12話「コカトリス討伐隊」
「あ、これ目眩まし用の魔石ランプです」
キャスはしっかり毒蛙用の魔道具を作っていたようだ。なぜ、こういう技術者が売れていないのか。出来る女子が疎まれるような文明レベルなのか。
「あ、あの蛙の毒は即死するので、捕まえないでください。私たちが狙うのは、あっちの紫の方です」
「それヤバいんじゃないの。え、あれだよね?」
キャスは戸惑っている俺を置いて、魔石ランプを使い、網で蛙を捕まえていた。
「すごい!」
「これが出来なくちゃ田舎で暮らしていけませんから」
田舎バフがあるらしい。宇宙バフはない。
俺も試してみたが、蛙を生で見るのも初めてなので、それなりに怖い。毒を吐いてくるというのも、意味がわからない。そう思っていたら、蛙がイボから毒液を出していた。霧吹き程度の範囲にしか効果はなさそうだ。
「あ、なるほど。じゃあ、大丈夫か」
武器さえ分かれば、それほど怖くはない。マスクをして、軍手を付けて、毒を吐く前に麻袋の中に放り込んでいく。
沼地の一部で獲っただけでも、麻袋がいっぱいになった。
「もういいでしょう」
「よし、山に行こう」
「体力大丈夫ですか」
「楽しめているうちは仕事をしたほうがいいと思ってね」
「宇宙人はそういうところが面白いですね。軸が稼げるとかではなくて、楽しめるかどうかなんですか」
「そう。やる気を失ってまでやる仕事かどうかのほうが大事だろ」
辺境だと価値観の多様性がないのかも知れない。宇宙では、大体の仕事は大企業がやっているし、宗教従事者も多いので、価値観自体が武器になるセキュリティにもなる。
「不思議な考え方ですね」
「そう? もっと身体が資本だったら、自分を大事にしたほうがいいよ。不労所得があっても自分は大事にしたほうがいいけど」
「不労所得ってなんですか」
「魔道具を発明したら、何パーセントか入ってこないの?」
「ああ、ないですね。でも、人を雇いやすくなりますから、工房が一気に建ちますよ」
特許って長い間かけて育てるものなのかもな。
街を脇目に通り過ぎ、山に入った。すでにかなりの移動距離になっているはずだが、疲労感がない。人生で一度にこれほど歩いたことがないが、エアロバイクでならどれくらいだろうと考えてしまう。
「キャスは疲れていないのか」
「いや、疲れてますけど、あとは仕掛けるだけですから」
「なるほど、作業がわかっているから、体力を温存しているってわけか」
「ええ。ゴーゾー方式で、戦わないと決めたら、全然緊張感もなく動けるんですよね」
「そう。緊張状態が一番疲れるからな。コカトリスの生息域に入ったら、とっとと毒蛙をばら撒いて帰ろう。いや帰っちゃダメなのか」
欲しいものはコカトリスの対象を石化させる能力だ。大きい個体を飼うと管理も大変だ。
「小さい個体を捕まえて使役すればいいんですよ」
「そうか。大きいのは斧でサクッとやっちゃうか」
「できればやりましょう。でも、戦わないんですよね?」
「ああ、毒蛙で弱っているのだけね」
「たぶん、この毒は麻痺すると思います」
「なるほど。じゃあ、もっと簡単かもな」
山を登っているとケーンという鳴き声が聞こえてきた。コカトリスの鳴き声なのだそうで、登っていくにつれて鳴き声が増えていった。周りを見渡すと冒険者の姿も見える。
「お疲れ様です。毒蛙を捕まえてきたので、仕掛けていいですか」
キャスは積極的に冒険者に絡んでいく。
「お、もちろんだ。この先の窪地と崖上が生息域みたいだ」
冒険者も特に情報を隠すこともないし、邪魔にもしない。協力的な方が生き残れるのか。生き残っているから何度も仕事に呼ばれるのか。
冒険者を仕事にしていくのも才能がいるのだろう。
窪みと崖上に毒蛙をばら撒くにしても、普通にコカトリスが近づいてくるので意外と大変だ。動物園の飼育員という歴史アーカイブを見たことがあるが、猛獣の飼育員のように、遠くから餌を投げて近づけさせないようにしないといけない。火吹草を持ってくればよかったか。空気を無駄にする火炎放射器など、宇宙の仕事をしているとちょっとした背徳感と憧れがある。
崖上に登っている最中も、コカトリスの鳴き声が聞こえてくるので結構怖い。それでも、野生の魔物だからか、不用意に攻撃してこないようだ。俺も訳のわからない毒蛙を捕まえる時は怖かったが、それは魔物も同じか。とにかく、どうにか毒蛙をばら撒き終えると、コカトリスが痺れるまでしばらく待つ。よくゲームなどでは即効性の毒のほうが倒せると思われているが、遅効性の毒の方が大きな魔物には効くし、こちらの準備ができるから便利だ。
冒険者たちも準備をしていた。
「お膳立てしてもらっているから、こっちも楽だ」
「よし、行くぞ」
そう言いながら、冒険者たちが藪から飛び出して、倒れているコカトリスの頭を刈り取っていく。コカトリスは繁殖力が高く、野生で発生すれば狩り尽くされるのが常だという。
「1頭だけ使役できませんか。小さいのでいいので」
「おう。ひよこのならいいぞ。ほら、使役スキル使って袋に詰めておけ」
冒険者が拾い上げたコカトリスを俺は袋に詰めた。あとは、成体コカトリスを駆除していくだけ。肉は美味いし、こぶし大の魔石は取れるし、骨は加工しやすいし、いいことしかないらしい。
冒険者の中には、運び屋と呼ばれる人たちがいて荷運び系のスキルを持っているらしく、魔物の死体はすべて街まで運んでくれる。
「普段は御者をしているよ。材木屋のトシュに聞いたけど、トレントの死体を見つけたら、まず俺に声をかけてくれよ」
猪首のカズーという運び屋と知り合いになった。馬車の手配をどうしようか考えていたので、コカトリスの討伐依頼があってよかった。
田舎街は人のつながりが密で狭い。宇宙だと顔の見えない業者も多いが、細くても繋がっていると、仕事が回ってくる。誰もが他人を小間使程度にしか考えていないから、コミュニケーションも楽だが、職人の間には徒弟制度のようなものがあるらしく大変そうだ。技術も知識も限られた枠の中にある社会だと価値観も固まってしまうのだろうか。
コカトリス討伐に参加した全員で冒険者ギルドに行き、それぞれ報酬を貰って終了。コカトリスのひよこを使役して育てると言うと、職員からしっかり管理するよう言われた。
箱はあるから大丈夫か。
この時、俺は頭が鶏で、尻尾が蛇の魔物を見ながら、燻製肉でも食べさせればいいかとしか考えていなかった。




