17話「進化とレベルアップについての考察」
火吹草は花片だけでなく茎も太くなり、根も歩きやすいように太く短くなっていた。代わりに腕というか蔓を持ち割りと自在に動くらしい。
ただ、こんな大きな魔物を連れていたら街道から見えてしまう。
「お前たち、二人で帰れないか?」
花の魔物は首を傾げるように花片を傾げた。ただ、蔓を使って物を持ち上げられるようになっていたり、マタンゴから採取した魔石を花片の中心にある口から食べることもできるらしい。
「ちょっと待て、直接食べられるようになったんだな」
花お化けたちは「その通りだ」と言うように、飛んできた蝙蝠を炎で焼いて食べていた。
「お、言葉は通じるのか。意思が通じるなら一緒に帰るか。狼の相手はしてくれ」
脇に抱える必要もなくなった花の魔物を連れて、南東に向けて歩き出した。深夜なのに、妙に月が明かるく森に差し込んでいた。地球から月までは38万キロあるが、それより若干近いのか、もしくは大きいのかも知れない。ただこの惑星も衛星は一つだけ。衛星の満ち欠けは生物にバイオリズムをもたらし多様性が生まれる。
「レベルが上がれば形を変えるってゲームが変わったようだな」
体内にある魔石がそれだけ大きくなったということでもあるのだろう。地中から離れている植物なので、体内の水を循環させ水圧によって繊維を束ねて収縮させたり弛緩させたりしているのだろうことは分かる。そのためには即効性のある信号を送らないといけないため、魔力が役に立っていると考えると、やはり魔石が脳になってくる。
「だとしたら、脳がある魔物にとっては、第二の脳があるということか。それは……、世界くらい支配しようと思うよな」
魔王の生態の一端を見た気がした。
ただ、俺の花お化けたちは、魔石が大きくなったので、なるべく運動系を鍛えてやりたい。これまで揺れて火を吹いているだけだったので、蔓を伸ばしてみたり、足を素早く動かすようなことはしていなかったはずだ。月明かりの下、森の中で俺の真似をさせながら、新しくなった身体で何ができるのかを確認させていった。蔓は意外と長く、伸ばそうと思えば、身長の二倍ほどは伸ばせることがわかり、花片の中心にある口もちゃんとセンサーになっていて虫や小動物は食べるけど、石や植物は吐き出していた。
大きくなったことで火を吹く構造も見えてきた。口の近辺に火打ち石があり、体内に溜め込んだガスを吐き出しているようだ。他にも甘い臭いの分泌物を出しているので、いくつか体内に袋状の器官があるようだ。
「この花お化けの形状は必然だったのか」
獲得した能力によって形を変えることが多いのだろうか。地球のキリンなんかは突然変異で首が伸びたとされているが、かつては若い葉を食べるために首が伸びたと言われていた事もあったという。適者生存を考えても、いくつか系統で分かれるわけだから、途中で絶滅した魔物もいるだろう。
「他の火吹草を育てたら、違う進化をする可能性もあるのか。火を吹くことに特化させたり、蔓を扱うことに特化させたりすると、また進化するのかな?」
そんなことを聞いても、花お化けたちは首を傾げるだけ。
まぁ、いいから帰ろうと思った矢先、イタチの魔物が水鉄砲を放ちながら襲ってきた。
「え? あ……」
戸惑っている間に、花お化けたちが蔓で捕まえ絞め落とし、焼いてから俺に見せてきた。数秒の出来事だ。
「あ、解体しろと?」
俺はイタチの腹から魔石を取り出して、半分に切り、二体の花お化けに分けた。ここでようやく気づいたが、どうやら俺も強くなっている。焼いたからイタチの身体が柔らかくなっていたとは思うが、あっさり解体できた。
「太い木も切れるかな。いや、ステータスオープンとかファイヤーボールとかできるか?」
ステータスも見れなければ、火の玉も放てなかった。ただ力が強くなり、遠くの音がよく聞こえるようになった程度だ。
「改めて考えるとすごいことだよな。成長にバフが掛かっているということだろ? やっぱり経験値のシステムとかあるのかな」
考えれば考えるほど興味は尽きない。
「いろいろ実験しないとな」
「実証実験のスケジュールは組んでおいたよ」
「助かる」
AIから見ると、すでに宇宙で脆くなっていた骨密度が増えているらしい。それに伴って筋肉量も増加。魔力自体が骨を通っている可能性があるという。とにかく食べ物もよく、睡眠の質も高いことが要因として上げられていた。
空が白み始めた頃、ようやく魔物農園が見えてきた。猪や鹿に絡まれそうになっても、花お化けたちが火を吹くと逃げていったので、戦闘系家畜として使える。
「ただ、俺はお前たちを養っていけるのかどうかだな」
腕を組んで考えていたら、花お化けが落とし穴に嵌まっていた。
「いや、そこを住処にするのか。別にいいけど」
二体とも好みの落とし穴があるようで、すっぽり嵌って花片だけが地面に出るようにしていた。水が溜まっているところが好きなのか。
「それ火吹草が進化したのか?」
眠っていたドルイド爺さんが起き出してきて、落とし穴に嵌った花お化けを見ていた。
「うん。家畜として食わしていけますかね?」
「いや、たぶん、夜になったら勝手に獣を狩りに行くよ」
「それならいいか。戦闘用の家畜としては申し分ないです。ただ、生産性はあるのかと聞かれると、甘い匂いを出すだけでそれほど意味はないかも知れません」
「いやいや、その甘い匂いが虫を近づけ、小動物を誘い、魔物を呼ぶ。花片の裏側に香り袋があるはずだから、穴を開けて採取しておいたほうがいい。魔物には高値で売れるはずだ」
俺は人間の社会とも魔物の社会とも取引できるようになったんだなと実感した。
空き瓶に香水を詰めて、ドルイド爺さんに渡した。
「アラクネネットワークで、取引できますか」
「無論だ。何と交換する?」
「進化先早見表みたいなものってないですよね?」
「ん~、何に進化するかの表はない。地域によっても異なるし、そもそもレベルが上って進化する魔物もかなり希少だ。300年以上生きているワシでも、火吹草が進化するとは思わなかった」
進化自体、かなり珍しいことなのか。
「たくさん、魔物を倒したのか」
「外に出ているマタンゴを一掃したんです。で、あの毒も効いて、外に出てきたマタンゴを焼いて倒していたら、俺もレベルが上がったみたいなんですよね」
「魔物使いだから上がるだろうな」
「いろいろとレベルと魔力の関係について教えてもらえないですか」
「わかることならな。ただ、ワシも宇宙人は初めて会ったし、火吹草の進化にも初めて遭遇しているから、答えられないことのほうが多いぞ」
「そうですか」
「で、この香水は何と取引する?」
「知恵者みたいな人はいませんか。ドルイドに限らず、アルラウネでも構いませんけど。もちろん獣系の魔物にそういう人がいるなら、そちらでも。その教育費用と取引できないかと」
「いるにはいるけど、性格が悪いと言うか、魔王軍に取り入るのが上手いクソババアがいる。アルラウネの老体だ」
「知識があるならいいんですけど」
「わかった。ちょっと聞くだけ聞いてみる。ミーロスが一晩帰ってこないお前さんを心配していた」
「本当ですか。ちょっと洞窟掘りの現場を見に行きます」
「頼む」




