……。闘技場だよ。あと、キャラバン?」
「テントがたくさんあるってこと?」
「そう。人間にバレると全部壊されるから、誰かが号令をかけないと集まらない。今回はミノタウロスの一家が集まってたから、すぐ来た」
「で、闘技場で賭けた選手が負けて帰ってきたのか」
「ううん。スキルを買ったから」
「ちょっと待て。スキルを買えるのか?」
「うん。単純なスキルならね。荷運びは浮遊植物でできるんでしょ? 仕分けのスキルを取ったよ。鉱物鑑定ね」
ちゃんと予測して状況を考えてる。
「それ、仕事変わるぞ」
「どうせ、迷宮ができたら仕事がなくなるからね。掘り出した物の価値ってわからないでしょ?」
確かに、だいたい石で済ませているが、石材は種類が多い。
「キャリアアップを考えてるのか」
「なに? レベル以外にも上がるものあるの?」
「ある。仕事でも作業する人もいれば、監督を任せられる人もいるだろ? 君はブラウニーの中でも仕分け隊長になれるんじゃないか」
「ええ、そうだったのか。じゃあ、パンを長く食えるか」
「食えるよ。あ、食事はどうしてるんだ? ミーロスから貰ってるのか」
「貰ってるけど、渋い樹の実だからなぁ」
どんぐりかなにかを与えているのか。
「小麦粉を持ってきたほうがいいか。皆、そんな感じか」
「うん。足りなかったら森で採って食ってるよ」
「植物系の魔物と違うんだよな」
「魔力だけ吸って土から栄養取れないからね」
とりあえず、小麦をある分だけ挽いてから、ブラウニーに袋ごと渡した。
「いいのか?」
「ああ、ちゃんと戻ってきた仲間に分配するようにね。あと、買えるスキルを教えて」
魔物の中にはスキルを譲渡したり、奪ったりする者もいるらしく、それを使って転売しているようだ。ただ、人間がスキルを買えるかどうかはわからない。魔石自体が記憶装置になっていた場合、スキルは変えない。
電脳化している脳に叩き込んでくれればいいが、魔力が電気信号ではないため難しいだろう。
小川では花お化けがキャスの介抱をしていた。蔓を使って、うまく服を脱がせているが大変そうだ。訴訟問題にならないうちに、とっとと小麦を買い足しに向かった。
「訴訟とかないのかな」
「流石にあるんじゃない?」
AIが注意してくれた。
「衛兵がいるくらいだからあるか」
獣人の街だから人並み以上に性欲があり娼館があるかと思ったが、見たことがない。宇宙や月にもなかったが、地球ではあるところにはあるらしく、人間の住む場所にはたいていあると言われていたが、そんなことはなかった。
「よく考えれば動物の種類も違うわけだから、かなり種族意識みたいなものがあるのかもな。そうなると難しいか」
「種族の繋がりも強いと噂も広がるってことかな。その可能性はあるね。家父長制が強い地域で、若い娘に手を出したら一族総出で乗り込んで来るかも知れない」
「大変だな。宇宙人でよかったよ」
実際、宇宙だと連絡手段はあっても、一度離れたら一生会わないなんてこともザラにある。俺の時代では結婚までも軽く、離婚もあっさりしていた。人工受精、人工子宮が開発されてから、子どもを作るのも社会的制限がかかる地域もあるくらいだ。
性欲のコントロールは宇宙時代でも、ミスをした場合捕まって、凍ったままハレー彗星を追いかける羽目になるかもしれない。クローンの権利推進派の議員たちが冷凍睡眠装置に入れられる姿は今でも銀河のネット上に落ちているだろう。可哀想に。
そんなどうでもいいことを考えながら、街へと繰り出し、小麦の他、屑肉の詰め合わせや野菜、果物など栄養になりそうなものは買っておく。
「おう、どうした? 冬ごもりの準備か」
大量購入していたら、八百屋の店主に聞かれた。
「今のうちにピクルスとジャムを作っておこうかと思って」
「まぁ、でも、討伐隊の残り物くらいしかないぞ」
「構いません。なんでも食べるのでレシピを教えてもらえませんか」
「そりゃ、そこら辺のババアに聞くこった。なんでも教えてくれる」
店主がそう言うと、買い物帰りの壮年女性たちが毒舌に笑っていた。
「どんな料理が合うか教えてもらえませんか」
「ああ、根菜は煮物がいいね。調味料に酒とこのソースがいいよ」
「青菜はサラダがいい。毒が怖かったらさっと湯がくといいよ」
「小麦は粉にする前のものを買っているようだけど……?」
「ええ、自分で石臼を作ったんですよ」
「そりゃあいいね。大きいけど山椒を買って潰してもいいと思うよ」
マダムたちに教えてもらいながら、たくさん買って調味料をお裾分けしておいた。
「宇宙人の顔なじみができた」
八百屋の店主も喜んでいたので、街での生活もできるかもしれない。やはり商店街や裏通りまで探してみたが、スキル屋は人間の街にはなかった。
袋いっぱいに食料を詰め込んで、魔物農場に持って帰り、ミーロスとブラウニーたちの労働環境について話した。
「食料がなくなると働いてくれなくなる。ちゃんと定期的に食べ物は支給しよう」
「わかった。こちらにも罠を仕掛けて狩猟班を作るよ。ただし、工期が延びるかも知れない」
「それだといつまでも延ばせてしまう。できるだけ工期以内に済ませてくれ。できなくても怒りはしないから。急いで働いた分だけ、魔石で支払うよ」
「わかった」
大きい仕事ほど失敗する理由は途中で予定が変わることだ。まずは道筋を最後まで付けておく。修正は後から運用しながらでもできるだろう。




