13話「銀ビキニの魔王軍」
コカトリスのひよこに雑草やミミズ、燻製肉を与えたところ、すべて平らげて箱の中で眠っている。
「2つ養蜂箱を作っておいてよかった」
トシュに作ってもらったものにはちゃんとキラービーが巣作りをしているが、俺が作った養蜂箱にコカトリスが入っている。
つくづく動物配信チャンネルでもやれば儲かるだろうに、と思うが、ネット環境もなければ視聴者もいない。
マンドラゴラを育て、火吹草を育て、マタンゴを野放しにして、トレントの成長を見守る……、などとのん気に茶を飲んでいたら、トレントが消えていた。一番成長していた苗木が引っこ抜かれている。モニターで確認すると、トレントは自ら地面から根を引っこ抜いて歩き去っていた。
「どこに……? いた!」
マンドラゴラの畑の真ん中で、枝葉を伸ばしていた。確かに、日が当たりにくい場所よりも日が当たる畑のほうが伸びるとは思うが、突然自分で勝手に移動するとは思わなかった。
「いや、魔物なんだから当たり前か」
俺は、残りのトレント候補の苗木もスコップで畑へと枝葉が重ならないように移動させた。
再び周辺の木を切り倒し、畑を拡張する。マンドラゴラも柔らかい地面を好む。多少太い木でも斧で倒して、スコップで根を切り切り株ごと排除していった。切った木はほとんど薪にしてしまう。落ちてきた虫はすべてコカトリスが平らげた。
「番いじゃないと繁殖しないよな」
いずれコカトリスの結婚相手を探さないといけないか。
そんな事を考えているときだった。急に森の中を突風が駆け抜けた。
「なんかいるね」
AIが警戒し始めた。
「ドローン出したほうがいいかもよ」
「そんなに!?」
電力が極端に少なくなっているというのに、ドローンを出すというのは賭けに近い。ただ、確率論で動いているAIの言うことは聞いておいたほうがいい。
渋々俺は緊急用パックから充電が半分もないドローンを飛ばして周辺を探らせた。
「牛顔というか牛の人間がいるね」
「え? なに? ミノタウロスか」
「うん。メスだね」
AIも適当なことを言う。どうせ牛の獣人だろう。
位置を聞いてみると、崖下のマタンゴの生息域にいるとのこと。
熱が出る棒を持って、火吹草を従えて遠目から観察することにした。
ちゃんと魔石の粉や骨粉を与えていると、使役スキルを使えば火吹草は付いてきてくれる。
「本当にミノタウロスがいるじゃないか」
牛顔というか角が生えた牛のおばさんがいる。なぜか銀のビキニアーマーを着ていて大きなリュックを背負っていた。筋肉もあるが豊満な胸に目が行くし、顔は牛そのもの。どうにもアンバランスだ。
「む……!」
「バレた」
逃げ出そうとしたら、ミノタウロスが声をかけてきた。
「我が名は魔王軍、ミーロス! お前がマタンゴを……、いや、火吹草を使役しているのか?」
「あ、えーっと、ゴーゾーです」
自己紹介をしておく。魔王軍って本当にいるのか。
「このトレントの死体はお前がやったのか?」
「いや、俺が宇宙から不時着した時にはすでに……」
「宇宙からだと!? どうりで妙な格好をしていると思った」
ミーロスに言われたくはないが、確かに動きやすいTシャツを着ている人はいない。
「もしかして宇宙から墜落した時に、トレントを倒したのではないか」
「それはちょっとわからないですけど」
「こんなにトレントが地面に埋まっているなんておかしいのだ。不時着ということは船か何かで来たのか」
「そうですね。宇宙船ですね」
「その宇宙船を見せてみろ」
「ええ? 別にそんな立派なものじゃないですよ。倉庫から何からほとんど燃えてどこかに言ってしまいましたし……」
「ゴーゾーは無事なのだから、残っているものがあるのだろう?」
「操縦室はあります。タイニーハウスみたいなものですよ」
「小さい家か」
「鉄のテントみたいなものですよ」
「鉄の……!? 近くにあるのか」
俺に近づいてくるミーロスに火吹草が炎を吐き出した。
「おいっ! 私は魔王軍だぞ」
魔王軍は魔物の味方だと言いたいようだが、火吹草には脳がない。
「警戒されてるんですよ。冷やすものとかないですか」
「そんなものはない」
「じゃあ、吐き終わるのを待ってください」
「使役しているわけじゃないのか」
「育ててるだけです」
「火吹草の育成方法を確立したのか!?」
「いや、別にそういうわけではないと思うんですけど、増やしてますけど」
「繁殖方法を確立したのか!?」
「いや、そういうわけでも……」
火吹草の気が済むまで待ってから、ミーロスが進みだした。
「こっちだな」
減るものでもないので案内すると、ミーロスはマタンゴや畑のトレントを見て数秒、固まっていた。
「全部、育てているのか!?」
「そうですね。マンドラゴラなら4日ぐらいで育ちますよ」
「あれはトレントの若木か」
「ええ、実験中なんですけど、勝手に動き出して日の光に葉を当ててるみたいなんですよね」
「ちょっと待て。トレントなど、そう簡単には育たぬものだ。長い年月をかけて成長し、周辺の樹木の長老として知恵を持つ老樹のはずなのだが……。若木ってあるのか」
「ありましたね。まぁ、このままトレントになるかはわかりませんけど」
「ドルイドやアルラウネになる可能性もあるのか。いや、ちょっと待ってくれ。魔物なんて育てて、どうするつもりだ?」
「売るんですよ。マンドラゴラは薬の材料になりますし、トレントは建材にしようかと思って。ほら、コカトリスも飼い始めたんで」
「トレントを木材にした上に、石化して石材にもするつもりか?」
「その通りです」
「う……売ってくれ。魔王軍にも売ってくれ! どうせこんなに育ててもすべて人間の商人に売れるわけでもないのだろ?」
ミーロスは商売の流れをわかっているようだ。
「販売先が増えるのはいいんですけど、魔王軍も対価としてお金で支払ってくれるんですか」
「金でもいいが、魔石もあるぞ」
「いや、情報が欲しいんですよね。知識で払ってもらえると助かるんですよね」
「そんなものでいいのか。構わんぞ。なにが知りたい?」
「ミーロスさんはミノタウロスですよね?」
「無論。この角が何よりの証拠だ」
銀のビキニアーマーが目立ちすぎて、角が霞んでいる。そんなことより計画に役立つ情報を聞き出したい。
「もしかして迷宮づくりは得意ではありませんか」
「うっ……」
ミーロスは言葉に詰まり、汗をかき始めた。




