柚葉ちゃんて陽太くんのこと好きなの?
陽太より身長が15cm高い柚葉はだんだん陽太が気になり始めて・・・。
「おい!陽太、一緒に帰ろ?」
「柚葉・・・いつも俺の頭をワシャワシャするのはやめろ」
模擬店は大繁盛だ。行列ができている。
クラスメイト総出で会計、調理、パック詰め、行列整理にあたる。
昼のピークが過ぎ店番は二人になった。
「あの‥…柚葉ちゃんて陽太くんとすごく仲がいいよね‥…。あ‥…あの、恋人どうしとか‥…?」
美鈴は恐る恐る柚葉に聞いた。
柚葉は一拍置いて
「べ‥…別に恋人とかそんなんじゃなくて、ただ気が合うってだけ。ほら、わたしのほうがめちゃくちゃ陽太より背が高いじゃん?恋愛対象外だよ!」
顔を真っ赤にして身振り手振りで答える。
明らかに柚葉は動揺していた。
美鈴は柚葉を見上げて笑顔で言った。
「わたしは陽太くんのことが好き。彼氏になって欲しいんだ」
そして真っ直ぐ前を見つめて決意したように言った。
「まだ告白する勇気ないけど‥…でも誰にも渡したくない」
真剣な美鈴に柚葉は焦った。
自分が素直になれないばかりに陽太をとられてしまうかもしれない。
柚葉は彼氏よりも背が高い彼女なんて嫌だよね‥…。陽太の顔を思い浮かべた。
夕方になり模擬店の片付けを始めた。
陽太がやって来た。
「手伝うよ」
美鈴はすぐに陽太のもとへ行き
「一緒にお鍋洗いに行かない?」家庭科室に誘った。
「ああ、そうだな。鍋重いし俺が持つよ」
「柚葉!美鈴と家庭科室にいってくる!そっちよろしく!」
柚葉は楽しそうに話ながら校舎へ入っていく陽太と美鈴を見ていた。
柚葉はとんでもないことを言ってしまったことを後悔した。
【陽太より背が高いじゃん?恋愛対象外だよ】
嘘だ。やっぱり嘘だ。嘘じゃなければこんなに心が痛いわけがない。
柚葉は意気消沈してレジのお金の精算を始めた。
柚葉は今朝のことが頭をぐるぐるまわった。
わたしのために焼きそばの麺を必死にかき集めてくれた。しかも何にも言わないで。
あのときわたしは陽太のことどう思った?
‥…やっぱり好き。デカイ小さいとか言い合うのも好き。わたしがあたまをふざけてわしゃわしゃすると不機嫌になる陽太が好き。そして小さくたって誰よりも男らしくて頼りになる。人間として、男としてすごく大きい。
柚葉は1000円札を握ったままだった。
「よし着いた。美鈴、ドアを開けて」
美鈴は勢いよく開けた。
「陽太くん、洗うのはわたしがやるよ」
美鈴は腕まくりをした。
鍋を洗い終え、シンクを片付けると美鈴は窓際の椅子に座った。
家庭科室に夕日が差し込む。
「文化祭ももう少しで終わっちゃうね。あのさ、陽太くん。後夜祭の花火一緒に見たいな。うちの学校のジンクス。後夜祭の花火を一緒に見た人と結ばれる。だから陽太くんと‥…」
陽太は立ち上がって美鈴に頭を下げた。
「ありがとう。だけど、俺、一緒に見たい人がいるんだ。あっちは俺のこと男としてなんか見てないからフラれるのがオチだけどさ。でもやっぱ自分の気持ちに嘘はつけない。だから、ごめん」
美鈴は涙ぐみながら
「そんなの分かってたよ。やっぱ勝てなかったな。陽太くん、きっと陽太くんが大切に思う人も陽太くんを待ってると思うよ。早く行ってあげて。お鍋はわたしが片付けておくよ」
「ごめん」それだけ言って陽太は家庭科室を出て行った。
美鈴は家庭科室の窓から夕日を眺めた。
彼氏は彼女よりも背が高かくなくちゃダメ。彼女は彼氏よりも背が低くなくちゃダメ。
そんなの誰が決めたんだろ‥…。
そんな価値観がすべての人に当てはまるのなら、わたしは負けなかった‥…と思う。
