20話「技術落差」
マンドラゴラやマタンゴのような体の一部に魔石を宿し、魔石と一緒に大きくなるような植物で、なおかつ育成可能な植物を探せば、魔物社会でのアグリカルチャー企業を作れる。ひいては魔石文明を発展させ、最強になるというのが、『ファーム最強計画』の最強の部分だった。魔道具屋のキャスを雇っているのも、その計画の一貫だ。
実際に、やってみると確かに魔物を味方につけることは可能だし、従業員の魔物も増えていく。
コカトリスにトレントの死体を石材に変える事業を回し始めたところ、材木屋のトシュは驚きすぎて椅子から転げ落ちていた。
「すげぇ建材を拾ったな! トレントの化石なんて見たことないぞ! でも確かにないとおかしいんだよな……」
「売れますか?」
「当然売れる。見つけたんだな?」
「ええ。でも言えないです。魔物も目をつけているので」
まさか自分で作ってみましたとは言えない。
「んん……、なるほど、確かに場所は聞かないほうがいいかもしれない。でも腕の良い冒険者がいれば、魔物退治は出来るぞ」
「それよりも提携した方がいいと思って。そっちのほうが定期的に長く市場に出回るんじゃないですか」
「ああ、その通りだ。結局、取り合いになって土地ごと焼け野原になりかねない。見つけたのが宇宙人のお前でよかったよ」
人間でもなく魔物でもないのが宇宙人だということらしい。
「それで、どうなんだ? 月にどれくらい持ってこられる?」
「運ぶのが大変なので、枝一本ってところじゃないですか。トレントだから、木材一本ってところでどうです?」
「運搬技術が上がれば、もっと持ってこられるか?」
「ええ、でも、それだとすぐになくなっちゃいますよ」
「そうか。いや、多くは望まないほうが良さそうだな。その間に採集スキルや鑑定スキルを伸ばしてくれ。鑑定スキルが発現するかどうかはゴーゾー次第だけどな」
「まぁ、やってみます。品質だけでもわかるといいんですよね? 魔石の含有量とかですか?」
「そうだ。基本的に魔石の含有量が多いものは王都周辺では、魔道具の素材として扱われることが多い。家具とか暖炉とかに使われるらしい。王都の魔法学院じゃ、ダイヤルを回すといろんな場所に行けるらしいからな」
「ワープ技術があるんですか」
宇宙でもそれができたら、輸送の概念が変わってしまう。
「ああ、転移魔法とか空間魔法とか言われているが、田舎の材木屋には見当もつかない。ただ、古代魔法の技術を復活させている学者がいるそうでね」
「魔石文明ですか」
「俺は学がないから詳しく知らないが、魔法大戦はあって俺たちの頭に耳がついたのだそうだ」
獣人の発生原因は魔法大戦だったのか。
「まぁ、とにかくこのトレントの化石は然るべき業者に頼んで売ってもらう。一旦、これで手付金にしてくれ。うちの金庫がすっからかんだ」
「わかりました」
ずしりと重い革袋には銀貨が30枚ほど入っていた。街でなんでも買えそうな気がする。
街に立ち寄ると、毒蛙討伐作戦の真っ最中のようで、冒険者がいない平和な日常があった。キャスも毒を売りに行っているのだろう。
酒場もこういう時こそ掃除をしようと椅子やテーブルを出して固いモップで床を水洗いしていた。
「どうせ汚れるんだけどね。なんか買うかい?」
「要らない空き瓶があればもらっていいですか」
「全部、業者が持って行っちゃったな」
空き瓶は洗って、もう一度使うのだそうだ。瓶の量産体制は出来上がっていないらしい。
「容れ物がほしいんだったら古い樽ならあるよ」
「いただけますか」
「何に使うんだい?」
「毒薬作りです。農作物を荒らす魔物を退治しないと」
「ああ、そりゃいいね」
酒場の店主に樽をもらって、縄で縛り背中に担いだ。宇宙船というくらいだから、地球の船員の技術が伝わっていることがある。縄術もその一つだ。
