第97話:親子の再会
「サリー…」
ポツリとお父様が私の名前を呼んだのだ。一瞬びくりと肩を震わせる。
それでも、ゆっくりとお父様の方を向いた。
「お…お父様、お久しぶりです」
震える声で必死に挨拶をする。怖い…やっぱりまだ、会うのは早かったかしら?
「サリー、元気そうでよかった。君の亡くなった母親、マリアにそっくりだ。マリアが命を懸けて守った命を、私は…
きっと君は、私の顔なんて見たくもなかっただろう。それでも今日、私と会う事を決断してくれた。必死に許そうとしてくれた。こんなに優しい子を、私は虐げ殺そうとしたのだ。
私は本当に、どうしようもない人間なんだ…サリー、本当にすまなかった」
涙を流しながら必死に頭を下げるお父様。その姿を見た瞬間、胸が張り裂けそうになる。
「お父様、どうか頭をあげて下さい。確かにお父様との思い出は、辛く苦しいものばかりでした。ですが…それでも私にとってお父様は、たった1人の大切な父親です。
お父様が辛い思いをしているとお兄様に聞いた時、胸が張り裂けそうになりました。お父様はずっと、お母様を愛していたのですよね。私を憎んでしまうほどに。
お母様はもう生き返る事はありません。ですが、きっと傍で見守っていてくれるはずです。ですので、どうかお父様も、ご自分の幸せを考えて下さい。お父様が幸せだと、私も嬉しいですから」
実の娘でもある私を恨んでしまうほど、お母様の事を愛していたお父様。きっとお母様も、お父様の事を気にかけているだろう。お母様の為にも、どうかお父様には幸せになってもらいたい。
そう強く思っているのだ。
「サリーは本当に優しい子だ。こんな酷い父親に、幸せになって欲しいだなんて…サリーはマリアにそっくりだな。マリアも命を懸けて産んだ子を殺そうとした私を、助けようとしてくれていた様なんだ」
「お母様が、お父様を?」
それは一体どういう意味なのだろう。
「実はね、1週間ほど前にまた私の夢の中に、マリアが現れたの。相変わらず何も話さないのだけれど、とても悲しそうな顔をしていて。その時一瞬だけ、サリーの幼い頃の写真とマリアの写真を抱きしめて涙を流すお義兄様の姿が浮かんだの。
ああ…この子はお義兄様の事も許してやってほしい、どうか親子の再開を手助けして欲しいと願っているのだと。ちょうどそのタイミングで、ジョージ殿下がいらして。マーガレットに連絡する際に、今回の夢の事も話したのよ。
それでお義兄様も一緒に、この国にやって来たのだけれど…」
「そうだったのですね…」
お母様はずっと、私とお父様、お兄様の事を心配していらっしゃったのだろう。だからこそ、私とお父様が仲違いしている状況に、胸を痛めていた。それで叔母様に助けを求めたのだろう。
もしかしたら、ジョージ殿下がいらっしゃる事も、知っていたのかもしれない。
お母様はなんでもお見通しなのね。
「サリー、父上と和解出来てよかったね。亡くなった母上も、君と父上の事をずっと心配していたのだろう。君の父上は、サリーが国を出てから本当に人が変わってね。よくサリーの事を口にする様になったんだよ。
16年間すれ違ってしまった時間を、少しでも埋められたら…僕にその手助けをさせてくれないかな?」
私の傍にやって来たのは、ジョージ殿下だ。
「ジョージ殿下、何をおっしゃっているのですか?サリーは今、マレリス王国で幸せに暮らしているのです。確かにまたサリーと暮らせたら、そう思う事もあります。ですが私の一番の願いは、サリーが幸せに暮らす事。
サリー、私の事は気にしなくてもいいから、自分の好きな様に生きなさい。それが亡くなったマリアの願いでもあるのだから。
サリーは十分すぎるほど、自分を犠牲にして来た。もう自分を犠牲にする必要はない」
お父様が少し寂しそうに笑ったのだ。いつも私の事を睨みつけていたお父様が、こんな穏やかな表情をするだなんて…




