18話「石臼の作り方」
ミーロスの一家ことミノタウロスたちの様子を見に行くと、崖に大きな洞窟を掘り進めていた。どうやらミノタウロスだけでなく、頭巾とマスクをした小さな人型の魔物もいるようだ。
「お疲れ様です」
「お、生きてたか」
ミーロスは洞窟の外で現場監督のようなことをやっている。
「心配していたとドルイド爺さんに聞いて。ちょっと街の北側にある廃鉱でマタンゴを倒していたんです。火吹草が進化してしまって、帰ってくるのに時間がかかりました」
「進化だと!? もしかして魔石を与えたか?」
「そうですね。水を吸収している地面にも花片の中心の口にも入れました」
「そうか。珍しいことではあるけど、魔石の大きさに応じて身体が大きくなることを要求したのかもしれない」
「なるほど。彼らは……?」
俺は穴掘り作業員たちを見た。
「ああ、うちの家系の者とブラウニーだ。屋敷の妖精と言うんだったかな。ちゃんと食事と報酬を払うと雑務をやってくれるんだよ」
「本当ですか。燻製肉とか要りますか」
「あると嬉しいね」
基本的に偶蹄目系の魔物だからといって、草を食べるわけでもなく、普通の食事をするのだそうだ。ただ、穀物類は好物で、度々争いもあるのだとか。
「作業は順調ですか」
「あと、10日ほどで形はできると思う。トレントの発掘作業は進めて構わないぞ」
「わかりました。切っていいんですよね?」
「もちろんだ。切らないと入らないと思う」
「わかりました。食料調達含めて進めていきます」
「すまない。助かる」
こちらからすれば、建材の実験場を作ってもらっている最中なので、ありがたい限りだ。
しかも一ヶ月雇うだけの短期契約で、買い切りという施設投資なので単純に資産が増えている最中。
倉庫管理の運用はドルイドとアルラウネが来ればやってもらう。こちらは建材販売と技術収集に集中できる。
一旦魔物農場に戻ると、トレントを見上げたキャスがいた。
「お、どうした? チェンソーできた?」
「できたよ。それにしても随分、畑が変わったね」
元あった畑はトレントが枝葉を伸ばしている。すでに見上げるほど高く成長していた。
「そこの木々はトレントだ。マンドラゴラは横の畑に移動している。4日ごとに収穫するだけ。今は設備投資の最中でね」
チェーンソーは見たことのある形で、ちゃんと動くし、近くの若木もしっかり切れた。あとは油をこまめに刃に差していかないと整備が大変らしい。料金はすでに支払っているので、用はないがなかなか帰ろうとしない。
「なんか仕事ない?」
「あるよ。ちょうどよかった。暇なら食料調達に向かってくれないか」
「小麦粉を買ってこいってこと?」
「そう。実は魔物たちも成長しているから、穀物類のほうがエネルギー効率は良くてさ」
「どういうこと?」
「肥料が足りないってこと」
「なるほど」
「それでコンポストは落とし穴も作れるんだけど、ハンマーで骨粉を作らないといけなかったりしてさ」
「石臼を作ればいいんじゃない? 小麦を挽いて、骨粉も砕けるよ」
確かにその方が効率は良いけど、食べるかな。
「2つ作ったほうがいいんじゃないか」
「それはそうかもね。重い石が4つあれば、穴を開けて石臼は作れるよ」
「本当か。じゃあ、ちょっと聞いてみる。小麦を買ってきて」
俺はなけなしの金を渡すと、キャスは笑顔で待ちへ向かった。守銭奴ほど、価値判断がわかりやすいので信用はできる。
スコップとチェーンソーを持って、花お化けを落とし穴から出して、トレントが埋まっている崖前へ向かう。
「花お化けはマタンゴを食べていいよ」
そう言うと、二体ともマタンゴ狩りへと向かった。
俺は周辺に魔物がいないことを確認してから、トレントの全体像を予測する。
トレントは幹の幅だけでも、俺が両手を広げたよりも太い。先の地面から出ている枝はチェーンソーで切断。丸太をいくつも作り、それをコカトリスに石にしてもらう。まだひよこだと思っていたコカトリスだが、干し肉とマンドラゴラの根っこなどを与えていたら、巣箱が石化していた。石臼用に、熱の棒で2つの丸太に穴を空け、丸太を4つ並べて巣箱の前に置いておく。そのうち石にしてくれるだろう。
トレントの発掘場に戻り、スコップで表面部分だけでも掘り進め、全長を確認する。俺自身、レベルが上がったはずだが穴掘りはとんでもなく疲れる作業だった。宇宙では土そのものが希少だが、腐葉土や虫の死骸が詰まった土壌はやはり豊かに思える。
昼頃だった空が茜色に変わっても、まだトレントの全長は見えない。
疲れてタイニーハウスに戻ると、キャスが小麦と屋台肉まんのようなものを買ってきてくれていた。しかもかなり荷物を抱えている。
「どうした? 街で宿から追い出されたのか?」
「いや、なんか冒険者ギルドが混んでるみたいで……」
やっぱり追い出されたらしい。
「魔物の大発生でもあったのか」
「この時期、ビッグフロッグって大きな毒蛙の魔物が川辺に出るらしくて、全国各地から魔物使いが来て、自分の魔物の餌用に狩ったり、毒だけ採取する薬師が来たりしているみたい」
魔道具屋は肩身が狭いのだとか。その程度で、他に行くあてがあるのだから、惑星生活はパーソナルエリアの確保が楽だ。
「むっ。女を連れ込んでいるのか」
ドルイド爺さんが報告に来た。
「いや、魔道具屋だ。街の宿を追い出されたらしい」
「追い出されてはいない! どうも。ゴーゾーの森の師匠ですか」
「まぁ、そんな感じ」
はっきり言わずに濁しておいた。それでも仙人のように見えるからドルイドは魔物としてちょうどいい。
「例の件だが、決まった」
アルラウネが来るらしい。
「あ、よかったです」
「住むところの確保を頼むと言っていた」
「わかりました。なにか作っておきます。あ、そうだ。崖際にキノコがありますから」
「うむ。わかった」
ドルイド爺さんは頷いて暗い森の中に消えた。
「あの人は、どこに住んでるの?」
「この森が家だ」
歳を重ねると人間でも植物でも関係なくなるのかも知れない。
日が落ちて、飼っているマタンゴや火吹草が夜行性のため動き出すとキャスは驚いて、タイニーハウスに引っ込んでくれた。
夜鳥が鳴いている。




