15話「ゴブリン鉱山か、それとも…」
洞窟、迷宮、ダンジョン。名前はなんでもいいが、要は空間を作るということだ。空間は出来上がると滅多に壊れない。宇宙船がそうだし、各惑星の不動産なんかもそうだったはずだ。
ひと月である程度、住環境が整えば、ドルイドに引っ越してきてもらえればいい。思考できるドルイドかアルラウネの住環境を洞窟に作れれば産業化が進む。
俺は4日ごとに、マンドラゴラを収穫して魔石を確保しつつ、身の部分は薬の材料として売っていく。ドルイド爺さんから、乾燥させて粉にすると保存しやすいし、一樽分で定期的に売れるようになるとのことだった。マンドラゴラ粉のサブスクリプションサービスを始められるが、一年で何度も売れないらしい。
薬屋はそんなに必要としないので、100日に一度とか、200日に一度とかで十分だそうだ。
「迷宮に毒の罠を作るにしても、そんなに必要ではないのでな」
「自己消化できないってことですよね。これ、アラクネネットワークを使って、各地にある迷宮やダンジョンに出荷って出来ないですか?」
「それは出来ると思うが、報酬はどうするのだ。魔石は必要ではないのだろ」
「ドルイドやアルラウネが住心地のいい場所を洞窟内に作ってほしいんですよね」
「我々を集めて何をするつもりなんだ」
「加工ですよ。樽ぐらいなら人間の街で買ってきますけど、マンドラゴラの乾燥作業とか、マタンゴの毒の抽出作業、コカトリスの繁殖、キラービーを使った果樹栽培まで広げたいんですよね」
「要はここにそういう農場があるということを知らせるということだな。しかし、敵というか、ゴブリンみたいな粗野な者たちにも知らせることにならないか」
「毒を使うような魔物にだけ伝わるんじゃないですかね」
「それはそうだな。樽を出荷した時点で、ある程度毒への理解できる者を集めるつもりか」
「そうです」
計画が先にあると、何にリソースを割かないといけないのかが見えてくるので、必要ない判断の時間も減る。
「俺は別に冒険者を嵌めるための迷宮を作りたいわけじゃないんです。トレントを加工して建材に出来る場所がほしいだけなんです」
「そのためのミノタウロス一家か」
「そうです。彼女たちとは設備投資のための契約をしているだけで、運用は毒を扱えるあなたたちでないと商品にならないので」
「なるほど、理解した。樽に頭蓋骨のマークを付けておいてくれ。それでだいたい伝わるから」
「わかりました」
俺は街へと行こうとしたら、ドルイド爺さんが「すごいな」と呟いていた。
「なにがです?」
「魔物と手を組むことに躊躇がない。目的がはっきりしている。冒険者を殺そうとしているわけでもないし、魔王軍の目的とも違うことをやろうとしているのに、なぜか魔物が動いている。宇宙人だからか」
「宇宙人だからですね。いってきます」
ファーム最強計画は俺だけでやる計画ではない。自分だけでなにかを成し遂げるわけではなく、計画のために動くなら魔物だろうが人間だろうが関係ないだけだ。
正直なところ、魔石はあるけどお金がないので情報収集も含めて冒険者ギルドで依頼がないかを確かめておきたかった。
「生き残っているな。宇宙人よ」
門兵はすっかり俺を覚えてくれているらしい。
「お金がなくて、ヒーヒー言ってますよ。パンにもありつけない始末で。冒険者ギルドでなにか依頼を見つけてきます」
「おう。頑張れよ」
なぜか門兵は応援までしてくれる。
街行く人達は特に会話もしていないし、行商人たちが店先で交渉をしている声が聞こえてくる。田舎の日常とは、休日に向けて英気を養っているようだった。本来はきっと逆だろう。のん気に生きていけるシステムが出来上がっているのだ。
