11話「基礎づくりの日々」
養蜂箱を作ったはいいが、ミツバチ自体がいないとただ箱があるだけだ。冒険者ギルドのネットワークで女王バチを手に入らないか聞いてみると、普通のミツバチはいないが「キラービー」という攻撃性が高く人にも被害を及ぼすミツバチならいるという。
「ちょっと待って。それって飼育可能ってこと?」
「そうみたいですね。いい蜂蜜が取れるみたいですよ」
「飼育方法を教えてほしい。それによる」
「普通のミツバチと同じじゃないですか。森に置いておけばいいんですよ。あとは、熊とか魔物に気をつけていれば」
「この前、熊の魔物を倒して散々な目にあったんだ」
「え!? ワイルドベアを倒したんですか? ちゃんと報告してくださいよ。討伐部位はありますか」
「頭はある。内臓はミミズが食べている最中だと思う」
「魔石は?」
「砕いて畑に撒いた」
「魔物が育っちゃうじゃないですか!」
魔物を育てているが、ギルドに報告したら止められそうだ。
「いい肥料になるかと思ったんだけど」
「まったく……」
どうにか切り抜けて、キラービーの女王蜂を依頼した。銀貨3枚と意外と高かった。小さければ使役できるだろうか。
「本当に育てるつもりなんですか」
「試してみる。冒険者の副業は多いほうがいいと聞いたので」
「頑張ってください」
ギルド職員は首を傾げていたが、魔物を倒すリスクより圧倒的にいい。ワイルドベアを倒したほうがお金は入ってくるのだろうが、単発ボーナスよりも安定収入を狙っていく。商売自体を売れる形にすると、ちゃんと設備投資が効いてくる……はずだ。
もしキラービーが入った袋が届いたら、キャスに届けてもらうようにして、俺はマンドラゴラ畑に戻った。
トシュに教えてもらった通り、すぐに薪拾いを始める。操縦席の空調は残っているものの冬がどれだけ寒くなるかもわからないし、ドアの密閉度は低く隙間風が入ってきていた。
幸い枯れ枝は多いし、斧も買ってあったので、どんどん薪を集めていく。落とし穴に仕掛けるスパイク罠も作っていたので、細い木なら何度か切っている。問題は太い木だ。正直、チェーンソーもないのに、小さな斧だけで切っていられない。薪も長期計画でいいだろうと、手頃な木を切り、枝を払っていった。
ゲームでもファームをしている時は集中して何も考えていなかったが、現実の森でも無心で木を切っていた。虫は降ってくるし、ヒルが靴にへばり付いてくるが気にしない。
猪らしき魔物も近づいてきたが、火吹草が火を吹いたのを見て逃げ出していった。警備として優秀だ。
木は枝を落として丸太にし、ちょうどいい長さに切っておく。枝は弓や釣りにでも使えないかと思ったが簡単に折れるし、弦も糸もない。
「アラクネの糸ってこういう時に使うのかな」
雑貨屋に行っても高いので、無視してきた。釣りはやったことがないのでやってみたいとは思う。餌はミミズだそうだからいくらでもある。
手のひらサイズのマタンゴが、畑の中を歩いている。畑は空からは丸見えなので、鷹のような鳥が咥えて飛んでいってしまった。数秒後、鳥が墜落し、俺は首を斧で切り落とした。
「鳥の捌き方ってわかる?」
ローカルAIで調べて、川で羽を毟って捌いた。胸骨に魔石がへばり付いていたので、魔物だったようだ。
「形が悪いから、肥料にするか」
ふと川の下流を見ると、流れの中に水ようかんのような物が見えた。
「スライムだ」
「おおっ! 魔物の血を何度も流しているからな。使役できるか試してみれば?」
AIに言われて使役スキルを発動させてみたが、近づいてくるだけで流れていく血の方に興味があるらしい。脳がないから仕方がないんだけど。
音や石などには反応するらしい。口は見えない。核となる魔石があるらしいが、川底の石に混ざっていて見えなかった。
スライムが生きていく場所は水の中だろう。無理に岸に上げる必要もない。使役スキルを解くと川下へ流されていった。知性がなくても魔物はある程度、スキルで行動を制限することが可能なようだ。
焚き火に鶏肉をかけて薪を足していく。火を見ると穏やかな気分になると言っていた先人たちの気持ちがよくわかった。過去の光景が目に浮かぶ。地球に憧れて、映画やドラマ、ゲームに時間を費やしてきた。
鳥が焼けて脂が滴り、いい匂いが立ち込めてきた。塩を振って食べれば、肉汁が口から溢れた。炭の香ばしさを感じたのも初めての経験だ。肉の焼けた匂いで釣られたのか、狼がやってくるのが見えた。ただ、マタンゴの毒で酩酊し、そのまま落とし穴に落ちた。
獣は面倒なので、すぐに熱の棒で仕留め、皮を剥いで解体した。獣の解体も時間はかかるが慣れればできるものだ。血はスライムに流し、内臓はマタンゴと畑のミミズに切り分けた。肉は燻製にして食べられる時に食べる。
「飢えるってことはないかもしれないな」
肉が向こうからやってくるのだから、食べるものには困らない。宇宙の残飯生活よりよほど栄養価はある。トウモロコシのヒゲと葉を食べていた時はどうしようかと思ったものだ。
夜中、ミシミシという音が聞こえ、起きてみるとトレントがしっかり育っていた。若木でも歩き始めるのだろうか。
それから数日、薪を集めながら、畑を拡張していった。木工スキルが成長したのか、柵まで作り、罠に掛かった害獣を仕留めて燻製と皮を街に売りに行く生活が続いた。
キラービーの女王も届いて、養蜂箱で巣を作り始めている。
「稼いでいるみたいですね」
相変わらず大きな荷物を抱えたキャスが魔物農場にやってきた。
「いや、食べていく分でやっとだよ」
「燻製肉が大量にあるとか」
「ああ、持っていっていいよ。チェーンソーが出来たか」
「いや、まだです。でも、いいニュースを持ってきました。コカトリスが街の反対側の山に出たそうです」
「討伐方法は?」
「蛙を捕食するそうですから、毒蛙を使うといいみたいです」
「じゃあ、毒蛙を捕まえて、行くか」
「行きましょう」
俺たちは沼へ毒蛙の捕獲から始めた。




