第93話:家族の思い
「お言葉ですがジョージ殿下、サリーはあなた様の国で傷つき、孤独を感じ、絶望していたことは確かです。叔母上が行かなければ、サリーは父親に殺されていた事でしょう。
それなのに今更、随分とムシのいい話ですね。あなた様の恋人は、ルールを破ったから修道院送りになったとおっしゃいましたが、あなた様に近づいた時点で、既にルール違反だったのではないですか?
それなのに、その行動を許していたのは、あなた達ですよね。あなた様は知らなかったとおっしゃいますが、他の貴族たちは?国王陛下や王妃殿下は?全ての人たちは知っていたのに、何も策を講じなかったではありませんか。
サリーはこの国に来て、やっと幸せをかみしめ、穏やかな生活を送っているのです。それなのに、今更国にもどれですって?皆後悔しているだって?
バカにするのも大概にしてもらいたい。あなた達の後悔など、サリーには関係ない話だ!サリー、帰ろう。
こんな茶番に、君が付き合う必要はないよ。君は優しいから心が揺れ動くかもしれない。だが、サリーが15年間受けてきた苦痛を考えれば、決して許される事ではないのだから」
怒りに震えながら立ち上がったのは、ルーカス様だ。
「ルーカス、言葉を慎みなさい!ただ…サリーがこの国に来た時の状況を考えると、私もサリーをミレンズ王国に返したいとは考えておりません。ガリガリにやせ細り、青白い顔をしていたサリーは、とても公爵令嬢には見えない姿でした。
あの時の姿を思い出すと、今でも胸が苦しくなるのです。ジョージ殿下のお気持ちは理解いたしますが、どうか私共の気持ちも理解してください」
叔父様も笑顔を作っているが、どこかいら立っているのが分かる。皆私の為に、他国の王太子でもあるジョージ殿下に意見してくれている。
「ジョージ殿下、私は実際ミレンズ王国で、サリーの置かれている状況を目の当たりにしました。私の双子の姉、マリアが血の涙を流しながら必死に“サリーを助けてほしい”と懇願した理由が痛いほど伝わるほど、酷い状況でした。
あの時の…サリーの絶望に満ち生きる事すら諦めた瞳を、そしてマリアの悲痛な叫びを思い出すと、今でも胸が引き裂かれそうになるのです。
正直ミレンズ王国にサリーを返すだなんて、考えただけで不安で押しつぶされそうになります。ですが…ミレンズ王国に帰国するかこのままずっとマレリス王国で暮すかを決めるのは、サリーです。サリーはもう16歳、自分の人生を自分で決める年齢になっております。
とはいえ、急に色々な情報がはいってきて、サリー自身も頭が混乱している事でしょう。どうか少し、この子にお時間を与えてやっては下さいませんか?
よろしくお願いいたします」
叔母様がジョージ殿下に向かって、頭を下げたのだ。
「夫人、頭をあげて下さい。僕もサリーの気持ちを大切にしたいと思っております。そうですね、サリーにも考える時間が必要でしょう。サリー、君はどうしたいのか、一度考えてみてほしい。
ただ…僕はずっと、君の事を思っている。その事だけは、忘れないでほしい」
君の事を思っているか…
「ジョージ殿下、寛大なお心遣いありがとうございます。それでは我々はこれで失礼いたします」
「サリー、家に帰ろう」
王太子殿下とジョージ殿下に頭を下げると、ルーカス様に連れられ、叔父様と叔母様と一緒に部屋から出る。そして馬車乗り場へと向かった。
誰も口を開こうとはしない。ただ、皆何かを考えている様な表情を浮かべていた。
今日のジョージ殿下のお話は、衝撃的だった。私が去った後、まさかあの様は事になっていただなんて。
今思い出してみるとメリンダ様は、一番にお妃候補を辞退していた。とはいえ、私は進んでジョージ殿下のお妃候補になったのだ。
少しでもジョージ殿下の力になりたくて…その気持ちは、今も後悔していない。ずっと支えてくれたジョージ殿下の役に立てたのだから。
「サリー、今日は疲れただろう?無理して今結論を出そうとしなくてもいいのだよ。ゆっくり考えたらいいから」
叔父様が優しい眼差しで、そう言ってくれた。叔母様も笑顔でほほ笑んでいるが、どこか寂しげだ。
叔父様も叔母様も、いつも私の事を一番に考えてくれる。もちろん、ルーカス様も…
“サリー、今度こそ自分の為に生きて”
ふとお母様の言葉が、脳裏に浮かんだ。
そうよ、今度こそ私は、自分の為に生きると決めたのだ。私がどうしたいのか、それが一番大切なのだ。
きっと私がどんな結論を出そうと、受け入れてくれるだろう。だから自分に正直に、自分の気持ちに素直に生きよう。
改めてそう誓ったのだった。
次回、ルーカス視点です。
よろしくお願いいたします。




