第79話:愚かな自分【その4】~ジョージ視点~
父上に話しをしに行こうとした時だった。母上と夫人たちが、お茶をしている姿が目に飛び込んできた。サリーがこの国を出て行ってから、すっかり元気をなくした母上を心配した公爵夫人や侯爵夫人たちが、王宮にお茶をしに来ていたのだった。
母上はサリーを随分と気に入っていたせいか、未だにサリーの事を引きずっているのだ。そんな母上を慰める夫人たち。
その少し離れた場所では、彼女たちの娘たちが、こちらもテーブルを囲み、お茶をしていた。あの子たち、いつもメリンダ嬢を睨んでいた子たちだ。
何だか彼女たちの会話が気になり、そっと近づいた。
「聞いた?メリンダ様、王妃教育が全く進んでいない様よ。どうやら王妃教育についていけずに、我が儘ばかり言っているそうよ」
「そちゃそうでしょう。あの子、努力する事が嫌いな子でしょう?それにしても、図々しい子よね。辛い事は全てサリー様に押し付けて、美味しいところだけ持ってこうとするのだから」
「本当よね、そもそもメリンダ様、殿下の婚約者候補を決めるとき“私は痛いのは苦手なので”と言って、真っ先に候補者から降りたくせに!本当にあの女の図々しさには腹が立つわ」
「サリー様、今頃どうしていらっしゃるかしら?4年もの間、殿下にずっと魔力を捧げていたのでしょう?殿下は特に魔力が不安定で、相当体に負担がかかっていたのよね。日に日にお窶れになっていくサリー様を見たら、なんだか胸が苦しくて」
「私もよ、何かお言葉を…と思っていたのだけれど、結局お声がけが出来なかったわ。あんなにお元気だったのに…4年もの間、激痛に耐え、命を削りながら魔力を提供し続けた相手が、他の女にうつつを抜かしていたら、私なら怒り狂うわ」
「そうよね。私だったら別の女にうつつを抜かした時点で、魔力の提供を拒否するわ。それなのに、サリー様はけなげに魔力を提供し続けて…サリー様の事を考えると、どうしてもメリンダ様を受け入れる事なんてできないわ。
魔力を提供する代わりに、殿下と結婚できるというルールがあったにもかかわらず、魔力だけ提供させられて、婚約はしません!だなんて、本当に殿下にも腹が立つわ。そもそも治療が完了するまで、魔力を提供しているという事を、殿下に話してはいけないということ自体おかしいのよ。
何が殿下が気を使うからよ、その結果、サリー様が辛い思いをしただけになったじゃない!私、やっぱりメリンダ様が王妃になる事だけは、納得が出来ないわ。というよりも、サリー様以外、殿下の婚約者にふさわしい人はいないのよ!」
「そうよね、でもサリー様は、マレリス王国に行かれたのでしょう?家族からも酷い扱いを受けていたみたいだし。きっともう二度と、こんな国になんて帰りたくないかもしれないわね」
「サリー様、マレリス王国で幸せになれているといいわね…この国で苦労した分、何倍も」
「そう考えると、やはり殿下の結婚相手は別の方になるのでしょうね。でも、この国の令嬢で殿下の婚約者になりたいと思う人なんて、メリンダ様以外いないのではなくって?もちろん、サリー様の事を考えると、私は御免だわ。
第一私たちは、婚約者候補を決めるときに、“特別な理由がない限り、婚約者になる事を放棄する”という書面にサインしているもの。今お父様がその件に関して、貴族たちを集めてメリンダ様を訴えようと準備をしているところよ」
「家のお父様も言っていたわ。あの契約書は、王族と貴族の大切な契約書だから、破れば国家反逆罪になると!犯罪者が、王妃になんてなれるわけがないもの。もちろん私も無理だし。
そうなると、他国から王女様でも迎え入れるのではなくって?他国の王女様とかなら、私たちもまだ受け入れられるものね」
「そうよね」
一体どういうことだ?サリーが僕に魔力を提供していた?そんな話、聞いたことがない。そもそも、魔力を他人に提供するという事は、相当肉体的な苦痛や負担がかかるものだ。そんな行為を、4年も?
あり得ない…
とはいえ、あれほどまでに貴族たちが僕の婚約者はサリーしかいないと言い切っていたことを考えると、納得がいく。
それにサリーが体調を崩し出したのは、僕の婚約者候補になった時期からだ。そう考えると、つじつまが合う。それに何よりも、令嬢たちが嘘を付いている様には見えないし、こんな場所で、嘘を付く必要なんてない。
それじゃあ、サリーは…
とにかく、一度父上に確認しないと。父上なら、全てを知っているはずだ。
そう思い、急いで父上の元へと向かったのだった。




