10話「宇宙農家、季節を知る」
火吹草が大熊を焼いている。悶え苦しむ熊が炎を振り払おうとよろけた拍子に落とし穴に嵌まり、口を開けているが空気を吸えないのか、さらに落とし穴に埋まり始めた。つまり、下にあるスパイクに自ら突き刺さっている。
俺は熱棒で、大熊を苦しみから解放してやった。
照明を付けると、タイニーハウスは壊れているもののモニターやカメラなどは衝撃耐性があるため無事だった。スペースデブリ対策をしていてよかった。フレームも歪んでなかったが、外壁の表面が爪で傷つけられ、ドアの蝶番も外れてしまっている。とりあえず、元の位置に戻して復旧作業を開始。そこでAIのスピーカーが壊れている事に気がついた。
「喋れなくなったか」
「いや、手首のデバイスからは喋れるよ。工具があれば直せるけど……」
「工具は宇宙の藻屑だな。ニッパーなんてこの世界にあるわけないよな」
「工作スキルを上げてくれ」
「スキルの限界は知ったほうがいいかもしれないな」
そう言いつつ、寝床のマットを川で洗った。
すでに明け方だ。熊の内臓を畑にばら撒き、骨を砕いて火吹草の根本周辺に撒いておいた。火吹草も冷やすと近づける。今後は警備としても利用するので、増えすぎない程度に繁殖させておかないといけない。
「いや、でも、育ってくれていてよかったよ」
崖の上にあった火吹草よりもかなり小さいが、吹き出す炎の効果は野生の魔物には絶大だ。冒険者ギルドで火吹草が強いと言われていた理由がわかった。
マタンゴは食い荒らされたというのに、のん気に育ち始めている。マンドラゴラの畑はぐちゃぐちゃだが、種は畑を広げながら撒いていたため、収穫が途切れるということもない。4日で育つ事がわかってから、自分の作業量を制限するために数を決めている。出荷時に必要な分だけあればいい。基本的に今は市場に過剰供給されているわけだから、育てる数も制限して種を保管してある。
ミミズと一緒に耕していくだけだ。
「宇宙だと、こういう害獣被害の復旧ってないから新鮮だよな」
「被害が大きいよね。地球のデータから害獣被害についてはある程度わかっていたけど、これはまだあくまで小規模農業だから、復旧も早いけど、これ大規模農業だったら、病気の検品もあるから厳しさが一段も二段も変わるよね」
「本当にそうだよ。魔物を育てているからよかったものの、規格が決まっていたら弾かれて終わりだよな。ジュースにもできないしさ」
「冷凍も濃縮もできないからね」
「でも、加工すると、市場の競争に巻き込まれるからな。まだ、採取屋として隠れっていられるけど……」
「目立つなら、稼がないとね」
クワで耕しながら、考える領域が広がってきた。
「結局、ファーム最強計画通りにやっていくしかないよな」
「そう。ここが辺境であれば、できることは限られてる。ちょうどよく憲兵も放っておいてくれているのだから、小さく薄く稼ぎながら、生産の種類だけを増やしていこう」
「そうだな。そもそも魔物市場なんてないんだよな。本来は突発的に出てくる被害がないと見えてこないようなシャドウマーケットみたいなものだ」
そうだとしたら、市場との接続は最低限でいい。むしろ増やすべきは魔物の栽培と家畜化だ。熊は大きく餌がなければ無理だろう。なにより熊から得られるものが少ない。鹿も飛ぶし、群れで買う必要があるから管理しにくい。
やはり鶏、豚、牛あたりに近い魔物を飼っていく必要がある。さらに動きが鈍いといい。そんな魔物はいるのか。
「なにかに擬態している魔物とかいないかな」
「トレントもそうだよ」
「あ、そうか。あとミミックとか、ツボの魔物みたいなのとか。虫系は結構いそうだよな」
「でも、虫で利益を出すのは難しいよ。蜂蜜とかシルクぐらいじゃないか?」
「擬態系じゃないな。でも、試しに巣箱を作っておけばいいかな」
「これだけ多様性のある森なら、たぶん虫媒花もあるだろう」
街へと向い、木の板や釘、丸太などを買い込んだ。街に来たついでにキャスにも会ったら、普通にチェーンの鋳型を作っていた。
「ありがとね」
「鉄代が足りないかもしれないので、お金は溜めておいてください」
「はい」
そんな早くトレントが育つはずもない。
「ゆっくり作ってくれ」
「存外、早くできるかもしれません。荷馬車の用意をしておいたほうが……」
「輸送かぁ。考えてなかったな」
街道を走るため、そもそも木材加工所まで運ばないといけない。
木材加工所は街道から外れて坂道を下った湖畔にある。木材を船で運ぶため、川に近い。
丸太が積まれているが、加工所の犬顔中年男性は椅子に座って湖を見ているだけ。加工所としては動いていないのか。
「すみません」
「おう。なんだ? 薪が欲しかったら、そこに斧があるから使っていいぞ」
「木材加工スキルを取りたくて……」
「ああ、何を作るんだ?」
「養蜂箱って作れますか」
俺は持っていた木の板を見せた。
「そりゃあ、誰でも作れるんじゃないか。釘があるなら、そこに金槌あるから」
「借りていいっすか」
「うん」
俺は金槌を借りて、四角い枠を作ろうとしたら止められた。
「測りもしないで作るのか」
「木の板が同じサイズだったのでいいかと」
「いや、歪むからちゃんと測ったほうがいいぞ。それから、ノコギリもそこにあるから……、いや、一個作って見せるか」
「ありがとうございます」
トシュという木工職人は、またたく間に養蜂箱を作ってしまった。俺もそれに習って、作ってみたがまるで出来が違う。
「ここまで作っておいてなんですけど、ミツバチっているんですか」
「ああ、いるよそりゃ。果物が出来ないだろ? お前さん、森の宇宙人だろ? 宇宙にはミツバチはいないのか」
「空気がないですから。受粉するにしてもだいたい人力です。デカい綿毛みたいなのをつかって」
「へぇ、大変だな。空気ないのか……」
トシュは宇宙にドン引きしていた。
「また、話が変わるんですけど、トレントの木材とかって売れます?」
「お、トレントの死体を見つけたのか」
「ええ。すっかりマタンゴが繁殖してますけど」
「じゃあ、ダメだな。でも、もし倒れたてのトレントがいたら、トドメを刺して俺たちに報告してくれ。だいたいここにいる奴に言えば、回収しに行くから」
「高値で取引されてるんですか」
「ああ、一本でも見つかれば、一年は暮らしていけるんじゃないか」
この惑星の1年はだいたい400日くらいであることをこの時はじめて知った。トシュはアバウトに生きているようだ。
「木の板が欲しければ、ここで買ってくと街より安いからな。薪割りして払ってもいいぞ。たぶん、スキルも取りやすいと思う」
「本当ですか」
半信半疑のまま、俺は薪割りをやってみる。動画やゲームで見ていたが、意外と重さを伝えるという感覚が難しい。でも、慣れると全身運動になるので楽しい。
割った薪は薪棚に積んで乾燥させるという。
「もしかして、ここの地方って、夏とか冬とかありますか」
「あるに決まってんだろ。冬も森に住むなら、薪の用意はしておいたほうがいいぞ」
この惑星はチートが多い。宇宙からすれば、無料で暑くなったりすることはないから今の適温も結構すごいことだ。広葉樹林の森があるなら当たり前なのか。




