第87話:ジョージ殿下と視察に向かいます【その1】
「ありがとう、サリー。それじゃあ、早速明日、私と一緒に王宮に来てくれるかい?」
「はい、承知いたしましたわ」
「サリー、本当にいいのかい?本当にジョージ殿下と一緒にいても、平気なのかい?叔父上や叔母上の役に立ちたい一心で、動いているのではないのかい?それともまだ、ジョージ殿下に未練が…」
ルーカス様が、真剣な表情で訴えかけてくる。そんな彼に笑顔を向けた。
「確かに私は、叔父様や叔母様の役に立てたら、そう思っております。叔父様や叔母様は、私に沢山の愛情を与えて下さいました。この国に来て、本当に幸せで。この幸せが一生続けば、そう願っておりますわ。
それにジョージ殿下に対しても、皆様が心配されているほど嫌悪感を抱いてはおりません。嫌な思い出も多いですが、楽しかった思い出も沢山あります。それに、私がもっとうまく立ち回れていれば、ジョージ殿下も他の女性に気持ちが動く事もなかったかもしれないと、反省する部分もありますから。
とはいえ、私も人間です。ジョージ殿下がやった事は、やはり許せるものでもありませんし、彼の婚約者に再度なる事はありません。
もう誰かの為に、自分を犠牲にする事は止めたのです。私は私の為に生きる、それが亡くなった母の願いでもあり、私の希望でもありますから。
ジョージ殿下には改めて自分の口から、もう一度はっきりと伝えるつもりですわ」
この件が全て片付いたら、今度こそルーカス様と向き合いたい。その為にも、ジョージ殿下の件はしっかりと自分でケリを付けたい。そう思っている。
「サリーがそこまで言うのなら…分かったよ」
ルーカス様も納得してくれた様だ。
「それでは私はこれで失礼いたします」
ペコリと頭を下げて、部屋に戻ってきた。
「あなた達、明日の視察についての資料を、すぐに取り寄せて。今から視察の情報を叩き込むわ」
近くにいた使用人たちに、指示を出す。今回元婚約者とはいえ、他国の王太子殿下の視察に同行するのだ。グラッサム公爵家の名に恥じない様、最低限の情報は頭に入れておく必要がある。
「お嬢様、明日の資料です。それから、視察場所の資料も準備いたしました」
「ありがとう、助かるわ」
私の要望をすぐにききいれてくれるこの子達は、本当に優秀で助かっている。それに私の性格も熟知してくれている。ミレンズ王国から来てくれたこの子達には、本当に感謝しかない。
早速資料を確認していく。出来るだけ詳しく、もう少しだけ…
そう思っていたら、結局夜遅くまでかかってしまったのだった。
翌日
眠い目をこすりながら、準備を進めていく。
「お嬢様、ドレスはどれにいたしましょう?」
「そうね、今日はこのオレンジのドレスにするわ」
私のお披露目の時に、ルーカス様がプレゼントしてくれたドレスを選んだ。どうやら彼自身がデザイナーと相談して作ってくれたものらしく、私の宝物なのだ。
着替えを済ませ、部屋から出るとルーカス様が待っていてくれた。
「おはよう、サリー。そのドレス、僕が贈ったものだね。よく似合っているよ」
「おはようございます、ルーカス様。こんなにも素敵なドレスを贈って下さり、ありがとうございます。今日はルーカス様はいらっしゃらないでしょう?でもこのドレスを着ていたら、なんだかルーカス様も傍にいてくれる気がして…いいえ、何でもありません」
私ったら何を言っているのかしら?恥ずかしいわ。これではまるで、私がルーカス様を好きみたいじゃない。
「サリー…君って子は…すまない、僕も本当は一緒に行きたいのだが、僕の同行は認められなくてね。でも王宮までは一緒に行くから、安心してくれ。さあ、行こうか」
差し出された手を取り、2人で歩き出す。
ルーカス様の手、大きくて温かい。こんな風にこれからもずっと、ルーカス様の傍にいられたらな…
その為にも、今日の視察はしっかり頑張らないと。




