14話「魔物農園という不思議」
「なぜ宇宙人であるお前が知っているのか知らないが、確かにミノタウロス家は迷宮制作の家業を持っているが、基本的には秘密とされている。なにか見通せる力を持っているのか」
森の中で勝手に追い詰められているミノタウロスは前身から汗を噴き出して赤くなっていった。
「いや、別の銀河では割と知られている話です」
「なるほど……。それで、植物の魔物を提供する代わりに、ミノタウロスの迷宮について教えろということか」
「そう。迷宮と言うかダンジョンだと思うんですけど、環境ってどれくらい作れるんです?」
「環境? いや、迷宮は人を迷わせ、惑わせ、どこにいるのかわからなくなるものだから、迷路しか作れんと……思うぞ」
「作ったことはないんですか」
「どの家系も先祖代々親父殿が管理することになっている」
家父長制があり、迷宮はすでに作り終えたあとなのか。
「新しく作ることは出来ない?」
「それは新しい家族を作るということか」
「いや、別にミノタウロスじゃなくても迷宮は作れると思うんですけど」
「それはただの洞窟だ。迷宮ではない」
「なるほど、じゃあ、迷宮じゃなくてもいいので洞窟の中に魔物の生息域を作れないですかね?」
「作れるのではないか。それこそ、アルラウネなど、陽の光が差すような洞窟の奥で生まれると聞いている」
「魔王軍で繁殖させたことは?」
「あるわけがないだろ。ゴブリンやオークなどとは違うのだぞ」
ゴブリンやオークは割と簡単に繁殖期を迎えるらしい。
「つまり、そのビキニアーマーは繁殖のための装備ということですか?」
「そんなわけないだろ!? 古くから伝わる女性特有の民族衣装だ。これにマントを羽織るのが一般的ミノタウロスだ。今、誰もいない森の中での調査だから着ていないと言うだけで……、宇宙人も発情するのか」
「しますよ。ミーロスさんにはしないだけで」
「あ、なんだ、そうか」
「洞窟は掘れるんですか」
「そりゃ誰だって掘れるだろう」
「でも、そこが迷宮になりそうかどうかは岩の種類にもよるし、奥に空洞があるかどうかもわからないじゃないですか」
「入ってみるとわかるし、壁を触るとわかることもあるんだ」
「魔力の流れとかは?」
「もちろん、見るよ。ゴブリンやオークが掘るなんていう者もいるが、そんなことはない。人間が掘った鉱山跡、炭鉱跡をねぐらに使っているだけさ」
魔王軍も鉱物資源を採取するのか。ビキニアーマーやマントみたいな民族衣装があるくらいだから文化も発展しているんだよな。
「もしかしてアルラウネやドルイドは村を作っていますか」
「いや、作ってはいないが、魔王軍では……」
ミノタウロスは喋りすぎたという顔をしている。感情が顔に出るのは、表情筋が豊かなのだろう。
「別に、勇者ではないので魔王を倒そうなんて思ってないですよ。そもそも商売相手ですから、いなくなると困るくらいです」
「そうか。まぁ、なんだ……、アルラウネは森を守る役目があるし、ドルイドは知恵者だから文官のようなことをやっていることが多いな。ただ、あまり会話はしてくれないよ。魔王との協定もあるみたいだからね」
不可侵協定だろうか。魔王が全ての魔物を従えているわけでもなく、派遣社員的に使っているのかも知れない。だとすれば、ミーロスも魔王に服従されているわけではなく、雇われているのか。
「知恵のある魔物をお金か魔石で雇うことは可能ですか」
「もちろん可能だよ。雇うつもりかい?」
「仲介してくれるなら雇いたいんですけど、連絡手段はあるんですか」
「連絡したければ蜘蛛の糸を辿ればいい。アラクネという魔物が聞いてくれるはずだ」
アラクネの蜘蛛の糸ネットワークが冒険者ギルドのような役割をしているのだろう。
「人間が行っても大丈夫なんですか」
「火吹草もマタンゴも育ててるんだから、大丈夫じゃないか。いや、召喚術師ではないが魔物使いなのか。別に魔物と契約はしていない?」
「そうですね。これといって契約はしていないです。契約の魔法があるんですかね。呪いとも違う?」
「ああ、そうか。宇宙にそんなものないのか」
「契約はありますけど、基本的には魔力は関わらない形でお金や仕事の契約がほとんどですよ」
「なるほど、そういうものか。魔物の場合は魔力で契約しているものがほとんどだ。雇うとなると、それなりに魔石は必要だけど……」
「魔石なら、定期的に収穫できるんですけど」
「なんだと!? いや、そうか。農園ならそういうことも可能なのか」
「マンドラゴラみたいな植物系の魔物の繁殖についてのアドバイスを貰いたいんですけど、そんな魔物はいないですかね」
「植物系はドルイドかアルラウネだが、ほとんどどうやって使役するかという研究ばかりで、ゴーゾーみたいに繁殖を目的に考えていないと思うな。むしろ養蜂とかならアドバイスはしてくれると思う」
「それならキラービーの巣を作ったんですけど、試しに依頼を出してみても?」
「いいと思う。それでこの魔物農園を見せたほうがいいんじゃないかな」
ミーロスは「宇宙には頭のおかしい者がいるのか」と呟いていたが、聞かなかったことにする。計画の目的は魔物農園を作ることではない。
「依頼の手配をお願いしていいですか」
俺はマンドラゴラの魔石を3つほど、ミーロスに手渡した。
「こんなに!? いいのか! 返せと言っても返さないぞ」
渡しすぎたか。でも、それほど俺にとって価値はない。4日後には10倍以上収穫できる量だ。
「余ったら、洞窟を見つけてください。倉庫があると便利なので」
「ああ、うん。そうだな。そうしよう」
ミーロスに魔石を渡した2日後には、ドルイドと呼ばれる全身緑のローブと帽子を被った爺さんを連れてきた。顔は枯れ木のようで、ヒゲが根っこだ。樹木の精霊と言われても信じてしまう。
「あ、な? え? どう? 魔力の割合を見つけたのか?」
ドルイドは魔物農園に戸惑いつつ、俺に尋ねてきた。
「ああ、魔石の含有量は調節してますよ。あとミミズで流動性を持たせています」
「魔石を砕いているのか。もったいないのではないか……」
魔物ほど魔石を大事に扱うから、魔石を砕くということ自体していなかったのかも知れない。
「増やせばいいんです。魔石はマンドラゴラが吸収して元の魔石より大きくするので」
「なるほど」
納得しながら鼻息が荒くなっていた。流木のように折れないか心配だ。
「で、キラービーはどうです?」
「これでいい。十分だ。コカトリスは、何を与えてる?」
「燻製肉なんかを与えてますけど」
「贅沢な! 虫をもっと与えていい。自分で取って食えるようにするのも飼育の仕事だ」
「確かに」
コカトリスは日に何度か外に出してやることにした。
「それで、ちょっと相談なんだけど……」
ドルイドの爺さんと一緒に来たミーロスから頼みがあるという。
「埋まっているトレントの巨木なんだけど、たぶん狙われるので、火吹草を配備した方がいい。あんなものをゴブリンが見つけたら、一帯をゴブリン軍団がやってきてしまうので、早いところ掘り出して、倉庫に入れたほうがいいと思うんだ」
「倉庫って洞窟ですか。洞窟はどうするんです?」
「実はいい具合のを見つけてある。手伝いを雇う魔石さえ貰えれば、迷宮づくりもうちの家系でやるけど、どうだ?」
「それはいいですね。見積もりを出してもらえますか」
ひと月、魔石40個だったので、即決した。




