21話「種族の実力」
日当たりの良い崖の上にアルラウネたちが引っ越してきた。魔物の社会ではアルラウネがいる森は呪われると言われてきたという。
「魔力を吸収して木の上に吊るすからだ」
ドルイド爺さんは、呪いの原因を語った。つまり近づいてきた魔物の魔力を吸収して、回復したらまた魔力を吸収し、死ぬまで続けるということをやっていたらしい。
「アルラウネも魔物農場を作ろうとして失敗してきたんですか」
「あなたの農場を見るとそうかもしれないわね」
「ここは四日に一度は必ず、マンドラゴラが採集できるように育ててます。あとは落とし穴を掘っていて、魔物が嵌まれば解体して燻製にします。今は2つ落とし穴が埋まっていて食獣植物の花お化けが住んでますけど水分が蒸発しないように溜め込んでいるんだと思います。食事などで出た残りカスはすべてマタンゴが食べてくれます」
アルラウネは口を開けていた。驚きを表現しているのかもしれないが表情は読み取れない。
「触ってもいいかしら? 我々は、枝葉で読み取る情報が多くて、目があまり良くないの」
「どうぞ」
俺は農場の魔物たちを案内して触らせた。
「土は柔らかくしているのね?」
「そうですね。ある程度鍬で耕して、ミミズを投入しています」
「水分は落とし穴にも溜めておけるんですか」
「いえ、小川が近くにあるので、溜まっているのは、花お化けが粘液を製造している残りだと思います」
アルラウネはじっと黙って考え込んでいた。
「アルラウネは獲物を取りすぎて、森を壊すことがあるんだ。保水力のある森から森へと移動を余儀なくされている根無し草なんだ」
ドラウド爺さんが教えてくれた。
「砂漠の植物みたいですね。それ循環構造がわかっていないというよりも、死んだ魔物をそのままにして虫が大量にやってくるから、腐敗しまくっているって、森自体の分解能力を偏らせているってことじゃないですか?」
「ぶ、ぶ、ぶ、分解能力!?」
「魔物が死ぬと、シデムシとかウジのような虫がやってくると思うんですが、そんなことなかったですか」
「腐肉を食べる虫はやってきましたが、大きい魔物なんかだと大型の虫の魔物がやってきて戦わないといけなくなり、魔王軍に助けてもらったり……。そういうことだったんですか」
どうやらアルラウネ婆さんは気づいたらしい。
「森という環境なので、自分だけよくても偏ると環境自体が崩れちゃうんですよ。だから浮遊して移動できるようになったんだとおもいますよ。栄養が足りない地域に移っていくのがアルラウネの生活としてはいいかもしれませんよ。崖の上はほとんど魔物も来ませんし、狩って魔力を吸い取った後は、こちらで肉も骨も処理できますから、ゆっくり浮遊植物の研究をしてください」
「ありがとう。助かるわ」
新しく来たアルラウネに後で話を聞いてみると、魔王城の近くで働いてきたが、なかなか外に出られなくてストレスが溜まっていたという。本来は森を渡り歩く種族だと、移動できないことがストレスになるだろう。
死なない程度に移動しながら働いてくれと言っておいた。
魔力の吸収が出来るということは魔石の大きさにも関係するらしく、トレントにできた瘤などを小さく出来るし、羽虫の使役が得意なのだとか。虫媒花の受粉からキラービーの蜂蜜まで任せることにした。蜂蜜は栄養になる他、喉の薬としても重宝する。
いずれ浮遊植物を開発してもらい、輸送に革命を起こしてもらおう。
ドルイド爺さんの報告書を見ると、ワープ魔法はあるそうで、古代の遺跡などで育ったドルイドから伝えられているらしい。
「つまり、ドルイドの中でも使える魔法が違うってこと?」
「そういうことだ。ただ、戦う場合は知略を尽くして戦うというだけだ」
魔法が攻撃のメインというわけではなかったのか。
「陽動作戦とか挑発して敵を引きつけていた仲間をワープさせるような感じで使っていたんですかね?」
「そう。よくわかるな。あとは、面倒な冒険者は適当に飛ばしたりしていたよ」
「それはどこに飛ばしたのかはわからない?」
「うん。近場ではあると思う。飛ばした後、何度か見たことがあるから」
「魔力によって飛ばされる距離って変わるんですか」
「そんなこともないと思うよ。術者の行ったことがある場所とかに行くんじゃないか。検証してみようか」
「お願いします。アルラウネの浮遊植物と組み合わせると流通革命が起きると思うので」
空間転移なんて軍事的にも無双できるはずなのに、ドルイドたちは知略の決定権を持っていなかったんじゃないか。
「ああ、それならいいかもしれん。考え事をしているうちに死んでしまう仲間が多くて」
流通関係の仕事であれば、とにかく手を動かすからいいが、思考の罠に嵌まると身体が止まってしまい、いつの間にか鹿や魔物に食べられていることがあるとか。思考を行動に移すのが苦手なのか。
チョークと黒板を与えれば、ずっと考え続けるタイプだろうか。試しに木枠を作って、粘土板を渡して、魔法を封印する魔法陣を量産してもらうことにした。
魔法陣を崩せば、魔法が飛び出るシステムが出来上がるとワープの罠も作れるだろう。粘土板を焼いて固定すれば、ワープのポータルになるかも知れない。それが出来上がった段階で総合商社を作り、海から山へ、山から海へというルートが出来る。人間社会と魔物社会が別なら、ここにも交易ルートを作ることも可能だ。
わざわざアラクネのネットワークを使う必要もない。音声や文字だけでも飛ばせるなら大きく変わる。
ドルイドたちがアラクネたちより遅いのは足が短く、浮くこともできないからと思われているが、歩くほうが思考は巡るからだと言い訳していた。
「まぁ、ゆっくりでいいですよ。まだ洞窟もできていませんし」
そう言っていたのだが、ミーロスがとりあえずトレントを入れる空間はできたと言う。
「できたんですか」
「いや、まだだけど、倉庫の運用するだけなら、問題はないだろう」
行ってみると確かに、崖の壁にぽっかり穴が空いていて、かなり広い空間が掘られていた。
掘り出した岩や砂には石炭なども含まれているらしい。AIが鉱石などを仕分けるプロトコルを組み上げていたが、ベルトコンベアもないので、あとで仕分けることにした。
チェーンソーでトレントの枝を切りながら、ブラウニーたちと一緒に洞窟倉庫に運んでいく。おそらく今後はこの作業が続くだろう。
ドルイド爺さんに頼んだのだが、粘土板とにらめっこをしていて反応がない。魔法陣について考え始めてしまったのだとか。
魔物を雇うのも大変だ。