樽の中に買ったものを入れていこう。「なんぼあってもいいですからね」とは地球のコメディアンの言葉だったか。なんでも買えるとなると、形のない情報や体験を買いたいと思うのは、宇宙の欲望だろうか。体験は毎日吸収しているので、できれば魔法書とか農業の本を高くてもいいので欲しい。歴史書でも構わない。
本屋はないが、雑貨屋の一部に本棚があり、いくつか本が売られていた。しかも宗教書以外は、かなり安い。宗教本以外の本を買い込んだ。
テキストを紙媒体で読むということ自体が、新鮮だ。実際、本じゃなくてもスクロールや石板でもいいと思っていたが、本の形になっていたことにちょっと胸に込み上げてくるものがあった。過去の者が後の世に伝えようと思うと、同じ形になるのだろうか。
本を樽に放り込んで、調味料と野菜を買い込み、魔物農園に戻った。花お化けが鹿と猪を狩り、畑のトレントに吊るしていた。
「血抜きして解体しろって言ってるのか」
俺は畑に穴を掘って、まだ温かい鹿と猪の首に切れ目を入れて血を出した。半日ぐらいは吊るしておこうと思ったが、操縦室のカメラが畑に向いているので、血が抜けた段階で報せがくるようにした。遭難時のための発電システムをたくさん用意していたが、使えてよかった。
宇宙で遭難した時に、有機物があるだけで全然難易度が違う。もっと言えば、コミュケーションが取れる生物がいること自体稀だ。遭難業界の中では空気もあり、食べ物もあるのでイージーな方だろう。
「生きてるだけで丸儲けだ」
雑草と虫を取り、コカトリスに与えていると、ドルイド爺さんがアルラウネ婆さんと一緒にやってきた。
「どうかしました?」
「ああ。実は今、洞窟の軒先で暮らしているんだけど、もし同胞を呼ぶならもう少し火の当たる場所がいいと思ってな」
「崖上に火吹草の群生地があると思うのよ」
「あそこに住むんですか。雨風に晒されますけど」
「家は、その方がいいんだ」
「あ、そうか」
植物にとって、雨は恵みだ。
「つまり家というか職場は洞窟で、寝る場所は崖上にしたいってことですね」
「そうだ」
「わかりました。火吹草を刈り取っておきます。え? どうやって崖上まで登ったんです?」
どちらも足腰が強く、よじ登ったりはしなそうだった。
「私はちょっとだけ浮く事ができるのよ」
「ワシは見える範囲であれば移動が可能だ」
「ちょっと待て、ちょっと待て。浮遊と瞬間移動が出来るってことですか?」
「そうね」
「そうじゃ」
「それって俺に対してもできますか」
「出来るけど、本当にちょっとしか浮くことはできないわよ」
「ワシも見えない場所まで飛ばすとなると、地面に埋まる事故が起きたりする」
思考の焦点の違いだろうか。
「えーっと、どれくらいの重さなら浮かせることができるのか、どれくらいの大きさなら瞬間移動ができるのか教えてもらっていいですか」
「だいたい自分の重さよ。丸太一つ分くらいなら大丈夫かしら」
「ワシもそうだな。若木一本程度なら動かせるぞ」
「魔力を使うのであまり使わないけれど」
「そう。種族特性の一種だと思ってくれ」
「とりあえず、自分の種族に対する研究してもらっていいですかね。で、現状の能力についての報告書みたいなものは書けますか。同胞が集まった場合の重さや大きさに変化があれば教えてください」
「いいけれど、重要なの?」
「ジジイを一人移動させてもどうにもならないだろ?」
「いえ、だいぶ違います。誰かに教えると呪われるとかありますか」
「いや、ないわ」
「戦闘では使えない技術だ。緊急脱出などで使っていただけで。ましてや農業ではほとんど使えないぞ」
ミーロスが他種族とあまり交流がないと言っていたが、本当に事務作業ばかりしていて交易をしてこなかったのだろう。
「いえ、かなり使えるので、箇条書きでいいので書き出していってください。火吹草の駆除はやっておきます」
俺は冷風機を持って、崖上に登った。
計画は案外早く進むかも知れない。




