第92話:知らなかった事実
「ジョージ殿下、頭をあげて下さい。あなた様は私が魔力を提供している事を、知らなかったのです。それに私は顔色も悪く、何も知らないジョージ殿下から見たら、こんな女が王妃になれるのかと心配に思うのも無理はありませんわ。
それよりも、ジョージ殿下はメリンダ様の事、よかったのですか?愛し合っていらっしゃったのでしょう?」
2人はとても仲睦まじかった。私を捨ててでも、一緒になりたいと思うほどに。
「メリンダ嬢には、今は嫌悪感しかないよ。まさかあの女が、あそこまで卑劣で卑怯な女だっただなんて…とはいえ、そんな女に騙された僕も愚かだった。それでも貴族たちは、そんな愚かな僕を許してくれたんだ。
だからこれからは、ミレンズ王国をもっともっと良くしていくために、人生を捧げていきたいと思っているよ」
「そうだったのですね…」
まさかメリンダ様があの後、罪に問われていただなんて、夢にも思わなかった。あまり深く考えていなかったけれど、確かに高貴な身分の貴族たちが多数反対してくれていた。
「なるほど、そのメリンダ嬢という人がいなくなったから、慌ててサリーを婚約者にしようと考えたのですか?随分と都合の良いお話ですね。そもそもミレンズ王国には、他にも令嬢がいらっしゃるでしょう。その方たちが、殿下の婚約者になられたらよろしいでは?」
「こら!ルーカス。申し訳ございません、ルーカスが失礼を申し上げました」
ルーカス様の発言に対し、叔父様が慌てて謝っている。そんな叔父様を、ルーカス様が睨んでいるのは、気のせいだろうか…
「ルーカス殿の言う通りです。散々サリーを傷つけておいて、今更と思われても仕方がありません。ですがサリーを失って、初めてサリーが僕にとって、どれほど大切な人だったか分かったのです。
今更都合のいい事を!と思われるかもしれませんが、もし許されるなら、これからの全ての人生をかけて、サリーに償いたいのです。そのチャンスを与えてもらえたらと…
それから、もう我が国の令嬢の中から、僕の花嫁を選ぶのは不可能ですよ。かつてお妃候補として名前が挙がった令嬢たちは、僕の婚約者になる事は絶対にないと宣言していますし…
彼女たちは僕とメリンダ嬢が仲良くしていた時から、ずっと僕たちに嫌悪感を強く抱いておりました。最初は嫉妬しているだけだと思っていたのですが…彼女たちはサリーの置かれている状況を、ずっと気にかけていたのです。
“サリー様が命を懸けて殿下を助けたのに、今更サリー様を差し置いて私たちが殿下と結婚し、お妃になる事は絶対にありませんわ”
そう申し上げておりました。彼女たちはずっと、サリーを気にかけていたのです。もちろん、こんな愚かな僕に嫁ぐことを嫌がっているのも、理由の一つではあるのですが…」
かつてお妃候補者に名前が挙がっていた令嬢たちが、私を気にかけていたですって…
思い返してみれば、彼女たちは私が苦しそうにしていると、いつも心配そうに声をかけてきてくれていた。そんな彼女たちに迷惑をかけまいと、距離を置いていた。
自分がいかに、周りが見えていなかったのか。自分の事ばかりで、彼女たちの気遣いに気が付いていなかっただなんて、自分の愚かさを痛感する。
「彼女たちはサリーには絶対に幸せになってほしい、ミレンズ王国で傷ついた分、マレリス王国で素敵な殿方を見つけて幸せになってほしいと…だからこそ、僕には他国から王女を迎え入れてほしいとも…
サリー、君はずっと孤独だったと思っていたかもしれないが、君の事を気にかけていた人たちは、たくさんいたのだよ。母上も君の事を気にかけているし、ローレティエン公爵もサレオ殿も、今は誰よりも君の事を気にかけている。
ローレティエン公爵、サリーがいなくなってから人が変わったってね。時間を見つけては、サリーが通っていた孤児院に足を運んでいるよ。サレオ殿の話では、サリーが好きだったお菓子を並べ、サリーが好きだった青バラ園でよく1人でお茶をしているらしい。
令嬢たちも自分たちがもっとサリーを気かけていればと、心を痛めていたよ。
君にとってミレンズ王国は、辛い場所かもしれない。それでもミレンズ王国には、君の事を大切に思っている人たちが、沢山いるんだ。
皆サリーには幸せになってほしいと願いながらも、心のどこかではもし許されるのなら、今度こそサリーと良い関係を築きたいと考えている人も多い。
もちろん、僕もその1人だよ」
ジョージ殿下の言葉が、胸に突き刺さる。ずっとミレンズ王国には、味方なんていないと思っていた。唯一私の味方をしてくれたのは、王妃殿下だけだと…
でも、私の知らないところで、私を気にかけて下さっていた令嬢たちがいただなんて。お父様やお兄様だって、今は…




