仕事ができる人はかっこいい
同じ頃、リオンたち四人は、ルカが作った食事を食べていた。
「結論から言うと、魔法は使われていなかった、と考えていいと思う」
ジグの話に、良かったと言うべきか、振り出しに戻ったと言うべきか……三人とも何とも言えない表情になる。
「考えてみれば、持続的に雨を降らせないような魔法を使うのは無理だと思う。魔力が持たないからね」
それはそうだ。基本的なことを忘れていた。
「さらに広範囲の天候を操作するとなると、同時に複数の魔法つかいが必要になる」
ジグは、僕たち一人ひとりに視線を合わせ、確認するようにゆっくり話す。僕たちは、黙ってジグの話の続きを待つ。
「昨日、ちょっと雲の上まで眼を飛ばしてみたけど、複数人が重なるような広範囲の魔法の痕跡は無かったよ。だから、天候に関して魔法は使われていないと断言していいと思う」
「じゃあ、雨が降らないのは自然現象ってことかぁ」
「それなんだけどね、実は、川の上流に人ではない魔力の塊があったんだよね」
「人ではない魔力の塊?」
「そう」
「……魔物か」
クラウスの表情が急に厳しくなる。
ジグが「多分ね」とクラウスの問いに肯定を示す。
「その魔物が雨と関係するの?」
「うーん、雨と関係……あるかなあ? あるとは断言できないねえ」
……そこは、はっきり断言してほしい。
もし関係ないのであれば、偶然川の上流に魔物がいるだけかもしれない。やはり自然現象なのかと思うが、ジグには何か引っかかるものがあるようだ。
「ジグ殿、その魔物はデカいのか?」
厳しい表情のまま、クラウスがジグに確認する。
「うーん、一つ一つはそこまでじゃないけど、集まっている感じかな」
「群れ……か」
クラウスの表情がますます厳しくなる。ルカも面倒臭そうな顔をした。
川の上流に魔物の集団がいる。どんな魔物かわからないが、もし人を襲うものであれば危険でしかない。雨とは関係なく、それ自体が問題である。
「できれば、応援が欲しいねえ」
「ギルドに頼む?」
「だが、この村にはギルドはない。ギルドのある町までは、来た道を戻るしかない」
つまり、往復で四日間必要になる。
「現地の偵察とギルドへの応援要請を同時に行ったほうがいいでしょうね」
「応援がきてから見に行くでは駄目なの?」
「どんな魔物なのかが分からなければ対策しようがないからな。早く把握するに越したことはない」
だが、偵察に行って見つかる可能性はないのだろうか。そんな僕の不安が顔に出ていたのだろう。「大丈夫だよ」と、シグが僕の頭を優しく撫でる。そこまで子どもではないと思うが、悪い気はしないので黙っておく。
「二手に分かれよう。ルカ殿はジグ殿と、俺は王子と行動する。ジグ殿は危険のない範囲で魔物について情報収集を、王子と俺は村長にギルドへの応援要請と住民の避難の準備をする」
クラウスがテキパキと指示を出す。傭兵時代の経験が生きているのだろう。かっこいいな。
食器を片づけた後、僕はクラウスとともに村長の店に出向いた。開店前だろう店には、村長以外に従業員らしい人物が何人かいた。
村長からは、昨日の話のあとで気まずいのか、あまり歓迎されていない雰囲気を感じる。
「今日は、川の件とは別で来たんだ」
「はあ……」
「どうも川の上流に魔物らしきものが集団でいるようなんだ」
途端に村長の顔が強張り、息を呑む音がした。居合わせた従業員なのか客なのか分からない人たちも、僕たちを凝視している。
「まだ、はっきりしたわけではないが、念のために安全の確保をしておきたい。村長には、ギルドへの応援要請と住民の避難の準備をして欲しい。それから、この件を川向かいの村にも伝えて欲しい」
僕は、彼らを刺激しすぎないように、できるだけ落ち着いた声でゆっくりと話した。しかし、従業員と思っていた一人が、ひどく青ざめた顔をしている。
「息子が……」
「息子? マカのことか? あいつがどうした?」
青ざめていた男は、マカの父親らしい。マカから話を聞いて、店にやってきたようだ。
「上流に行くと……」
「上流に? なんでまた……」
「まだ気づいてない溜池があるかもしれないと……」
僕の背中を冷たいものが走る。クラウスも村長も、目を見開いて動かない。昨日の話を知っている全員が緊張した。彼は、昨日の話で可能性を見いだしてしまったに違いない。
もし彼が上流に向かっていて、魔物と遭遇してしまったたら……
「クラウス、僕たちも上流に向かおう」
マカを上流に向かわせたのは、僕たちだ。その責任は取らなければ。
「村長、応援要請と住民避難、川向かいの村への連絡は任せる。僕たちは上流に向かいながら、マカがいないか確認してこよう」
「わかりました。よろしくお願いします」
村長とマカの父親が深く頭を垂れた。
僕とクラウスが店を出て川に出たところで、子どもがこちらに走ってくるのが見えた。
「あれ? あの子、マカじゃない?」
「はあっ、はあっ……! あ! 昨日の馬鹿力!」
マカも僕たちに気づいたらしく、声を上げる。ちなみに馬鹿力とは、クラウスのことかな?
それにしても存外早く見つかった。大事にならなくてよかったと、ほっとする。
「マカ、だね。君を探し――――」
「早く! 早く来てくれ!」
マカが張り詰めた表情でクラウスの服を掴む。尋常じゃない雰囲気だ。
「どうしたの?」
「魔、魔物、池がっ……、仲間がっ」
「落ち着いて、詳しく教えて」
動揺してうまく話せないマカから話を聞き出す。
仲間と池を見つけたこと。池の水を汲んで村に知らせに戻る途中で、ジグとルカに会ったこと。ジグに汲んだ水が魔素を含んでいると言われ、水を捨てたこと。池で仲間が待機していること。池にいた鳥の群れが魔鳥だったこと。
ジグが言っていた魔力の塊は、魔鳥の群れってことで間違いない。
魔鳥は、水辺の木に巣を作る小型の魔物だ。縄張り意識が強く、侵入者に対して攻撃を仕掛けてくる。糞には魔鳥の魔素が含まれているから、池の水は糞によって魔素を含んだのだろう。
魔素は、人体にとって害になる。まその濃度にもよるが、浴び続ければ身体を蝕み、最悪死に至ることもある。
「状況は分かった。お前は、村に戻れ」
「でも! アイツらが!」
「気持ちは分かるが、足手まといにしかならん。それより、今の話を村に伝えろ」
ジグとルカが池に向かっているなら、そろそろマカの仲間と合流したはずだ。魔素の量にもよるが、間に合っていると思いたい。ただ、ジグたちだけで子供四人を運ぶのはきついだろう。もう少し人手が欲しい。魔物がいることを考えれば、クラウスが適任だ。




