第80話:愚かな自分【その5】~ジョージ視点~
「父上、確認したい事があるのですが、お時間を頂いてよろしいでしょうか」
「ジョージか…一体何の用だ?メリンダ嬢との婚約の件か?教育係から話は聞いている。今のメリンダ嬢では、とてもではないが王妃は務まらない。それにまだ、貴族たちからも根強い反対が…」
「メリンダ嬢の事もそうなのですが、その話は後にして下さい。サリーが僕の為に魔力を提供していたという話は、本当ですか?」
その言葉を聞き、一瞬目を大きく見開いた父上。だが、すぐに真顔に戻った。
「ああ、本当だ。サリー嬢は、お前が発作を起こし始めたときから4年もの間、ずっとお前に魔力を提供してくれていた。お前の婚約者候補の条件として、魔力の提供が義務付けられていたからな。
魔力の提供は、激しい痛みはもちろん、相当体に負担がかかる。よほど愛情がないと、とてもではないが続けられない。現にジョージの婚約者候補を決めるとき、ローレティエン公爵家以外難色を示したのだよ。そんな中、サリー嬢が自ら立候補した。
サリー嬢は
“私にとってジョージ様は大切な人です。ジョージ様のお力になれるのなら、喜んで魔力を差し上げますわ”
そう言っていたよ。
その言葉通り、彼女は4年もの間、激痛に耐え続けた。日に日に顔色が悪くやつれていくサリー嬢を見ていると、本当に申し訳なくてな。
それなのにお前は…
今感情論を言っても仕方がない。これがその時の映像だ。それから、サリー嬢がジョージに魔力を提供する映像も、この魔道具に残っている。自分の目で、真実を確かめるといい」
父上が、膨大な資料と魔道具を渡してきたのだ。
やはり、令嬢たちが話していたことは、本当だったのだな。だから父上や母上はもちろん、侯爵以上の貴族たちは、僕とサリーの婚約を望んだ。それが一番最初の契約だったからだ。命を削り4年もの間、魔力を提供してきたサリー。そんなサリーが、王妃になるのは当然と考えても無理はない。
それなのに、僕は…
自室に戻ると、震える手で魔道具を手に取った。そこには僕の婚約者候補を選ぶときの会議の様子がうつされていた。令嬢たちが言っていた通り、一番最初に拒絶の意思を示したのが、メリンダ嬢だ。
心底嫌そうな顔をしている。周りにいた令嬢たちも、メリンダ嬢の姿を見て顔が引きつっている。そんな彼女たちも、僕の婚約者候補になる事をやんわりと断っていた。そんな中、名乗りを上げたのはサリーだ。
父上の言った通り、彼女は僕の為に魔力を捧げると、自ら申し出てくれたのだ。穏やかに僕の話をするサリーを見ていたら、自然と涙が込み上げてきた。
別の魔道具を手に取った。どうやらサリーが初めて僕に魔力を提供する様子が、写されている。苦しそうに眠る僕に、サリーが一気に魔力を放出している。やはり激痛が伴うのか、痛みから悲痛な表情を浮かべながらも必死に魔力を提供するサリー。
「頼む、もう止めてくれ。サリー、お願いだ」
気が付くと、映像に向かって叫んでいた。
どうやら魔力の提供が終わったのか、ぐったりとその場に倒れ込み、意識を飛ばしてしまったようだ。意識を飛ばすほど辛い行為なのに、また僕が発作を起こすと、すぐに魔力を提供してくれたサリー。
本人はかなり苦しそうなのに、僕が穏やかに眠る姿を見てほほ笑んでいた。
この子は、どこまで優しい子なのだろう。こんなに辛い思いをしたのに、僕に笑顔を向けてくれていただなんて。それなのに、僕は…
「ごめんね、サリー。君がこの4年、僕の為に魔力を注いでくれていたのに。そのお陰で、僕は今元気に生きていられるのに…それなのに、僕は…」
あろう事か、君を裏切り、別の令嬢にうつつを抜かした。サリーが体調が悪かったのは、僕に魔力を与えていたからなのに。そうとは知らず、僕はサリーに酷い事をした。
命の恩人に、酷い仕打ちを…
僕はなんて事をしてしまったのだろう。後悔してもしきれない。
それにしても、メリンダ嬢。あの女、辛い事は全てサリーに押し付けて、美味しいところだけ持って行こうとしていたのか。そんな女の言う事を信じ、まんまとメリンダ嬢を愛してしまった僕は、どこまで愚かだったのだろう。
他の貴族たちが言う通り、メリンダ嬢を王妃になんて絶対にさせてはいけない。彼女にその資格など、元々なかったのだから。




