第94話:不安で押しつぶされそうだ~ルーカス視点~
「サリー、今日は疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます、ルーカス様。それではこれで、失礼いたしますわ。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
サリーを部屋まで送り届けると、自室へと向かう。
今日、サリーは元婚約者候補でもあったジョージ殿下の視察に付き合うため、朝から外出をしていた。サリーは僕が贈ったドレスに身を包み、出掛けて行った。
元婚約者候補に会う日に、僕が選んだドレスを着てくれたサリー。きっと大丈夫だ、そう自分に言い聞かせながら、サリーの帰りを王宮で待っていた。
それでも心配で、部屋の中をうろうろと歩く。
「サリーの事が心配なの?大丈夫よ、ローレンが傍にいるから。あの人、サリーの事をとても可愛がっているのよ。昨日もサリーを視察に連れて行かなければいけなくなったことを、非常に気にしていたし。
それに今日、サリーは自らの意思であなたが贈ったドレスを選んで着たと、使用人が話していたわ。ジョージ殿下がどんなに訴えても、サリーを裏切った事には変わりはないのですもの。
サリーは賢い子よ。変な情に流されたりは…しないと思うわ…」
なぜか最後の方、叔母上は自信を無くした様に小声になった。サリーは確かに賢いが、誰よりも優しい子だ。幼い時から人の顔色を窺い、我慢する事が当たり前の世界で生きてきた。自分が我慢すればいい、その考えがそう簡単に抜ける事はないだろう。
それに何よりもジョージ殿下は、サリーが好きだった相手だ。魔力を4年もの間提供し続けるくらい…幼い頃はジョージ殿下との仲も良好だったようだし。もしサリーが、ジョージ殿下を選んだら…
考えただけで、胸が張り裂けそうになる。
何度も何度も窓の外を眺める。今頃サリーは、何をしているのだろうか…ジョージ殿下と笑い合っているのだろうか…
ついそんな事を考えてしまう。
待っている時間は、まるで地獄のような時間だった。そんな中、やっとサリーが帰ってきたのだ。すぐに家に帰ろうとしたのだが、サリーは自分が去った後のミレンズ王国の事が気になるとの事で、ジョージ殿下の話を聞く事になった。
その話は、あまりにも身勝手な話だった。皆後悔をしているだって?出来る事なら国に戻って来て欲しいだって?どこまで身勝手な奴らなんだ。散々サリーを傷つけておいて、今更どの面下げてそんな事が言えるのだろう。
サリーを何だと思っているのだ!怒りからつい、ジョージ殿下に強い口調で話してしまった。絶対にサリーをミレンズ王国になんて返さない、そう思っていたのだが、叔父上も叔母上もサリーの気持ちを一番に考えたいと言ったのだ。
サリーの気持ちを一番に…
その言葉が、僕の不安をさらに強めた。サリーはずっと、自国で虐げられてきた。ずっと1人だった。そんな中、自分の事を心配してくれていた人がいた事。ずっとすれ違っていた家族との和解。
さらにかつて愛していた男からも、思いを伝えられた事。もう一度自国で、一からやり直したいとサリーが考えたら…
ダメだ、つい良くない方向に考えてしまう。もしサリーがミレンズ王国での生活を望んだら、僕は素直にサリーを送り出してやれるのだろうか…
サリーは僕にとっても、かけがえのない大切な子だ。彼女のお陰で、僕は今生きている。だからこそ、僕の手でサリーを幸せにしたい。
分かっている、僕が抱く感情は一方的なもので、サリーは望んでいないかもしれないという事を。それでも僕は、サリーと離れたくはない。
もしサリーを失ったら、僕は一体どうやって生きていけばいいのだろう。
その日は不安と恐怖から、ほとんど眠る事が出来なかった。
翌日
いつも通りサリーの部屋の前にやって来た。サリーももしかしたら、昨日の夜は酷く悩んでいたかもしれない。サリーもどうしたらいいのか分からず、悩んでいるかもしれない。
出来るだけサリーの負担にならない様に、いつも通りサリーに接しよう。そう心に決め、サリーを待ったのだった。




