第83話:愚かな自分【その8】~ジョージ視点~
部屋の外がなんだか騒がしくなったのだ。一体何の騒ぎだ?
「どうして私は、ジョージ様と結婚できないのですか?そんなのおかしいでしょう?お父様は私が王妃になるのが、嫌なのでしょう?」
「いい加減にしなさい。今日の貴族会議で正式に決まった事だ。ジョージ殿下も納得している。そもそもお前には、王妃になる権利はないんだ。5年前、一番に拒否しただろう。あの時の事を忘れたのか?」
「確かにあの時はそう言いましたが、時間が経てば気持ちも変わるものです。それにサリー様は、もうこの国にはいらっしゃらないのでしょう?それなら問題ないですわ。
…そうか、そう言う事なのですね。私には王妃の仕事は厳しそうだから、仕事が出来そうな人を王妃に向かえて、私はジョージ様の子供を産む。そして私が産んだ子を、次の王太子にするという事なのですね」
どうやら王宮に押しかけてきていたメリンダ嬢と、父親でもある侯爵が言い争いをしていた様だ。それにしても、どうしてそういう発想になるのだろう…
どこまでも愚かな女だ。そんな女に、僕は…
「何をバカな事を言っているのだ!そんな非常識な事を、王宮で大きな声を言うものではない。我が家の品格が疑われる!お前のその非常識で貴族令嬢とは思えない考え方をただすためにも、修道院に行ってもらう。
もちろん、修道院からは一生出る事は出来ない。お前はそれだけの罪を犯したのだからな」
「どうして私が、修道院なんかに行かないといけないのですか!絶対に嫌です。とにかくジョージ様と…ジョージ様!」
僕を見つけたメリンダ嬢が、こちらに駆け寄ってきたのだ。
「ジョージ様、聞いて下さい。お父様が“お前は王妃になれない事が正式に決まった。お前を修道院に入れる“なんて酷い事をおっしゃるのですよ。ジョージ様と私は、愛し合っているのに。
ジョージ様からお父様に、何とか言ってやってください!」
ポロポロと涙を流しながら、僕の元にやってきたメリンダ嬢。抱き着こうとしたところを、スッとかわした。
「ファッショレ侯爵の言う通りだよ。君は王妃にはなれない。そもそも君に王妃になる資格はない。この紙に、見覚えがあるだろう?」
5年前、婚約者候補が決まった時、自分たちは婚約者候補が重大な病気または命を落とした場合以外の例外を除き、王太子ジョージの婚約者候補を放棄する事を、ここに誓います。
そう書かれている紙に、僕と年齢の近い侯爵以上の令嬢たちは、皆サインをしている。
「これは…」
「まさか僕の知らないところで、こんな紙に令嬢たちがサインをしていただなんて、知らなかった。この紙にサインしていた令嬢たちが、よく僕や君を睨んでいたが、全て理解できた。
誓約書にサインをしているにも関わらず、ルールを破って僕に近づいた君を、令嬢たちは軽蔑していたのだろう。そしてそんな君を愛した僕にもね…
サリーが体調が悪かったのも、全て僕のせいだったんだね。それなのに君は、僕の事が嫌いすぎて、サリーは体調を崩したと嘘を付いたね。君は僕に魔力を提供する事を、一番に拒んだそうじゃないか。
君こそ、僕になんて興味がないのだろう?」
「違いますわ、私は…」
「もう君のその演技にも、うんざりだ。君は王族との契約書を破った。その上、本来得るはずだったサリーの権利すら奪ったんだ。決して許される事ではない。もちろん…僕が犯した罪も、許される事ではないがね
僕は今後、この生涯をかけてサリーに償っていくつもりだよ。君の生涯をかけて、己の罪を修道院で償い続ける事だね」
はっきりとメリンダ嬢に告げた。すると、今まで涙を浮かべていたメリンダ嬢が、ギロリと僕を睨んだのだ。
「何が生涯かけてサリーに償っていく…よ。結局ジョージ様だって、サリー様の事を何にも見ていなかったじゃない。サリー様がこの状況を知らない伯爵以下の令嬢から嫌味を言われていたことも、家族から疎まれずっと孤独で苦しんでいた事も、魔力がずっと不足して、いつも辛そうにしていたことも、何にも知らない癖に。
確かに私は、サリー様に酷い事をしたわ。魔力だけ提供させて、サリー様から王妃の座を奪おうとした。でも、サリー様はある意味よかったのではないかしら?
サリー様の叔母様は、サリー様が置かれている状況に激怒して、自分の養子にしたうえでマレリス王国に連れて帰ったのでしょう?きっと今頃、叔母様から沢山の愛情を与えられて、幸せに暮らしているのではないかしら?
サリー様、ああ見えて美しい方だから、今頃マレリス王国で新しい婚約者を作っているかもしれないわね。きっともう、ジョージ様の事なんて忘れて、幸せに暮らしているわ。
命を削って助けたのに、あっさり他の女にうつつを抜かす、恩知らずの尻軽王太子の事なんて忘れてね!」




