22話「計画の通過点」
マンドラゴラを収穫して、畑に使う魔石を残し、すべて雇っている魔物たちに配る。通貨のように使われているらしく、魔物の集落へ向かっていった。
「給料が出たら、ちゃんと行く場所があるならいい」
地球の古代ではパンとサーカスを用意していたと言うが、パンは用意できてもサーカスは自分たちで楽しんでもらわないと続かない。花お化けやマタンゴなどは普通に踊っているだけで楽しいようなので放っておく。
魔物たちが休暇している間に、毒蛙討伐団に麻痺薬を売りに行ったキャスが帰ってきた。
「ただいま……、売ってきたよ」
かなり疲れているようで、畑に到着した途端に倒れた。
「え? なに?」
汗臭いが乱暴をされたわけではなく、財布も盗られているというわけではなさそうだ。
樽はないが、肉饅頭のようなものは買ってきてくれていた。売りすぎて気絶したのか。とりあえず、畑で寝ると花お化けが食べてしまうかもしれないので、タイニーハウスに放り込んだ。
焚き火で肉饅頭を温め直し、この星の資源について思いを巡らせた。魔石があるもののほとんど地球と変わらない。遺伝子系のレベルは変わっているし、レベルやスキルなど技術体系が惑星レベルで整備されていることを考えると、この惑星自体、過去の誰かがワープしてきて作ったか、もしくはこちらの惑星から銀河系に向かった人類がいる可能性も考えられる。
「いや、それはないか。そもそも地球から猿人や原人の骨が発掘されてるからな。ということは進化の足跡を辿れるか、それとも文明の足跡を辿れるかもしれないんだよな。この惑星を旅するとしてもかなり時間は掛かりそうだよな」
「掛かると思うよ。この前ドローンで観測したところによると、この惑星はかなり地球ににているけど大きいようだ」
AIが地平線までの距離から算出したところによると直径は地球の1.5倍以上はあるとのこと。実際は測れていないらしい。やはり重力も地球より1.5倍ほどあるだろう。どうやって形を保っているのかを考えると、魔力以外にないのではないか。そもそも魔力が空気中や地中にまで広がっているなら、生物分布はもっと多様性があるだろう。
「じゃあ、獣人の国とか魔王軍とかって、一部でしかないんじゃない?」
「あり得るね」
「魔石文明が残っている可能性のほうが高いよ。この地域が全然使っていないって言うだけでさ」
「十分に考えられるし、そのつもりで動いたほうがいい。ただ、鉄製の機械自体はドローン以外飛んでいなかった」
「アラクネのネットワークも含めて、街道ネットワークも調べていかないとな」
「了解。体調はどうだ? 下半身に筋肉がついてきているようだけど」
「重力のせいだな。内臓含めてそれほど問題ないようだけど、魔力の影響があると思うか」
「不明だけど、可能性としては残しておいたほうがいいように思うよ」
「だとすると魔力の行使である魔法は必然的進化の過程と考えるのが普通かな」
「そうだね。レベルやスキルという基準を設けているのも、暮らしの設計と考えるとかなりデザインされた惑星だと推測できる。君の場合はクローンでエラーも多いから、遺伝子的余白が多かったというのも要因として考えられるけどね」
つまり環境変異に強い遺伝的な要因があるため、単独宇宙農家などの仕事に割り振られていたが、それがこの惑星では功を奏したということか。
「つまり宇宙におけるチートがあったんだな」
「そう思う。環境への順応性が高かったんだ。多少酸素が濃くても大丈夫とかではなくて、内臓への負荷も含めて耐性があったんじゃないかな」
「でも、やっぱりあんまり長居しすぎると、早く老けたりするんじゃないか」
「その可能性は大いにあるけど、まだまだ検証段階さ。計画はなるべく早めに進めたほうがいい」
「そうだな」
重力も酸素濃度も違うなら、どれだけ遺伝的要因があっても、いつ病気になるかはわからない。
この惑星での宇宙事業探索も含めて、魔物農場も合わせて文明度を上げていかないといけない。
洞窟から鉄鉱石が見つかれば鉄製品を、銅鉱石が見つかれば銅線などの加工までAIで進められるか。コカトリスの石化やバイオセメントに使う微生物の発見なども急いだほうがいいだろう。
そもそもワープ技術があるくらいだから、水中呼吸の魔法やスキルもあるかもしれない。酸素供給システムの構築と密閉空間の維持など実験を繰り返す必要がある。デブリ衝突からの回復設計もあるだろう。素材変異という能力はものすごく重要業務になっていくはずだ。コカトリス含めて、錬金術が得意な種族がどれくらいいるのかも探したほうがいい。
ファーム最強計画は、通過点として宇宙進出を置いている。現状、魔物への搾取構造が成り立ちやすく、結果的に破綻する予測がかなり高い。ここを以下に解消しながら進めるか。
ブラウニーたち作業者の生活デザインから進めたほうがいい。
「この計画の弱点は最短が、遠回りに見えることだよな」
「そうなんだよ。でも、その構造は地球でもよく見られたことさ。人道的支援に見えて、結果的に非人道的構造構築になる運動とか、逆に破壊的計画が最も安く人道支援に繋がるなんてことは歴史上何度もあった」
「やっている作業はのんびり、成果ははっきりというのが計画だから難しいよな。ただ、ミーロス含めて、作業は早いんだよな」
「魔物はこちらが欲しい成果物を出すのは得意なんじゃないか」
「確かに、アルラウネにもバイオセメントについて早めに伝えておいたほうがいいかもな」
「そうだ。根無し草のアルラウネからすれば環境探索そのものが報酬になり得るからね」
ぶつぶつAIと喋っていたら、キャスが起き出してきた。
「あ! 肉饅頭を温めてくれたの!? ありがとう」
焚き火の近くにあった肉饅頭を手に取り、「あつつっ」と言いながら、大きな口に放り込んでいた。
「随分、稼げたみたいだな」
「うん。小分けにして売ったんだけど、最後まで売れたわ。私、薬を作る魔道具を作るわ」
「それがいいと思う」
俺はキャスから渡された財布袋から半額回収して、戻した。
「いいの!?」
「現地で販売したのはキャスだからね」
「やったー! 街で部屋を借りられるわ」
「よかったな」
「でも、こんなに貰えるなら、街道沿いに魔道具研究所を建ててもいいかもしれない」
「え? そんなに?」
確かに大量の銀貨はあるが、研究所を建てるのに時間も金ももっと掛かるだろうと思っていたが違うのか。
「そんなに安くないだろ?」
「いいや、あの麻痺薬の樽を抱えて、魔物の大発生を追えば、あと4回くらいあれば行けると思うんだよね」
「旅の毒薬屋になるつもりか」
「それでもいいんじゃない? 鍋を温めるような魔道具も売れたからね。あと、冒険者たちにも誘われたの。今度、魔物の大発生があればまた来てくれって」
求められれるところに行くのが人間の性だが、完全に浮かれている。
「だから、この魔物農場に私も協力するわ」
「そうか。とりあえず石臼はあるから、小さい小川で水車を作ってくれ」
「水車か……。いいわ! よーし!」
腕まくりをして汗臭さを振りまきながら小川へと向かっていった。テンションが高い魔道具屋は怖い。




