16話「レベルが上がると賢さはどうなるのか」
森の不時着魔物農場へと戻り、火吹草を連れてマタンゴ鉱山へと向かった。連れてというか冷やしながら脇に抱えて持っていくだけだ。
火吹草を冷やしていると、ドルイド爺さんが様子を見に来た。崖の近くにテントを張って仲間を待っているのだとか。ミノタウロスのミーロス一家はすでにこちらに向かっているという。
「なにかあったのか」
「マタンゴの群生地を見つけたので、火吹草を連れてレベル上げをしておこうと思って。資材を運ぶにしても力は必要でしょう?」
「魔物使いだから魔物にやらせようというつもりはないのか」
「力持ちの魔物を使役できればいいですけど、力のある魔物を使役するのも大変でしょ。俺は生態がわかってる植物系の魔物のほうがいいですよ」
「そうか。浮遊植物が生き残っていれば、輸送も楽になるのだがなぁ」
空中に浮かぶ植物がいたらしい。岩に寄生して、岩ごと浮かんでいたと言うから、ドローンよりも優秀な輸送能力だ。
「マタンゴの群生地は近いのか」
「ちょっと遠いですね。ゴブリンがいた鉱山だったらしいんですけど」
「食獣系のマタンゴか。毒持ちだぞ。それに炭鉱だったら爆発するかも知れない」
「ああ、もうすぐその毒持ちのマタンゴが来ますよ。現地で使役してきたので」
足の短いマタンゴはゆっくりと街道沿いの森の中を追いかけてきている。
「坑道の中までは入りません。できれば、これから生まれてくる火吹草のレベル上げ場にするつもりですから。狩り尽くすつもりはないんです。冒険者ギルドも知ってるので、冒険者に狩り尽くされたら、使役したマタンゴを増やそうかと思っています」
「わざわざどうしてそんな面倒なことをする? 冒険者など殺してしまえばいいじゃないか」
「俺は人間ですよ。街での評判で仕事をしにくくなるのも面倒です。それに、人間一度踏破した場所は興味もなくなります。魔物の繁殖場にはぴったりですよ」
「なるほど人の心理か。少し時間はあるか」
「はい。火吹草を冷やしているので」
「ちょっと待っていてくれ」
俺は火吹草を冷風が出る魔道具で冷やしていたら、ドルイド爺さんが葉っぱの袋を持ってきた。
「マンドラゴラとトレントの樹皮の粉を混ぜたものだ。マタンゴがいる鉱山近くで焚き火をして、この袋を放り込むといい。煙を吸い込んだマタンゴが痺れながら入口に向かってくるはずだ」
確かにマタンゴはトレントの倒木に菌株を付けていた。媚薬代わりになるのか。
「農場はワシが見ている。罠に掛かった獣を潰していけばいいのだろう?」
「そうです。ありがとうございます」
森の賢者ドルイドは魔物を殺すことに躊躇がないようだ。そもそも住環境を壊す物をちゃんと区別できている時点ですごい。
「これ……と喋りたいんだが?」
ドルイド爺さんはタイニーハウスを指さした。AIと話がしたかったらしい。
「どうぞ。ちゃんと記録を取っておけますから」
この世界の魔物と喋る初めてのAIになるのだから魔力や魔石について、レベルやスキル、魔王と勇者について聞き出す可能性もある。インタビューモードに切り替わって暴走しないように、ハーネスだけ付けておいた。
「これでうざ絡みはしない思うので、椅子に腰掛けて畑を見ておいてください」
「すまんな」
ドルイド爺さんを置いて、火吹草を二体抱えて街道沿いの森を進んだ。途中、ゆっくり歩いているマタンゴにあったが、「臭いを辿れ」と指示だけだした。
街に近づくと、森から出てそのまま山道へと入る。それほど人もいないので、そのまま駆け上がった。
火吹草が動き始めたので、地面に下ろす。
「坂を登ったところにマタンゴの群れがいる。洞窟に入ると、危険だから洞窟周辺でマタンゴを焼け」
起き出した火吹草は揺れながら坂を登っていった。ゲームの世界では魔物やモンスターは友だちと言っている事が多いが、意思疎通ができないとかなり難しい。かつて「ボールは友だち」と言った偉人もいるが、それは手足のように扱うという意味だろう。
ここでの実験はレベルが上がれば、火吹草に知性は宿るのか、つまり神経系の塊である脳は出来るのかということでもある。歩いているし、火も吹けるのだから大きくはなるだろう。
地球産の植物にはないが、この世界の植物系の魔物には魔石がある。その中でシナプスのように電流が流れて繋がるのか、はたまた魔力が繋がるのかはわからないが、神経の接続性が上がるのかが知りたい。
坂を登りきり、鉱山跡地に出ると、火吹草はマタンゴを焼き、マタンゴが鳴きながら逃げ惑っていた。ただ足が遅いので、焼かれ続けている。マタンゴも毒の胞子を撒き散らしているが、すべて燃え広がっていく。天敵だ。
俺は確認だけして、周辺の森から薪を集める。鉱山の外にマタンゴが消えたタイミングで焚き火を始め、ドルイド爺さんから貰った毒薬袋を放り込んだ。
白煙が一気に立ち上る。冷風装置を遠くから当てて、洞窟に煙を流し、しばらく待つ。冷風装置があると火吹草も動けなくなるので、一旦離れたら、マタンゴが洞窟内から続々と出てきた。
ボフッ!
レベルが上がったのか火吹草の炎の威力が上がった気がする。マタンゴは火吹草の炎にやられて丸焦げになっていった。ひたすら狩って、坑道の中で倒れているマタンゴも見えた。
十分だろう。
火吹草は仕事が終わったところで、指示もしていないのに花片を閉じてそのまま森の中に入っていった。後をついて行くと、沢の近くに根を張って水を補給して眠っているらしい。
レベルを上げるには一晩かかるのか。
俺は鉱山跡地に戻り、焦げたマタンゴの死体から、魔石を取り出して陽の光に当てた。魔力が入っているらしいが俺の目には見えない。ひとまず、外にあるマタンゴの死体から魔石を回収したあと、火吹草が寝ている地面に砕いた魔石を撒いておいた。
どれくらい大きくなるのか気になるところだが、なぜか俺も睡魔に襲われ、近くで焚き火をしながら眠ってしまった。
起きたのは深夜になってからだ。
焚き火の側に、大きな花の魔物が二体座って、こちらに花片を向けている。強い発酵した腐ったバナナのような甘い匂いが漂っていた。立ち上がると、俺の背丈と同じくらい大きい花の魔物であることがわかる。
「レベルアップと言うか、進化しているんじゃないか」