今の俺が「のん気」の域に行くにはもう少し設備投資が必要だ。
「依頼、ありませんか」
「薬草採取に荷運びの手伝いなんかもあるけど、やる?」
ギルド職員も俺を覚えてくれているらしい。宇宙人は珍しいのか。
「なんでもやります」
「あ、本当? じゃあ、死んだ冒険者の回収に行ってもらえない?」
「え?」
冒険者が死んだら土に変えるだけだろう。
「あの、廃鉱にゴブリンが住み着いちゃって、そのゴブリンを討伐するために向かった冒険者が帰ってこなくて」
「じゃあ、ゴブリンは住み続けているんですか」
「それが、いつの間にかいなくなっているとのことで」
「本当に!? あのぅ……酒場で的当てして、真ん中に当たったら一杯奢るっていう銅貨一枚の素敵なエンタメとかやったらダメですか」
「えーっと、ダメです」
「打つ手ナシか。ゴブリンの鉱山に行ってみます。見つからなかったら帰ってきます」
「ええ。その場合、報酬はないですけど、薬草を採取してくれば、僅かですが報酬は出ます」
鉱山の場所を教えてもらい街の北の山道を進む。虫の鳴き声と鳥の鳴き声が聞こえてくるが、昔聞いていたリラックス曲を聞いた気がした。大型の虫が宇宙船に潜り込むことは滅多にないので、蝉を見た時はちょっと驚いた。蝶はよくホログラムなどで再現されてるので知っていたが、蝉の五月蝿さにちょっと笑ってしまった。
鉱山に向かう途中でマタンゴが繁殖していた。遠くから見ると、普通にエリンギに見える。宇宙でもエリンギは人気で、よく栽培していたから、マタンゴを見るとちょっと安心する。ただ毒持ちなので、マスクと手袋が必須。熱の棒で倒して、二体使役してみた。
いつの間にかレベルも上がっていたからかあっさり使役できた。
「本当にゲームの世界と現実が混ざり合っているよな」
不思議なバランスでこの世界はできている。
ゴブリン退治のお供ができたところで、鉱山まで駆け上がると、ゴブリンではなくマタンゴが大量に繁殖していた。むしろゴブリンの骨らしき物がそこかしこに散らばっている。
遅れて付いてきたマタンゴに相談してみたが、返ってくるのは短い足を使って揺れるジェスチャーだけだ。もしかして言語かとも思ったが、AIで分析しても再現性はないとのこと。
「これ冒険者の遺品を持ってきてくれないかな」
俺の気持ちが通じたのか、マタンゴたちが菌株になりにくいから外に放り出していたからなのか、鉄の装備や革鎧などが外にまとめて捨てられていた。
「あ、これでいいか」
冒険者ギルドでもらうドッグタグらしき物も見える。麻袋に回収してから、再び鉱山の入口を見ると、マタンゴがゴブリンの頭で遊んでいた。
「これ報告すると、冒険者ギルドで討伐依頼が出るよな」
「出るだろうね」
手首のデバイスからAIが喋った。魔石も回収したいし、なにかもったいない気がする。すべて狩り尽くさず、わずかに残してマタンゴ農場にしてもいい。
「火吹草のレベル上げに使うのはどう?」
「あ、そうしよう」
どうせ焼き払うことにはなる。俺が使役したマタンゴを隠しておいて、再投入すればマタンゴ農場が出来るはずだ。
一旦、冒険者ギルドに冒険者の遺品を納品し、「別の魔物がいるようだ」とだけ報告した。
「なにか隠してませんか?」
「隠してません。途中でマタンゴを使役してサイドビジネスを思いついただけです」
「よからぬことを考えると衛兵に突き出しますからね」
「そう言いつつ報酬から天引きするのは止めてください」
「なにを!? 失礼な!」
犬顔中年ギルド職員は、銀貨を戻していた。
「大きな声で言ってもいいんですよ」
「止めなさい」
結局、銀貨15枚分の働きになった。金にがめつく、結構チョロい。シミュレーションゲームで鍛え上げた俺の交渉スキルは役に立つようだ。




