第78話:愚かな自分【その3】~ジョージ視点~
「ジョージ様、サリー様が私たちの事を認めて下さいましたね。これで私、ジョージ様の婚約者になれるのですね。嬉しいですわ」
いつの間にか僕の隣にやって来ていたメリンダ嬢が、嬉しそうに呟いている。メリンダ嬢が、僕の婚約者に…
そう喜んだのも束の間。貴族たちからは、まだ反対の声が。完全に会場が混乱してしまったため、結局その日は早々にお開きになった。
自室に戻った後も、最後のサリーの顔が脳裏に焼き付いて離れない。サリー、泣いていたな。それなのに、必死に笑顔を作ろうとしていた。
泣くくらい、僕の事を大切に思ってくれていたという事なのか?わからない、サリーの事が。
その時だった。
母上が僕の部屋を訪ねてきたのだ。
「ジョージ、サリーちゃんはあなたの婚約者にならない事が、正式に決まったわ。ローレティエン公爵も、それを受け入れてくれたの。それからサリーちゃんは、近々母親の双子の妹でもあるアマリリスの養子になり、彼女が住むマレリス王国に行く事に決まったわ。
きっと、もう二度とこの国に戻ってくることはないでしょうね。ジョージ、あなたがメリンダ嬢と結婚しようが、もう私は何も言わないわ。好きにしなさい」
母上が淡々と話していた。
「マレリス王国の叔母上の家に、サリーが?確かに公爵とは不仲でしたが、どうして急にマレリス王国に?それも養子だなんて」
「それを聞いて、どうするの?ジョージにはもう、関係ない事でしょう。とにかく、もうサリーちゃんの事は、忘れなさい。それがあなたが出来る。唯一の償いよ」
今にも泣きそうな母上が、急いで部屋から出て行った。一体サリーの身に、何が起こったのだろう…
とはいえ、サリーが正式に僕の婚約者候補から降り、父親でもある公爵からも許可が下りたという事は、これで正式にメリンダ嬢と婚約が出来る。
嬉しいはずなのに、どうしてこんなに胸がざわつくのだろう…
だがメリンダ嬢との婚約はそう思う様には、進まなかった。侯爵上の貴族たちが、猛烈に反対をしたのだ。
それでも何とか説得して、とりあえず王妃教育をメリンダ嬢に受けさせることにした。メリンダ嬢が無事王妃教育を終える事が出来れば、貴族たちもそのうち折れるだろう、そう踏んだのだ。
だが…
「ジョージ殿下、今日でメリンダ様の教育係を辞めさせていただきますわ。とても私には教えられません」
1週間もしないうちに、次々と教育係が辞めていくのだ。どうやらメリンダ嬢は、厳しい王妃教育が嫌で、我が儘ばかり言って教育係を困らせていた様だ。
「こんな事を申し上げたくはないのですが、メリンダ様は王妃の器ではございません。逆にサリー様は、どんなに体調が悪くても、必死に王妃教育を受けていらっしゃいました。サリー様は、本当にご立派な方でしたわ…」
サリーの教育係だった女性から、そう言われたのだ。サリーは体調が悪い中でも、必死に王妃教育を受けていたらしい。
それに比べて、メリンダ嬢は…
ついため息が出てしまう。
さらにメリンダ嬢は、使用人たちを顎で使っている様で、使用人たちからもクレームが来ている。実際使用人を怒鳴りつけている姿を目撃して、間に入った事もあるくらいだ。
これではとてもではないが、反対している貴族たちを納得させる事なんてできない。せめてもっと真剣に王妃教育を受けてくれたら…
そんな思いでメリンダ嬢に伝えたのだが…
「私だって、一生懸命頑張っておりますわ。でも、先生たちが私に意地悪をするのです。そうですわ、優秀な女性に王妃の仕事をやってもらい、私はジョージ様の子供を産む役を担うのはいかがでしょうか?そうすれば、面倒な王妃教育も免除されるでしょう?」
笑顔でそんな愚かな事を伝えてきたメリンダ嬢。
この子は一体、何を考えているのだろう。あり得ない…ここまで愚かだったとは…
どうして僕は、こんな子を好きになったのだろう。どこがよかったのだろう。メリンダ嬢ではとてもではないが、王妃になんてなれない。
こんな子が王妃になんてなったら、それこそ王家存続の危機に陥る。
それにしても、サリーは使用人たちからも、教育係からも人気があったのだな…僕は一体、サリーの何を見てきたのだろう。
落ちこんでいても仕方がない、とにかくメリンダ嬢では王妃が務まらない旨を父上に話さないと。




