食後の運動
今回は、少し短めです。
王都と違って、地方は夜が早い。大通りとはいえ、人通りもそこまで多くない。
大通りから小路に入ったところで、急にクラウスとルカの表情が変わった。
「……つけてきているな」
「ええ。七、いえ八……夜盗ですかね」
クラウスとルカがお互いに頷きあう。
「油断はするな」
「クラウス様は、リオン殿下とジグ様をお願いします」
「いわれずとも」
ルカが飛び出す。少し遅れて鈍い悲鳴が上がる。急襲するつもりが反対に襲われて慌てたのか、物陰から不揃いな装備を身に着けた何人かの男が飛び出してきた。
「俺たちを襲おうとはいい度胸だ」
クラウスが不敵に笑う。
「くそっ……やっちまえっ!」
リーダーらしき男が声を張る。クラウスは夜盗を十分に引き付けてから、大剣を一振りし、彼らを薙ぎ払った。ほどなくルカが戻ってくる。特に怪我も無さそうだ。涼しい顔をしている。
倒れた夜盗は、怪我はしているが全員気を失っていた。クラウスとルカが器用に彼らを縛り上げていく。
ふと、一人の夜盗に目が留まる。
「あれ? さっきの店にいた人……?」
「おそらく、店での食事の様子から、金を持ってると思ったんだろうねえ」
くわっ、とあくびをしながらジグが横から覗き込んできた。
まあ、確かに山盛りの肉料理だったしね。しかも、僕たちって傍目には戦力少なそうに見えるらしいから、簡単に襲えると考えたのだろう。僕が王族ってことは……気が付かなかったことにしておこう。
「……どうして夜盗なんてやっているのかな」
「純粋に食うに困ってやっている奴もいるだろうがな。まじめに働くよりも人のものを奪ったほうが金になるとなれば、そっちに飛びつく奴もいる。まあ、碌な結果にはならんが」
クラウスが冷めた目で夜盗たちを見る。
「……」僕は、軽く溜息をつく。
「どうかしました?」
クラウスの答えに黙った僕をルカが覗き込む。
「なんていうか、一応この国の王子だからね。こういうことって、どこの国でもあるのかな? 父上は知っているのかな?」
僕が何かできるわけでもないけれど、帰ったら父上に報告してみよう。
縛り上げた夜盗たちを憲兵に引き渡して宿に帰る頃には、大通りの店の明かりも消えていた。ジグは、かなり眠そうだ。
あ、そういえば風呂に入っていない。今から風呂屋に……は、もう時間が遅そうだ。部屋に風呂はない。今日くらいはさっぱりしたかったが、今から風呂のために出るのも面倒だ。仕方なくこのまま休もうかと考えていると、ポポポポポポ……と不思議な音がしてきた。
「あ、ジグ様!」
「おい、起きろ!」
慌てた声に振り返ると、ジグが花まみれになっている。当の本人は、ムニャムニャと夢の中のようだ。何故か両手を擦っている。
「ジグ殿!」
クラウスが花を避けながら肩を揺らす。
「うーん、キレイキレイ……」
「……もしかして、夢を見ながら、自分に浄化魔法をかけているのか……?」
「……そのようですね……風呂にでも入っているつもりでしょうか」
ルカがどっと疲れた顔をしている。確かに、ジグはお風呂に入りたがっていたからね。しかし、どうしたら浄化魔法が花に埋もれる魔法になるのかな。先程まで、僕も相当眠かったけれど、眠気がどこかへいったよ。
ジグは、すぐに深い眠りに入ったのか、それとともに魔法は止まった。僕たちは、大量の花に囲まれて一晩を過ごすことになった。
「いや~、ごめんね? 何か寝ぼけてたみたいで」
翌朝、一人だけ爽やかに起きてきたジグが、あはは、と笑っている。ルカもクラウスも半目だ。大量の花は、謝罪とともに宿の女将さんに渡したら、反対にとても喜ばれた。
帰り支度をして四人で遅めの朝食をとる。
「帰りはどうやって帰る?」
「来た道を戻ってもいいですが、急ぐわけでもないので、調査がてら違うルートでも問題はないと思います」
「リオン殿下の好きなようにしたらいい」
「俺は、途中で休みながらなら、どんなルートでもいいよ―」
四人でこうして旅に出るとき、移動方法は僕の判断に委ねられることが多い。理由を聞いたことはないが、 役立たずの僕の自尊心を持ち上げようとしているのかともしれない。
僕は、僕自身のせいで周りに迷惑をかけなければ、特に意見はない。が、へたに寄り道をしてあらたなトラブルに巻き込まれるのもごめんだ。
「遊んでると思われても嫌だから、まっすぐ帰ろう」
僕たちは宿を出た後、貸し馬車屋で馬車を一台借りた。ルカがやるから、御者は付けない。僕の従者はとても優秀だ。
王家の馬車では豪華すぎるし、乗り合いではトラブルに巻き込む可能性もあるから、僕たちが出かけるときはこの選択しかない。
いくらかの水と食料を積み込み、町を出る。この町に来る道中では雨に降られて大変だったから、帰りは雨が降らないことを願う。