結局、好きって気持ちは見た目だけじゃないんだ。わたしだって陽太くんの見た目だけじゃなくて頼りがいがあるとことか、優しいとこがいちばん好きなんだし。
‥…くやしい‥…。
美鈴は窓にもたれ掛かり大粒の涙が制服を濡らしていた。
「よ!柚葉。まだ片づけ終わってないのかよ?」
「うっさい。ひとりだから終わんないんだ」
「みんなは?」
「花火見るとか、軽音部のライブ見るとか次々いなくやるし!」
「ったく薄情なやつらだな。俺も手伝うよ」
「あれ?美鈴は?」柚葉はちょっと気にして勘づかれないように言った。
「あ‥…ああ。なんか教室に忘れ物あるとかで、先に帰ってきた‥…」
陽太と柚葉はテキパキと片付けを始めたが会話がうまくできない。今までならいくらでも話せた。なのに今は話せない。
二人ともお互いの気配は感じてはいる。
陽太はテントを畳もうとして支柱に手をかけようとした‥…が届かない。何度かジャンプする。
柚葉の後ろでドタバタ音がする。
振り向くと陽太がテントの支柱を掴もうとジャンプを繰り返している。
柚葉は今にも陽太を強く抱き締めたい気持ちになった。しかしそれを隠すように
「おい!陽太。届かないならわたしに言ってよね!そんなのすぐに掴めるんだから!」
「うるせーな。そこのジュースのコンテナ寄越せ。載れば届く!」
柚葉は陽太の隣へ行って支柱を手に取っておろした。
陽太は柚葉を見た。
「またデカイって言うんでしょ!?そんなのわかってるんだからね!」柚葉はいつものようにふざけて返した。
陽太は柚葉を見上げて黙っている。
「ちょっと、なによ?まじまじわたしの顔を見て。なんか付いてる?」
陽太はゆっくりと口を開いた。
「あのさ‥…柚葉。後夜祭の花火あるだろ?」
「あれね。一緒に見た人と結ばれるんだっけ?」柚葉は陽太を見下ろして言った。
「あの‥…やっぱ美鈴と行くのかな‥…?あはは、ごめん。変なこと言った。当たり前だよね」
だんだん声が小さくなった。
「柚葉。俺、柚葉と花火が見たい。柚葉じゃなくちゃダメなんだ!」
それを聞いた柚葉は大きく息を吸い込んで吐き出せなくなった。
ようやく声が出せるようになると
「え‥…?わ‥…わたしと?そのわたしじゃ陽太に釣り合わないっていうか‥…」気持ちとは真逆の言葉が出てきた。
陽太は改まって大きな声で
「一ノ瀬柚葉さん!俺と花火見てください!」
頭を下げた。
柚葉の顔はますます赤くなり、心臓は止まりそうになる。
「わたしでいいの‥…?その‥…陽太はわたしといると身長のこと嫌じゃないの?」
陽太は力を込めて
「やっぱ、自分より背が低い男はだめか?」
「だめなんかじゃない‥…」
「え‥…?今なんて?」陽太は聞き返した。
「だめなんかじゃない!!わたしは陽太が好き!みんなが陽太が背が低いとかわたしが背が高いとかいろいろ勝手なこと言うけど、そんなの知らない。わたしは陽太しか見てなかった。ずっと好きだったんだよ。だけど身長のことで迷って言えなかった。でも言えた。やっと本当の自分の気持ち」
陽太は一歩柚葉に近づいて
「ありがとう。柚葉。俺も柚葉のこと好きだったのに気がついたんだ。身長のことでごまかして考えるのやめてた。俺ももう逃げない。柚葉、大好きだよ」
柚葉は思わず陽太に抱きつこうとしたが、ここは模擬店。理性が働いた。
代わりに陽太の頭を思いっきりわしゃわしゃした。
日が落ちて多くのカップルがあちらこちらに座り始めた。
後夜祭の花火が始まる。
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