第90話:ジョージ殿下と視察に向かいます【その4】
「僕も混ぜてくれるかい?」
笑顔で子供たちに話しかけたジョージ殿下。子供たちと一緒に遊び出したのだ。いつも笑顔で子供たちを見ているだけだったジョージ殿下が、子供たちと一緒に遊ぶだなんて。
「サリー、びっくりしたかい?君がこの国を去った後、僕も慈悲活動に力を入れていてね。最近では子供たちも、すっかり僕に懐いてくれているのだよ。
そうそう、サリーがずっと通っていた孤児院は今、ローレティエン公爵とサレオ殿が中心となり、今も援助を続けているよ。2人は時間を見つけては、孤児院に通っているみたいだよ。
“サリーの意思を引き継ぎたい”と言ってね」
「そうだったのですね…お父様とお兄様が、そんな事を」
お兄様、孤児院の事なんて何も言っていなかったわ。それに私の事なんて、ずっと興味がないと思っていたのに。私が孤児院に通っていたことを、知っていらしたのね。
何だか胸が熱くなった。
「はい、これをどうぞ」
私のジョージ殿下の頭に、野花で作った花冠を乗せてくれたのだ。
「王子様とお姉ちゃん、恋人同士なのでしょう?2人とも、とってもお似合いだから」
ニコニコしながら、私たちの方を見つめる女の子。どうしよう、私たちは恋人同士でも何でもない。でも、この子の気持ちを無下にしたくないし…
「上手に作ってくれたのだね。ありがとう、大切にするよ」
ジョージ殿下が女の子を抱き上げ、笑顔でお礼を伝えている。女の子も嬉しそうだ。
「サリー、この花冠、大切にしようね」
優しい眼差しで、私に話しかけてくるジョージ殿下。
“サリーがこの花冠をつくってくれたのかい?嬉しいな。僕の宝物にするよ”
昔ジョージ殿下とピクニックに行った時、不器用ながらも一生懸命作った花冠を、嬉しそうに被ってくれたジョージ殿下。その時の姿と重なり、胸が苦しくなった。
ジョージ殿下が向ける優しい眼差し…ジョージ殿下は家族から虐げられていた私に、いつも寄り添ってくれていた。
そんな彼を、私は好きになったのだったな…
昔の気持ちが、一気に蘇る。
「ジョージ殿下、サリー嬢、そろそろ戻らないと…」
王太子殿下が、申し訳なさそうにこちらにやって来たのだ。
「もうそんな時間なのですね。私の我が儘に付き合って頂き、ありがとうございました。君たちも、元気でね」
子供たちに別れを告げ、馬車に乗り込んだ。日が沈みかけ、空は真っ赤に染まっている。
「綺麗な夕焼け空だね。サリー、覚えているかい?君がまだ幼かった時、ピクニックの帰りに見た空も、こんな感じで真っ赤だったね」
「そうでしたね。あの時も今のように、私が作った花冠をずっと付けていてくれていましたね」
「そうそう、サリーが一生懸命作ってくれた花冠。実はまだ王宮にあるのだよ。サリーから初めてもらった手作りの花冠が嬉しくて、魔法で枯れない様に保存してあるんだ。この花冠も、同じように保存しないとね」
「まだあのような物をですか!もう10年近く前の事ですのに…」
「僕にとっては宝物だからね。サリー、今更ながら本当にすまなかった。謝っても許される事ではないとわかっている。今更後悔しても遅い事も…自分がどれほど愚かだったか、今更ながら痛感しているよ」
何度も何度も頭を下げるジョージ殿下。
「どうかもう謝らないで下さい。過ぎた事ですから。どうか私の事は気にせず、メリンダ様との未来を…」
「メリンダ嬢は今、修道院で生活をしている。彼女は重大な罪を犯したからね。本来なら国外追放もあったのだが、君の父、ローレティエン公爵の計らいもあってね。
とはいえ、ミレンズ王国で一番厳しいと言われている、北の修道院へ送られたよ。一生そこで生活をする事になっている」
「メリンダ様が、修道院ですって!一体どう言うことですか?彼女はどんな罪を犯したのですか?一生修道院から出てこられないだなんて…」
侯爵令嬢でもあるメリンダ様にとって、修道院での生活は相当辛いものだろう。よほどの罪を犯さない限り、そんな厳しい罰を受ける事はないのだが…
一体ミレンズ王国で、何があったの?




